看板娘という名の愉悦 Vol.85
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
東急東横線の元住吉駅。
今回訪れたのは、東口を出てすぐの「大衆酒場 ツネキチ」。
お勧めドリンクはレモンをキンミヤ焼酎に5日間漬け込んだ「自家製レモンサワー」(420円)。いただきましょう。
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こちらは慶應大学に通う恵梨華さん(20歳)。名古屋出身で双子の兄がいる。
「友達に『写真見せてよ』と言われますが、めちゃめちゃ人見知りで写真を撮らせてくれないんです。二卵性だから顔は似ていません」。
馬刺三種盛り(950円)と馬白子ポン酢(580円)を注文した。店長が馬肉業者と昵懇で、部位によって産地を分けて仕入れている。
コリコリとした食感の白子は馬の脊椎だという。
恵梨華さんは中学受験経験者。
「学校の授業が終わると塾の自習室に直行です。塾が急坂の上にあったから自転車は立ち漕ぎ。エントランスには親御さんからのお弁当がずらっと並んでいて。ほっともっととかの持ち帰り弁当の子もいたけど、うちはお母さんの手作り弁当でした」。
晴れて合格したのは中高一貫の女子校。
「塾の近くの公園で鬼ごっことかして遊んでいました。池で水遊びしてずぶ濡れで夏期講習を受けたり(笑)。別のメンツとは今どきのJKに憧れてプリクラを撮ったりしましたが、一番落ち着くのはこの6人組なんですよね」。
大学ではテニスサークルに入った。
「友達と新歓の説明会を見に行ってノリで決めたんですが、運動神経が悪いので難しすぎます。
楽しかった思い出も聞いた。
「6人組の中の5人で台湾に行ったんです。みんな食べるのが大好きなので、共通の財布を作って飲食代はそこから出しました。一番美味しかったのはカニおこわです」。
実家時代はほとんど料理をしなかったが、ひとり暮らしを始めてからはよく作るようになった。
写真を見ているうちに、またお腹が空いてきた。黒ホッピーセット(450円)、茄子の煮浸し(300円)、数の子わさび(320円)を追加注文。
恵梨華さんは20歳になったばかりで、お酒に関しては初心者だ。従って、以下のようなやり取りも見られる。
「景虎入りました~」と言いながらお猪口を持って2階に上がろうとする。それを見た厨房スタッフが「景虎は冷やだからグラスね」。「はい、わかりました」。
恵梨華さんはスタッフからの指示にも客からのオーダーにも「はい、わかりました」と返す。安い。美味い。フレッシュな看板娘がいる。それにしてもいい店だ。
この日は今日が初出勤だというアルバイトがいた。恵梨華さんは健気に指導している。
馬刺酒場を満喫したところでお会計。最後に読者へのメッセージをお願いします。
【取材協力】
大衆酒場 ツネキチ
住所:神奈川県川崎市中原区木月2-5-11
電話番号:044-434-3088
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石原たきび=取材・文