黒革のアウター。それはロックンロールの音がするダブルのライダーズジャケットを、あるいは映画の中のマフィアな男が着るテーラードジャケットを想像するかもしれない。

そんなユースやアウトローのためだけのものではない、まっとうな大人の男が似合う・魅了される理由を、個性派論客とともに提案してみたい。


モードな黒革を見て思う
先鋭ブランドはシブく、我々に寄り添う ~増田海治郎・文~

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CELINE セリーヌ
渋カジが流行した’80年代後半、それとは違う文脈で黒革のレザーコートが流行していた。どちらかと言うとDCブランドから派生した流れで、なんとなく渋カジ派からはバカにされていたような記憶がある。でも、’90年に日本公開されたガス・ヴァン・サント監督の名作映画『ドラッグストア・カウボーイ』のマット・ディロンは、そんな価値観を一変させた。当時25歳だった彼のレザーコート姿は、刹那的かつ破滅的なジャンキー役という点を差し引いても、異様にカッコ良かった。

さて、エディ・スリマンの手による2シーズン目のセリーヌのショーを見たとき、その変わりようにいささか驚きを隠せなかった。

エディのシグネーチャーであるロックテイストは不変だが、往年のフレンチシック(BCBG)のテイストが加わり、ずいぶん大人びた雰囲気になった。

増田海治郎さんが語る、45歳から似合う黒革アウターとは?
こちらは今季コレクションの2つのルック。全体の雰囲気は紛れもなくロックで、エディ・スリマンそのもの。でもどちらのアウターも、大人でも無理なく着られるサイズ感になっている。エディのセリーヌは、我々に優しいのだ。 © courtesy of CELINE

ただひたすらにスキニー推しだった時代とは違い、サイズ感が細すぎないのもオーシャンズ世代には朗報。この激シブな黒革のハーフコートも、ピタピタ感とは無縁で、いっさいの我慢を強いられない。素材は上質なカーフスキン。’70年代的なエレガンスを感じさせる少し大きめの襟、ウエスタン調のヨーク、シングル3つボタンのシンプルデザインは、ミレニアルズより枯れたオヤジのほうが確実に似合う。

若さは永遠じゃないし、僕らはあの頃のマット・ディロンには逆立ちしてもなれない。

でも、エディのセリーヌのレザーコートは、彼の過去の時代よりも、ずっと我々に寄り添っている気がする。挑戦するなら、今でしょ!

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増田海治郎さんが語る、45歳から似合う黒革アウターとは?
柔らかく鞣したカーフレザーによるスタンドカラーブルゾン。その特徴的なステッチワークやクルマのパーツをモチーフにしたジップタブは、ダークトーンにまとめた装いでポイントに。控えめなデザインだが華やかさが光る一着。ブルゾン42万円/ダンヒル 03-4335-1755、ニット1万8000円/エイチ ビューティ&ユース 03-6438-5230、パンツ3万2000円/オーラリー 03-6427-7141、靴3万円/ユクス(スティーブン アラン トーキョー 03-5428-4747)

DUNHILL ダンヒル
アルフレッド・ダンヒルは1893年、父親の馬具専門製造卸会社を引き継いだ。20代前半の若きアルフレッドが目を付けたのは、馬車に取って代わる存在として普及し始めた自動車。当時は野趣溢れるオープンカーがほとんどだったから、雨風をしのぐロングコートや視界を妨げないゴーグル、グリップに優れたレザーグローブなど、ドライブを快適にしてくれるウェアや小物の製造販売を始めたところ、瞬く間に自動車愛好家を魅了する存在に。

1902年には、自動車でアクセスしやすいロンドンのコンドイト・ストリート2に「モートリティーズ」をオープン。それは、自動車の「モーターリング」と権威の「オーソリティーズ」を組み合わせた造語で、エンジン以外のすべてを扱うエンスージアストのための店だった。

その後、ライターなどのタバコ関連製品、そしてスーツなどのプレタポルテに事業を広げ、英国紳士を代表するブランドとなるわけだが、現在も創業時の“エンスーな匂い”はちゃんと残っている。

増田海治郎さんが語る、45歳から似合う黒革アウターとは?
日本の着物からインスパイアされたシームレスなスリーブがユニークなこちらのルック。今シーズンのダンヒルは「二面性」を追求したという。確かに、エレガントでありワイルドだ。

自動車のパーツをモチーフにしたカフリンクスやタイバーもいいけれど、オーシャンズがリコメンドするのは、右のモダンなトラックジャケット風のブルゾン。マットな黒とのコントラストが印象的な白のステッチは、クリエイティブディレクターのマーク・ウェストン曰く「ヴィンテージカーのシートからインスパイアされたもの」。現代的なラグジュアリー・ストリートとダンヒルの伝統が融合した黒革ブルゾンは、趣味を楽しむ大人にこそ似合うと思う。

増田海治郎(ますだかいじろう)●ファッションジャーナリスト、編集者として活躍。著書『渋カジが、わたしを作った。

』(講談社)のタイトルからもわかるように、’72生まれのオーシャンズ同世代だ。

清水将之(mili)=写真 来田拓也=スタイリング yoboon(coccina)=ヘアメイク 増田海治郎、今野 壘=文