「看板娘という名の愉悦」とは……
日清食品創業者の安藤百福が「チキンラーメン」を世に送り出したのは、1958年。世界初のインスタントラーメンだ。
そんな前振りで向かったのは江東区の亀戸。
歩くこと約3分。目指す「R select(アール セレクト)」が入るビルに到着した。

「全国各地のご当地ラーメンや日本酒、クラフトビール、プロテイン、雑貨などを取り扱っています」とある。なかなかに振り幅が大きい品揃えだ。

駆けつけ1杯は日本酒かクラフトビールか。

聞けば才能はあるのに発信力が足りない作家を応援するために、スペース貸しをしているそうだ。

というわけで、お酒だ。代表補佐の澤井 淳さんにオススメを聞いた。
「忍者の里、滋賀県甲賀市で造られている『酒裏剣(しゅりけん)』はいかがですか? 手裏剣のようにキレがある超辛口で、アルコール度数は20%もあります」。
いただきましょう。

運んできてくれたのは看板娘。
看板娘、登場

“チャーハン”こと香織さん(31歳)。
しかし、なぜチャーハン?
「名前がわりと一般的なので、あだ名がほしいなと思っていて。数年前に自分のなかでチャーハンブームが来ていて、そのときも知人との中華屋ランチでチャーハンを食べていたんです。『そんなに好きなら“チャーハン”でいいじゃん』という流れでした」。
チャーハンさんいわく、「亀戸には美味しいお店がたくさんあります」。ちなみに、亀戸のベストチャーハンは「CHINESE DINING Bear ベアー」というお店で食べられる。

さて、キレのある日本酒に合わせる料理はインスタントラーメンだ。

現在置いているのは約40種類。すべてスタッフが試食をして合格となった商品ばかりだ。

澤井さんが言う。
「ここは、オーナーのインスタントラーメン好きが高じて始めた店で、彼のイチ推しは高専時代に寮で先輩にめっちゃ作らされた『うまかっちゃん』。

せっかくなので、今回はチャーハンさんのイチ推しをいただこう。

「海老の風味がとても効いているんです。麺もコシがあって乾麺とは思えません。ちょい硬めに茹でました」。

麺をすすり、スープを飲む。これが本気で美味しい。インスタントラーメンの概念を覆された。

埼玉県草加市で生まれ育ったチャーハンさんは、小学生時代にアニメの『るろうに剣心』にハマる。その結果、将来は忍者になることを決意。自宅マンションの塀を乗り越える訓練を続けたという。
なるほど、「酒裏剣」という日本酒が出てきたことも偶然とは思えない。

しかし、小学校の高学年ともなると忍者にはなれないことに気付く。そこで、中学に上がって選んだ部活が剣道部だった。得意技は「面返し胴」で、3年生で部長に抜擢される。

「高校の剣道部はかなり厳しくて、ほとんど剣道漬けの日々。防具は拭くだけだからめっちゃ臭い(笑)。先輩からは『ファブリーズかけたら革が痛むぞ』と言われました」。
チャーハンさんは高1で腰を痛めてしまう。しかし顧問が怖くて言い出せず、『道場を燃やそうかな』と思いながら練習に通った。
「まだ越谷レイクタウンができる前で、休みの日とかは友だちと新越谷のヴァリエに行っていました。ちょっと贅沢したいときはそこのスタバに入るんです(笑)」。

その後は「食べるのが好きだから管理栄養士になりたい」と思い、家政大学に進学。ここでも剣道部に所属し、文武両道を目指す。
一方で、都内のエクセルシオールカフェでアルバイトを始めた。掃除が好きなチャーハンさんはシンクをピカピカに磨くことに命を懸ける。
澤井さんが笑いながら言う。
「商品に埃が付いているのも許せないみたいです。あと、拭き掃除を頼むとビルの外のサッシまで拭く。そこは業者さんがやってるからって止めるんですが(笑)」。
卒論のテーマは「食物繊維が血糖上昇に与える抑制効果について」。みずから食事制限をしながら血糖値を測ってデータを作った。

ふと、チャーハンさんの手を見ると「はいしゃ」と書いてある。予約したのを忘れていて、さっきキャンセルの電話を入れたそうだ。

現在は派遣の仕事をしつつ、時々店を手伝っているチャーハンさん。インスタントラーメンの進化に驚き、看板娘の忍者エピソードに爆笑した取材でした。
最後に読者へのメッセージをお願いしますね。

【取材協力】
R select
住所:東京都江東区亀戸5-10-1 ロイヤルビル200号
電話番号:03-6206-8348
https://twitter.com/rselect2
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文