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環境デザインを学び、サステイナビリティのファシリテーターとしても活躍する建築家アーロン・アッカーマン。ハワイ、オアフ島の緑豊かなパロロ渓谷の中に持続可能なマイホームを建てる、という革新的なプロジェクトを掲げ、サステイナブルならではの課題に挑んでいた。ハワイの自然と調和する家作りとは。

パロロ渓谷の奥深く、緑のジャングルの頭上には雲がたなびく。茂みに覆われた曲がりくねった道を進むと、群生する植物に隠れるように建つ家がある。この家に向かうには、丘の麓で敷地に足を踏み入れ、シダや熱帯植物のヘリコニアに囲まれ、小石が敷き詰められた長い小道に沿って急な斜面を登らなければならない。

小道が導く先で視界に飛び込んでくるのは、再利用されたアカスギ材でできた家。スパニッシュモスが窓に垂れ、自然の日除けになっている。どこまでが家で、どこからジャングルが始まるのか、見極めるのが難しい。まさにこれがこの家の肝なのだ。

建築家アーロン・アッカーマンがこの敷地を購入したのは2011年。妻のジェシカが第一子を宿している時だった。

ふたりは、周囲の環境と調和する家を建てようと心に決めた。

すでに木々の間に建っていた簡素な家を修理して、ひとまずそこに移り住むと、数年をかけてこの土地を研究した。生育している植物、地形、それから雨が降ったときに水がどこに流れていくかまでよく調べた。その後、4年の歳月を経て終の棲家を建て始めた。集めたデータを用いて、どこにどのようにして家を建てるかを決めたのだ。


子供の夢そのもの

ツリーハウスと言われて思い描く姿を写し取ったようなこの家は、まさに子供の夢そのもの。アッカーマン夫妻の3人の子供たちは、あらゆる樹木が持つ3つの要素にちなみ、ザイレム(木部)、カカンビアム(形成層)、フロエム(師部)と名付けられ、木々の間に張られたネットで思いっきり遊んでいる。

映画『フック』のセットから飛び出してきたみたいな、ワイヤーロープのジップライン(※訳注 木々の間に張られたワイヤーロープを滑車で滑り降りる遊び)もある。ジップラインに吊されたゴンドラは、第2次世界大戦でアメリカ海軍が使っていた大鍋が敷地内に埋もれているのを見つけて再利用した。アーロンは、重さ220kgを超える出産用の石造りの浴槽もこれで家に運んだという。建築資材の75%は、廃品を拾ったり再利用したりしたものである。

 

すべて再生可能な資源から。ハワイの自然と調和する家を作る建築家の挑戦

アーロンは建築家およびサステイナビリティのファシリテーターとして、バウワース・アンド・クボタで15年にわたり働いている。彼の家のプロジェクトは、同社にとってこれまでで最も野心的なプロジェクトだった。

プロジェクト名は、ハワイの言葉を組み合わせた“ハレオライリアイナポノ”という。住居(ハレオラ)の管理を、コミュニティ(イリ アイナ)の改善を目指す人物が道徳的な方法(ポノ)で行うという、3つの概念を融合させた名前である。

彼の家の目的は、人々が考える環境に優しい建築物の水準を上げることである。

「どのように暮らすか。これには影響力があります。私たちは、平均して90%の時間を室内で過ごします」とアーロンは語る。「つまり、住んでいる建物によって、私たちは大きな影響を受けるのです」。

ハワイではこれまでにも、建築や都市の環境の環境性能を評価するLEED認証(※訳注 アメリカの非営利団体が開発・運営している認証制度)を取得した開発が行われていた。しかしアーロンは、LEEDより厳格で環境性能の高い建物を評価する「リビング・ビルディング・チャレンジ」建築基準に基づき、自宅を建設した。

国際リビングフューチャー協会が考案したリビング・ビルディング・チャレンジは、厳格な20の評価項目から成る。これらを満たした建物だけがリビング・ビルディングの認証を得られるのだ。

この評価項目は厳しく、例えば、建物で使うエネルギーはすべて再生可能な資源から創り出すこと、すべての水は雨水集水でまかなうこと、さらに廃水や豪雨による雨水は都市型農業または地下水涵養(かんよう)に再利用することが求められている。

つまり、この認証を勝ち取るためには、省エネルギーであるだけでは十分ではないということだ。差し引きでプラスの影響を与えることを目指しており、その土地から奪ったもの以上を返さねばならないのだ。

すべて再生可能な資源から。ハワイの自然と調和する家を作る建築家の挑戦


創造力をフルに使って

アーロンは創造力をフルに使って、ハワイの建築物ならではの課題に立ち向かった。リビング・ビルディング・チャレンジで求められることのひとつに、使用する建材の大部分は地元の資源から得なければならない、というものがある。

ハワイ産の材料としては、溶岩石、コアやオヒアの木など、ほんの数種しか使えるものがないため、アーロンは、これらは使わずに保護するほうがよいと考えた。代わりに、オアフにあるシングルウォール工法の家屋を取り壊した際に、たくさんの廃材が出ることに着目をした。

こうして、シダーやレッドウッドなどの材料を手に入れた。それらは、ハワイの高い湿度、腐食性のある潮風、シロアリ被害、強い紫外線に耐えられることが実証済みだった。それだけではなく、アーロンは廃棄所に送られるはずだった材料を救ったのだ。


