アウトドア好きだけでなく、ファッション好きからも支持されるワイルドシングスの定番アウター「デナリジャケット」。もはや恒例となったノンネイティブとのコラボレーションも3シーズン目を迎え、いよいよ今冬もリリースされる。
写真集『奇界遺産』やテレビ番組「クレイジージャーニー」への出演で知られるカメラマン佐藤健寿さんは、そのファーストシーズン・モデルを愛用。実際に着用して世界各地を旅しているという。
そんな佐藤さんをゲストに迎え、ノンネイティブのデザイナー藤井隆行さんとともにコラボ作の魅力を探ってみたら、クレイジーすぎるモノ語りが浮かび上がってきた。
佐藤健寿流、街と旅をシームレスにつなぐ服選び
――佐藤さんはノンネイティブのユーザーで、しかもコラボの「デナリジャケット」も愛用されているとか。

佐藤 はい。かれこれ長らくノンネイティブは好んで着ています。格好いいというのはもちろんですが、TNP(ノンネイティブの母体)代表のサーフェン智さんが発行している雑誌「トランジット」でも仕事をよくさせていただいているところからも、つながっていますね。
藤井 健寿くんの服選びは気になりますね。いつもシュッとしているし、「機能的であればなんでもいい」というタイプではなさそう。
佐藤 いわゆるファッション好きというほどではないですけど、買うものは服でもギアでも色々こだわる方かもしれないですね。今日はいているパンツも、ノンネイティブ×グラミチのスタイリスト私物別注です。

藤井 去年のやつですね。ありがとうございます。
佐藤 基本的には、撮影に行くときと東京にいるときの差が極力ないモノ、ですね。
藤井 あぁ、わかる気がする。
佐藤 実際、今日のような格好のまま旅に出ますから。先日、撮影でモンゴルに行ったときもこんな感じ。もちろん、「今回はかなり汚れるな」と確信したときや本当に過酷な環境に行くときは、それなりのスペックの服を選びますけどね。命にかかわることもありますし。ノンネイティブは、街でも着るので汚したくないんですが、着心地がいいからつい僻地でも着てしまうんです(笑)。

匿名的であることの正義
佐藤 現実問題として、旅に出るときは荷物を多くしたくないという理由もあります。街用とフィールド用と別々に用意するとかさばりますからね。あと、「それっぽい」格好がそれほど好きじゃないんです。
藤井 なるほど。ベタなやつね。

佐藤 バックパッカーって、なんか「バックパッカー然」としているじゃないですか。
藤井 エマージェンシーカラーとかクレイジーパターンとか。
佐藤 それが悪い、というより、ティピカルに見えるのが嫌というか。バックパッカーでもアウトドアでも、何かのカルチャーに乗っかった人が無意識的にコスプレしちゃう感じが嫌なんです。やってることも行く場所も関係なく、いつもニュートラルでいたいし、日常の延長線上で旅に出て、そのまま帰ってくるというのが理想なんですよね。
藤井 健寿くんの中では旅と日常が別れてないんだ。そういう目線で見たときに、ノンネイティブの服ってどう映りますか?
佐藤 まず、高機能ですね。
藤井 機能を言われるのはうれしいですね。僕らもクリエイティブのために旅に出たり、結構ハードな環境に身を置くことがあります。そういうときは、本格アウトドアウェアほどでなくても機能的な服を着たい。だから、アウトドアブランドが持っていないファッションの要素を、僕らはコラボレーションすることで加えている。

佐藤 まさにその感覚です。機能優先で選んでも、結果的に見た目も良いからラクなんです。ノンネイティブは、ほかのブランドみたいにブランドのロゴがガッツリ入っているわけではないし、ファッション業界の玄人も唸らせるのに、素人が見ても格好いいと思わせる普遍性がある。そういうマニアックな部分と、考えずに着られる着やすさのバランスが、自分のライフスタイルにマッチしています。
――そういう人ほど、自分の服選びのタネって明かしたがらないですよね。
佐藤 そうなんです。ファッションで注目されるのも恥ずかしいから、普段あんまりどのブランド着てるとかいちいち言わないんですけど。だから、今回の取材受けるのためらいました(笑)。
藤井 ついにバレちゃったね(笑)。
ノンネイティブによる、噂のコラボ・デナリ登場!
藤井 今回紹介したい「デナリジャケット」も愛用してくれてますもんね。
佐藤 そうですね。ファーストモデルのカラシ色です。
――藤井さん、「デナリジャケット」の説明を改めて伺っていいですか?

藤井 アメリカのアウトドアブランド、ワイルドシングスが’80年代にリリースして’90年代に大人気となった中綿の防寒着です。うちはコラボレーションして今回で3回目になりますが、いろいろとマイナーチェンジやアップグレードをして、今に至ってますね。シェルは、ヨーロッパの防水透湿素材「イーベント」を使っていて、これはオリジナルに忠実に。中綿は通常プリマロフトなんですけど、コラボだとゴールドシリーズという上級ラインを使ってます。
佐藤 へぇ。ほかにもオリジナルと違うところがあるんですか?
藤井 まずは、シルエットです。細かな違いはちょっと企業秘密ですが(笑)、わかりやすいところで言うと、オリジナルはセットインですが、ラグランスリーブに。そして、裾のカッティングにダーツをとって立体感を出しています。

佐藤 ちょっとモッズコートのような裾の感じになってますね。なるほど。
藤井 あとは肘にもダーツを入れて立体裁断にして動きやすく。裏側にシームテープを貼って防水性も強化しました。

佐藤 結構、変えてるんですね。
藤井 オリジナルの印象はそのままにスタイリッシュに見えるようにしてますね。ディテールも不都合を感じると変更しています。ファーストモデルは、ポケットのジップがメタルだったので重かったのと、寒い場所では冷たいんですよ。セカンドモデルからビスロンに変えてそれを解消しました。あとは細かいところですが、フロントフラップの面ファスナーのオス・メスを反対にしました。

佐藤 なんでですか?
藤井 袖口のアジャストストラップの面ファスナーがオスなので、フロントのメスと噛み合っちゃうんですよ。だから、袖を動かすと面ファスナー同士がくっついちゃう。そこでフロント側をオスとメスを反対にしたんです。ひとまず、着てみてくださいよ。


佐藤 ジップが冷たいのは気になってました。何気にストレスだったかも(笑)。面ファスナーは、気になってませんでしたが……ロゴも少し変えてます?

