黒革のアウター。それはロックンロールの音がするダブルのライダーズジャケットを、あるいは映画の中のマフィアな男が着るテーラードジャケットを想像するかもしれない。
モードな黒革を見て思う
先鋭ブランドはシブく、我々に寄り添う ~増田海治郎・文~
CELINE セリーヌ
渋カジが流行した’80年代後半、それとは違う文脈で黒革のレザーコートが流行していた。どちらかと言うとDCブランドから派生した流れで、なんとなく渋カジ派からはバカにされていたような記憶がある。でも、’90年に日本公開されたガス・ヴァン・サント監督の名作映画『ドラッグストア・カウボーイ』のマット・ディロンは、そんな価値観を一変させた。当時25歳だった彼のレザーコート姿は、刹那的かつ破滅的なジャンキー役という点を差し引いても、異様にカッコ良かった。
さて、エディ・スリマンの手による2シーズン目のセリーヌのショーを見たとき、その変わりようにいささか驚きを隠せなかった。
ただひたすらにスキニー推しだった時代とは違い、サイズ感が細すぎないのもオーシャンズ世代には朗報。この激シブな黒革のハーフコートも、ピタピタ感とは無縁で、いっさいの我慢を強いられない。素材は上質なカーフスキン。’70年代的なエレガンスを感じさせる少し大きめの襟、ウエスタン調のヨーク、シングル3つボタンのシンプルデザインは、ミレニアルズより枯れたオヤジのほうが確実に似合う。
若さは永遠じゃないし、僕らはあの頃のマット・ディロンには逆立ちしてもなれない。
DUNHILL ダンヒル
アルフレッド・ダンヒルは1893年、父親の馬具専門製造卸会社を引き継いだ。20代前半の若きアルフレッドが目を付けたのは、馬車に取って代わる存在として普及し始めた自動車。当時は野趣溢れるオープンカーがほとんどだったから、雨風をしのぐロングコートや視界を妨げないゴーグル、グリップに優れたレザーグローブなど、ドライブを快適にしてくれるウェアや小物の製造販売を始めたところ、瞬く間に自動車愛好家を魅了する存在に。
1902年には、自動車でアクセスしやすいロンドンのコンドイト・ストリート2に「モートリティーズ」をオープン。それは、自動車の「モーターリング」と権威の「オーソリティーズ」を組み合わせた造語で、エンジン以外のすべてを扱うエンスージアストのための店だった。
その後、ライターなどのタバコ関連製品、そしてスーツなどのプレタポルテに事業を広げ、英国紳士を代表するブランドとなるわけだが、現在も創業時の“エンスーな匂い”はちゃんと残っている。
自動車のパーツをモチーフにしたカフリンクスやタイバーもいいけれど、オーシャンズがリコメンドするのは、右のモダンなトラックジャケット風のブルゾン。マットな黒とのコントラストが印象的な白のステッチは、クリエイティブディレクターのマーク・ウェストン曰く「ヴィンテージカーのシートからインスパイアされたもの」。現代的なラグジュアリー・ストリートとダンヒルの伝統が融合した黒革ブルゾンは、趣味を楽しむ大人にこそ似合うと思う。
増田海治郎(ますだかいじろう)●ファッションジャーナリスト、編集者として活躍。著書『渋カジが、わたしを作った。
清水将之(mili)=写真 来田拓也=スタイリング yoboon(coccina)=ヘアメイク 増田海治郎、今野 壘=文