最先端の暮らし

アーロンの家は最新技術や最新機器を備えているが、彼のインスピレーション源は自然であり、自然とつながるハワイの文化だった。たとえば、水は貴重だ。ハワイの人々にとって大切な資源である。そこで、屋根に植えられたラウアエシダが、豪雨による雨水を吸水して家を涼しく保つ。トイレやキッチンのシンクから出る汚水は、好気性処理法を用いて処理し、洗濯石けんとして使える実のなるアエの木(ハワイのムクロジの木)など、食用ではない植物の地下潅漑に用いる。

生活排水は、排水に熱が残っている場合はこれを取り出して新たに水を加熱するために使ってから、床下で貯めておく。集水雨水は、飲み水やシャワー以外にも、敷地内に生息するライチ、マカデミアナッツ、コーヒー、マンゴーなどの25種類以上の果樹の潅漑用水など、幅広く使われる。


自然とのつながりを求めて

リビング・ビルディング・チャレンジの評価項目の中には、定量的に評価できる事項だけでなく、定性的な側面を持つ事項も含まれており、評価がいっそう困難になる。しかし、アーロンは、そうした定性的な項目こそ最も重要だと考えている。たとえば、「バイオフィリア」という項目がある。

バイオフィリアとは、人間には生まれつき自然との結びつきを求める傾向があるという考え方だ。アーロンはこの評価項目を満たすため、自然換気や有機的形態を通して、住居と周囲の環境を共鳴させるよう設計した。

「家とは体験なんです」とアーロンは語る。「家はものの見方を教え、安らぎと神秘、そして冒険をもたらします。家を体験している最中からその表情がめまぐるしく変わるため、私たちは決して全体像を見ることができません」と述べた。

階段からバスルームにかけて展開する落ち着いたモザイク作品は、地元のアーティストであり、友人でもあるマヤ・リー・ポートナーが再生タイルを使って敷き詰めた。ミッドセンチュリー期デザインの明るいオレンジ色の暖炉は、非営利団体が運営するリサイクルショップ「リユース・ハワイ」で見つけたコンドン・キング・アツテックのもの。この暖炉が点ると、火に魅せられて人々が自然とリビングルームに集う。

すべて再生可能な資源から。ハワイの自然と調和する家を作る建築家の挑戦

この家は、バウワース・アンド・クボタのチームが何年も費やし、2019年暮れに完成した。寄贈者やパートナー企業のサポート、そしてアーロンの家族の献身的な支えも忘れてはならない。

その後、1年にわたりリビング・ビルディング・チャレンジの審査を受けることになる。この審査を通過すれば、ハワイで最初に認証された住居となる(ハワイ・プレパラトリー・アカデミーのエネルギーラボがすでにリビング・ビルディングの認証を得ているが、住居では初となる)。


喫緊の問題を解決する

アーロンの家のような住居は、汚染源となる汚水だまり、飲料水の不足、廃棄所に溢れる建設廃棄物など、ハワイが直面している喫緊の問題を解決できるだけでなく、ハワイの土地と調和した生活を取り戻すことができるはずだ。

「経済面から収益ばかり考えてはいけない」とアーロン。さらに、「自分たちの決断が、いかに社会、環境そして経済に影響を与えるかを問わなければならないのです」と述べる。

しかし、アーロンにとっては、自然界とつながりたいという人間の欲求こそが、リビング・ビルディング・チャレンジの背後にある原動力であり、人々をもっとサステイナブルな生活へと駆り立てるものだという。

「ソーラーパネルが人間に希望を与えるわけじゃないんです」と言い、「自然が人間をインスパイアするんです。人間は自然に感銘を受け、自然と強く結びつくことに対して精神的、身体的、心理的にも、前向きに反応する。まさにこれが人々が感じるユートピアの感覚であり、この家のような建物を体験するときに感じるものなのです」と続けた。

極めてシンプルに

リビング・ビルディング・チャレンジの試みも進む一方で、アーロン・アッカーマンは、どんな家主も簡単にグリーンな家作りができる方法があると主張する。

認証済みの木材

「可能であれば、森林管理協議会(FSC)認証の木材を調達して、サステイナブルな森林管理をサポートしましょう。現在では、ホームセンターのような小売店でも買い求めることができます」。FSC認証は第三者機関による検証である一方、持続可能な林業イニシアチブの認証は、組織内で検証されたものであることも忘れずに。

すべて再生可能な資源から。ハワイの自然と調和する家を作る建築家の挑戦

LEDライト

地元のホームセンターで、LEDライトをあとから取りつけるための部品を探してみよう。「さまざまな製品が選べるようになっていて、取り入れやすくなっています。短期間で元が取れますよ」。

電力販売契約

「多くの太陽光発電供給業者は、太陽光電力販売契約(PPA)を用意しています。家主の敷地内で、太陽光発電供給業者が太陽光発電システムを設計、許可、出資、維持をします。家主にはお金がまったくかからないか、かかってもほんの少しで済みます」。電気の支払いは、家主が供給業者に対して行う。地域の公共電力の価格と大差はないが、化石燃料ではなく、再利用可能なエネルギーで生活が可能になる。

すべて再生可能な資源から。ハワイの自然と調和する家を作る建築家の挑戦

 

アイフクー・リッジリー=写真・文 上林香織=翻訳

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