藤井 よくわかりましたね! 最新のモデルでは、グログランテープに同色のワイルドシングスのロゴ刺繍を入れて、胸にパッチしています。これだけでも通常の織りネームの10倍くらいのコストがかかってる(笑)。着たときの格好良さは、どのアウトドアウェアよりも格好いい自信あり!
佐藤 確かに格好いい。

藤井 あとは日本製という点もこだわり。ワイルドシングスはアメリカのブランドですけどね(笑)。服作りの技術は今、中国やベトナムも相当高くなってきていますが、僕ら日本のブランドがそっちに流れてしまうと産業が残らなくなってしまう。日本製を大事にすることで、これからモノ作りをしたい若い人たちにも、きちんと日本製の価値を知ってもらいたい。海外のブランドと僕らがコラボレーションする意義にもなっています。
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――“残らなくなる”といえば、佐藤さんは「奇界遺産」に代表されるように、じきになくなってしまいそうな場所をよく撮影されていますよね。それはなぜですか? ある種のノスタルジー、ですか?
佐藤 ノスタルジーとは少し違うんですが、その存在がなくなる前に撮りたい、という思いは少なからずあります。自分が過去の写真を見たときに、’70年代、’80年代の写真に対して「悔しいな」と思うことがよくあるんですよ。
一同 なるほど。

佐藤 今は、もう存在しない。ということは、撮りたくても撮れないわけですよね。その時代、その瞬間でしか撮れないモノを、かつての写真家は撮影してきた。だから自分もそうあるべきというか、思い立った瞬間に撮りにいかないといけないとは常々思ってます。さらに言えば、これから出てくる新しい写真家に誇れるものがあるとすれば、結局、現在この時代を撮っている、ということしかないと思う。逆にいえば、未来のものは彼らにしか撮れないからこそ、そう思うんですけど。
藤井 その意味で言うとノンネイティブは、そういう人たちが買いたいと思ったときに、常にそこに用意されているイメージ。長く愛して欲しい。サステイナブルとか言われますけど、あれって捨てなければいいだけの話。ブランドや服への愛着があればこそ、物持ちもよくなるわけですから。
佐藤 そうなると、新たな購買意欲を持たせるのって難しくないですか?

藤井 そのとおり。だからウチは定番的に作っているモノも多いんです。そして、この「デナリジャケット」じゃないですけれど、細かくディテールを進化させてさりげなく物欲を刺激しつつ……演歌のように地道にやっています(笑)。
佐藤 そういう真摯なモノづくりに惹かれてしまうんですよね。
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藤井 そういえば健寿くん、最近カメラバッグを作ったんだって?
――なんと、最後に告知ですか?(笑)
佐藤 そういうつもりはなかったんですが(笑)。ポーターさんと3年近くかけて、一緒に作ってきたカメラバッグが来春、ついにリリースされる予定で。

――街と取材先をシームレスにつなぐカメラバッグがなかったんですか?
藤井 僕も写真撮るからわかりますけど、スタイリッシュという範疇で語れるカメラバッグはアメリカの「DOMKE(ドンケ)」くらいかな。
佐藤 そうですね。あれも味出し系というか。クラシックなので、機能面では少し弱いんですよ。で、機能を求めると「カメラバッグ然」としたものしかないという。
――確かに、あまりカメラバッグっぽくないですね。

佐藤 今日は持ってきていないんですが、ここにカメラが収まるインバッグが入ります。カメラを使わないときは、このようにアウターバッグだけで普通にショルダーとして使える。また、ショルダーのバックルを大きく肩口につけているのもポイントで、グローブしたまま着脱できるようにしています。
藤井 さすが3年かけただけの作り込み。でも、生産量がかなり少ないらしいじゃないですか。
佐藤 これを縫える職人さんが少ないみたいで。
藤井 これも日本製だね。
――ほかに特徴は?
佐藤 バッグの後ろ側のジップを開れば、トロリーのハンドルに通せます。
一同 おお、至れり尽せり!
藤井 出張にも役立ちそう。
――佐藤さん、服とか、機能とか、あまり詳しくないとかカマトトぶってますけど、なかなかのこだわり派ですね!
藤井 絶対そうだ。
佐藤 ま、まぁ、否定はできないですよね(笑)。
――発売はいつでしょう?
佐藤 最終調整中なので、決まったらまたお知らせします。
最後に、今冬のBESTアウター候補をおさらい!

毎回ソールドアウトとなる、ノンネイティブ別注のワイルドシングス「デナリジャケット」。3度目となる本作はコヨーテカラー、ターコイズ、黒の3色展開で、コヨーテカラーとターコイズには黒とのバイカラー・デザインもある。発売日は2020年1月3日(金)。新年の初買い候補、なくなる前にぜひ! 各12万円/ノンネイティブ×ワイルドシングス(ベンダー 03-6452-3072)
【問い合わせ】
COVERCHORD https://coverchord.com
ベンダー 03-6452-3072
髙村将司=文