キム・ジョーンズをメンズ アーティスティック・ディレクターに迎え、今季で5シーズン目を迎えるディオール。
“白の魔術師”の異名を持つダニエル・アーシャムを中心に、世界各国の才能溢れるデザイナー、アーティストの世界観が混在した今季のキーピースを紐解いてゆく。
今季のディオールはキム・ジョーンズが考える現代的なオートクチュールと特異な色彩感覚を持つ現代アーティスト、ダニエル・アーシャムのデザイン美学の調和が美しい。
歩くたびにドレープが波打つヴァージンウールを採用したテーラードピース、そして襟元にジャカード織りの「ディオール オブリーク」柄を配したトレンチコート、これら随所に職人たちの手仕事が際立つ。

メゾンの品格を「ディオール オブリーク」柄のエンボス加工で表現したリング&カードケース。時とともに変化した様をひび割れや透かし細工で表現し、そこにまたいびつな形をしたフラグメンテッド シルエットの「DIORBREAKER」サングラスは、熱烈なディオールファンでさえも驚きと感動を覚える仕上がりに。
ヘリテージを称えながらも、リアルクローズへと昇華させた絶妙な手腕が光る。

ストリートとラグジュアリーをミックスする手腕が光るキム・ジョーンズの着眼点は、カジュアルウェアのデザインにおいても抜きん出るものがある。
彼のマインドを受け取ったダニエル・アーシャムには、20世紀後半やミレニアル世代を着想源とした代名詞的存在の「石膏モチーフ」があり、このコラボではその存在感もさることながら、どこか高貴な雰囲気さえ漂う。デコラティブな総柄はシックなクルーネックニットと、サイズ感で今っぽくが最良の着こなし。

ジャーマントレーナーとコートシューズを融合させたような真っ白な「B01」スニーカーには、時代や性差をも超越した魅力がある。
サイドアッパーに配したパンチング加工と石膏ロゴというミニマルな作りには、エレガンスが漂う。無駄を削ぎ落としたからこそ生まれた上品さ、これこそダニエル・アーシャムが得意とするアートとファッションの融合なのだろう。

ダニエル・アーシャムの作風に敬意を表したベージュのサテンジャケット。
それだけにはとどまらず、手作業で施されたしわ加工や同素材特有の光沢感など、緻密なディテールワークは見事。

キム・ジョーンズが得意とする異種格闘技的なコラボレーションを披露したサマー2020メンズコレクション。そんな中で最も熱視線を浴びたアイテムと言っても過言ではないのが、この「ディオール&リモワ」。
アルミニウムケースに高級レザーストラップを合わせた「パーソナル」クラッチは、キムが謳う“モダンラグジュアリー”を色濃く体現している。過去と現在と未来、どの時代から見ても記憶に刻まれるオブジェのような佇まいは、ディオールを象徴する、まさにタイムレスなピースなのだ。
佐藤将希=写真 平野俊彦=スタイリング 馬場拓也=ヘアメイク マーブルスタジオ=編集・文