箱根駅伝を面白くする10句●正月の風物詩といえば箱根駅伝。毎年視聴率30%を叩き出すモンスターコンテンツは、見る人の数だけ感動がある。
【1句】
箱根駅伝の日はビールの前にTwitterを開けなさい
箱根駅伝では数々の名場面が生まれています。けれども、それはあくまでもテレビに映ったシーンだけの話。
テレビで優先されるのは勝ち負けとタスキ渡し。例えば、名物応援団など、放送されないけれど、コースの内外で数々の名シーンが生まれているんです。箱根駅伝は、見る人の数だけドラマがあるんですよ。
では、どうやってそれを探すか。そのために必要なのがTwitterでございます。
箱根駅伝は情報戦です。普通、情報戦というと水面下で行われるものですが、箱根駅伝に関してはTwitterが舞台。
一昨年には、箱根駅伝のオフィシャルスポンサーであるサッポロビールが、テレビを見ながら、おせちを食べ、手元でTwitterを開くというCMを流しました。箱根駅伝のオフィシャルスポンサーも今や、箱根駅伝にTwitterは欠かせないと認めているのです。
NEXT PAGE /【2句】
AM7時「黒壁のドラマ」を見逃すな
箱根駅伝のスタートは8時。けれども、まずは6時にTwitterを開いて、初心者の方は「#箱根駅伝」と検索してください。すでに箱根駅伝の情報戦は始まっていますから。
この時間、スタート地点の大手町で何が起こっているかというと、選手たちが入ってくるんです。各区間を走る選手は事前に発表されているのですが、実はこれはダミーだと思ってください。
とくに東洋大学などは、「当日にどういう変更があるか」をファンも楽しみにしているところがあります。
主力選手を往路、復路、どこに配置するかで、その大学の戦略を読み取ることができる。あまり知られていない1年生が入っていたり、今季目立った実績をあげていない選手が入っていたら、その選手は変更を前提としてエントリーされた選手である可能性が高い。
本当のメンバーがわかるのが、当日の朝7時なんです。
大手町の読売新聞本社前に建つ、箱根駅伝のエントリー変更の模造紙を貼るためだけにあるんじゃないかと思われる、黒い大理石の壁にそのリストが貼り出されるのです。
けれども、エントリー変更が発表される前から大手町では、1区を走る選手たちがアップを開始しています。ここで走っている選手を見て、本当のエントリーがいち早く判明するのです。
そこから、箱根駅伝ツイッタラーの「俺は見た!」という選手の目撃情報がTwitter上に溢れかえります。
時間を追って、鶴見中継所では「2区に〇〇選手が入りました!」など、各地から最新情報も上がってきて、そこで各校の本当の戦略がわかってくるわけです。
このとき、正月早々、僕は胸が切なくなります。
それは、事前エントリーから外れた選手たちのことを想像してしまうから。彼らは自分が変更されるとわかっていても、メディアでは箱根出走メンバーだと発表されるわけです。10年ぶりに同級生から連絡が来たり、親戚一同が大盛り上がりをしていても、決して「自分は走らない」とは言えない。
続々と上がってくる目撃情報を確認しながら、読売新聞や報知新聞を開いて、そこに載っている変えられた選手の顔を覚えておいてください。
もしかしたら彼らは来年度、この経験をバネにして、箱根駅伝を走るかもしれませんから。
NEXT PAGE /【3句】
自分なりの名場面を見つけるために
箱根駅伝以外、駅伝を見たことがないという人も、朝6時からスタートの8時までのTwitterを見ていれば大丈夫。箱根駅伝以外の363日の出来事はほとんど復習できるし、今日はどこが面白くなりそうかというのも、ズバズバ入ってきます。
例えば、2013年。東海大学はエース村澤明伸選手の故障が響き、予選落ちします。そこで村澤選手は学連選抜で走ることになった早川翼選手の給水役を買って出たのです。
誰が給水をするかはオフィシャルには発表されていませんが、Twitter上には「あそこに村澤選手がいる!」という空気が、現地から続々とアップされてくる。
僕はそれを見て、一か八か、権太坂の手前まで行ったところ、そこに村澤選手がいたんです! 彼を見つけたときの喜びたるや。村澤選手が給水役で早川選手と並走するという、テレビ中継では報じられない姿を目の当たりにすることができました。
こうやってTwitterを追っていると、どんどん自分なりの名場面ができてくるんです。
NEXT PAGE /【4句】
覚えておくべきハッシュタグがある
今や各大学や選手もTwitterを活用しています。例えば、走り終わった選手が感想を報告したり、「僕の写真を撮った人はください」とファンにお願いすると、みんなが「よろしければどうぞ」とアップしていく。
循環される文化がそこにはあるんです。
箱根におけるTwitterの先駆者が、山の神と呼ばれた東洋大学OBの柏原竜二さんです。
あるとき、Twitterを楽しむファンのもとに箱根のミラクルヒーロー・カッシーが現れて、好きなアニメのことなどを赤裸々に語り出したんです。
そのインパクトたるや、一夜にして、フォロワー数が為末大選手を抜き去った。
柏原選手のお陰で、箱根駅伝にTwitterは欠かせないものになったのです。
一方で、柏原選手が卒業して以降、東洋大学ではTwitterが禁止になっています。駒澤大学もTwitterは禁止。逆に青山学院大学は開かれていて、選手もTwitterアカウントを持っています。
ただ、140文字しか書けないTwitterでは「しっかり伝えたいこと」が伝えきれない短所がある。連続ツイートをすると、言葉だけが切り取られて独り歩きしてしまうことも。
だからこそ「しっかり伝えたいことがある場合は、Twitterではなく長文が書けるnoteなどを使うべき」と、最近柏原さんと話したときに伺いました。Twitter黎明期と箱根駅伝での活躍を同時進行で経験した柏原さんのひと言には重みがあります。
「#箱根駅伝」からさらに掘り下げたい人は、各大学の動向をチェックするといいでしょう。とはいえ、ただ大学名を入れても、そこにはアツい情報はアップされてきません。
実は各大学を表す独自のハッシュタグが存在していて、熱心なファンや部員たちがアップするピチピチの情報は、そこに集約されるのです。
例えば、大学のハッシュタグはこういう感じです。
東海大学 #GoTOKAI
青山学院大学 #やっぱり大作戦
東洋大学 #怯まず前へ
駒澤大学 #男だろ
早稲田大学 #臙脂を誇れ
全体を追いたい僕の友人のなかには、スマホでなくパソコンでハッシュタグごとにタブを作ってウォッチしている人もいます。
箱根駅伝はテレビで観るものだと思っていたら、あなたは乗り遅れています。
今や箱根駅伝はデジタル時代。ぜひTwitterを活用して、勝ち負け以外のドラマを楽しんでほしい。
ちなみにそういった方々の手引きとなる本が、我々が監修した「あまりに細かすぎる箱根駅伝ガイド! 2020」です。ここまでの話を面白いと思った方はチェックしてみてください(笑)。
林田順子=取材・文