自らのセンスをもの作りに注ぎ込むファッションデザイナーは、腕時計をどのように捉えて、どう選んでいるのか。非常に気になるところ。
そこで、オーシャンズ世代であり、我々も愛してやまないブランドを率いる歴々に、次に狙う時計を聞いてみた。ならではの観点が、新たな視座を与えてくれるかもしれない。
A. LANGE & SÖHNE
A.ランゲ&ゾーネ/グランド・ランゲ1

自ら率いるホワイトマウンテニアリングほか、数々のブランドのディレクションも手掛ける相澤さん。42歳を迎えた記念に購入した腕時計は、別のモデルだったそうで、その際に最後まで悩み迷ったのが、こちらのモデルなんだとか。
「プロダクトとしての確かな存在感に惹かれます」
もの作りに際して、徹底的にアーカイブを紐解く研究者肌の相澤さんが次に狙うのは、名門A.ランゲ&ゾーネの顔「ランゲ1」のビッグサイズモデルだ。
「スポーティな時計を何本か所有していますが、ジャケットに合わせるには少しカジュアルすぎるかなと。そこでフォーマルな場にも合うシックな時計が欲しい、という目線が40歳を境に加わりました。この時計には重厚感があり、ドイツプロダクトとしての質実剛健さが備わっています。今年はヴァシュロン・コンスタンタンの『ヒストリーク・アメリカン1921』を購入しましたが、より正統派をという理由で今最も手に入れたい1本です」。
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ジャガー・ルクルト/レベルソ・クラシック・スモール


元ファッション誌編集者でもある児島さんが、ヴィンテージ愛からあらゆる古着を調べ続けることから生まれる、キャプテン サンシャインの骨太な魅力。腕時計選びにも、そうした古き佳きものへの愛情が垣間見られるのが面白い。
「現行品らしからぬ“小ぶりの角金”僕のツボを押さえてますね」
「僕が普段着けるのは、基本的にはアンティークウォッチなんです」。児島さんの服を知る人ならば、容易に想像がつくかもしれないが、もし買うならということで選んでくれたのが、一般的にはレディスサイズとしても人気がある金の「レベルソ」だ。
「この時計は現行モデルですが、“アンティークの角金”の雰囲気を纏う、いわば永遠のクラシックウォッチ。小ぶりで控えめな佇まいがそう感じさせてくれるのだと思います」。
こちらは、ギョーシェの彫りが深まり、いっそう質感が向上した最新モデル。男女展開にこだわらずに選べるセンスは、さすがデザイナーといえよう。
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カルティエ/タンク アメリカン MM


カルチャーのある服作りを心掛ける渡辺さん。複数所有する時計の中でも、歴史的背景の豊かなカルティエは、特別な存在だそう。愛用するのは「タンク ソロ」から買い替えた「タンク ルイ カルティエ」。さて、次なる1本は?
「MA-1に合わせるカッコ良さを、一生に一度はトライしたい」
「現在愛用している『タンク ルイ カルティエ』も、欲しい気持ちを熟成させて手に入れたもの。普遍的な美しさとともに、ルイ・カルティエ本人が愛用していたエピソードにも惹かれていました」。あくまで次に? と聞かれたからと前置きしつつ「タンク アメリカン」の魅力を語る。
「ベゼルに存在感のあるこの時計は、タンクの中でも特に男性的なデザインだと思っています。スタイリストの馬場圭介さんが’90年代にMA-1に合わせていたことが憧れたキッカケ。以来心のどこかでずっと欲しいと思っています。でも、買うのは当分先。死ぬまでには手に入れたいですね(笑)」。
NONNATIVE × SEIKO
ノンネイティブ×セイコー/タイムキーパー


着る服も、作る服も王道から少しハズすのが藤井さん流のアメカジ。「袖口がもたつかない、あまり目立たないものを」という時計選びは、高級時計でも、カジュアルウォッチでも装いをスマートに見せたいという思いが垣間見える。
「男性なら誰もが心を動かすミリタリーウォッチを自分流に」
「実用性に優れたスポーツウォッチが好き」と語る藤井さんが次に欲しいと回答してくれたのは、自身が手掛けるノンネイティブとセイコーによるコラボモデルだ。本当に自分が身に着けたくなるもの、とその出来映えに自信を覗かせる。
「セイコーの既存モデルをベースにして、回転式インナーベゼルを備えたダイヤルや針など、細かくデザイン。ケースにはあえてマット仕上げを施したり、ベルトにいたっては一から型を起こしました」。
製作には実に2年を費やしたというミリタリーウォッチ。微に入り細に入り、藤井さんのこだわりが詰まった1本。言うまでもなく、僕らも大好きなアメカジとの親和性も抜群だ。
※本文中における素材の略称は以下のとおり。SS=ステンレススチール、K18=18金、PG=ピンクゴールド、WG=ホワイトゴールド
渡辺修身=写真 柴田 充、髙村将司、増山直樹、渋谷康人=文