セーブ・ザ・ダックの展示会に行ったのは去年の秋のことだった。このブランドは’15年頃から知ってはいた。

見た目はいわゆるダウンジャケットなのだが、中綿には鳥の羽ではない何かを使っているということも知っていた。

しかし、僕はそもそもダウンジャケットが似合わないので着ることはほとんどなく、興味自体、さほどない。

祐真朋樹さんが感動した「セーブ・ザ・ダック」のダウンジャケッ...の画像はこちら >>

推薦人
ファッションエディター 祐真朋樹さん
30年以上、メンズ誌、広告などで手腕を振るい続けるファッションエディター。2013年に『祐真朋樹の密かな愉しみ』(マガジンハウス)を上梓。

冬のロケのモデルの防寒用に数点所有しているが、自分ではまず着ない。数年前に見たジャケットは、特に目新しいデザインでもなかったのでそのままスルーしていた。が、今回、展示会場で改めて見たセーブ・ザ・ダックは、昔のものとはまるで違っていた。

デザインの傾向もがらりと変わっていたし、バリエーションも格段に増えていた。

最初は数年前に見たブランドとは気付かず、試着した際に袖に付いたマークを見て「あれ? これってセーブ・ザ・ダック?」とスタッフにたずねたほどである。俄然興味が湧いてあれこれ質問したら、中綿に使われているのはペットボトルをリサイクルした素材だということがわかった。

え? 僕が毎日大量消費しているペットボトルがこの中綿に? 展示されているアイテムが一瞬にしてキラキラと輝いて見えた。

祐真朋樹さんが感動した「セーブ・ザ・ダック」のダウンジャケット
メッセージ性の高いプリント。

僕はかなり大量に水を飲む人間である。

あるとき、事務所のスタッフが僕を丸一日こっそり観察してみたら、なんと僕は軽く4~5L飲んでいたらしい。もちろん自宅でも飲むから、それを合わせると毎日7~8L飲んでいる計算になる。

当時は2Lのペットボトル入りの水を買っていたのだが、週に一度の資源プラスチックのゴミ収集日には、自宅と事務所を合わせて30本ほどのペットボトルを出していた。ペタンコに潰しても、かなりの嵩であった。が、自分としては特に大量に水を飲んでいるという自覚はなかったし、ペットボトルもリサイクルするんだからいいのでは? くらいに思っていた。

が、そんな僕でも、ここ数年の間に、プラスチック、特にペットボトルのゴミが大問題になっているのを知ることとなる。

そりゃ、「海はプラスチックのスープ状態」とか「30年後の海では魚よりもプラスチックゴミのほうが多くなる可能性あり」などと言われれば、さすがの僕も気になります。で、最近はなるべくペットボトルを避け、缶や瓶、紙などの飲料を選ぶようになっていた。

そんな中、追い打ちをかけるように僕に衝撃を与えたのは、2016年の「京都グラフィー 京都国際写真祭」で見たクリス・ジョーダンの作品。野鳥の死骸にライターやペットボトルの破片が入ったその写真は、ペットボトルに対する僕の認識をがらりと変えた。

プラスチックは確かにとてつもない発明で、僕たちはプラスチックなしでは生きていけない状態になっている。軽くて丈夫で輸送性に優れ、持ち運びにも便利。

でも、目的が遂行されたあとは、そのほとんどが廃棄される。そして、ゴミに出したあとのことは、大抵の人は考えもしない。

海に漂うマイクロプラスチックは増加の一途で、海を汚染するのはもちろんのこと、海の生物にも多大なる悪影響を与えているのに。そしてそれは、将来的には我々人間をも含む生態系に影響を及ぼすというのに……。と、もやもやした気持ちを抱えながらも、僕は相変わらず毎日大量の水を飲んでいる。

ペットボトルの消費を控えるために、自宅と事務所にはウォーターサーバーを設置した。が、今でも仕事で移動する際にはペットボトルの水を買い、自販機横のゴミ箱に空いたボトルを捨てる。かなりの確率で、ペットボトルはゴミ箱から溢れている。そんな光景を見ると、こんな僕でも心が痛い。

祐真朋樹さんが感動した「セーブ・ザ・ダック」のダウンジャケット
ポップなロゴやプリントも持ち味。

その日の僕の出で立ちは、グッチの黒いフレアパンツに黒のナイキのエアフォース1、それにセリーヌのルーズなフーディ。

その上に、僕は数十点のセーブ・ザ・ダックを次々と合わせてみた。まずはその軽さに感動し、着丈やフードのバランスやシルエットにも強烈に惹かれてしまった。

もはや、中綿問題は二の次。実用性とファッション性を兼ね備えるセーブ・ザ・ダックに、僕はすっかり魅入られてしまったのである。

祐真朋樹さんが感動した「セーブ・ザ・ダック」のダウンジャケット
タグもプリント仕様で無駄がない。

今回選んだ3点は、すべて僕のワードローブに加えたいと思っているアイテム。なかでも、いちばん上の「ベケット」はグリフィン・スタジオとのコラボレーションで、表地の素材はゴアテックス。左肩のレインボーマークがピースフルだ。

着ると、顔回りにくるオレンジが映える。すっぽり腰まで隠れる丈なので、暖かさ抜群。真ん中の黄色いジャケットは「エドガー」。素材の艶感や全体のボリューム感は、僕の若かりし’80年代初頭に大ブレイクしたダウンジャケットを彷彿とさせる。

これは、展示会当日身に着けていた、グッチのパンツ&エアフォース1との相性もバッチリであった。ジャケット感覚でコーディネイトを楽しみたい。

祐真朋樹さんが感動した「セーブ・ザ・ダック」のダウンジャケット
裏地も100%リサイクルナイロン。

いちばん手前の緑のダウンは「ロビン」。

短い着丈と大きいフードのバランスに惚れました。

どのモデルも中綿は「プラムテック」という特許素材で、ペットボトルをリサイクルした微粒子をポリエステル繊維に配合したもの。通気性、速乾性、保湿性などに優れているらしい。これをダウンやフェザーの代わりに使うことによって、つまりは“セーブ・ザ・ダック”となるわけだ。

ペットボトルは、みんな便利に使っているくせに、いざゴミになると嫌われもの感が半端ない。でもそれが機能美に溢れたファッションに活かされるのならば、実に素晴らしいのではないだろうか。

嫌われものが役に立つ。しかもその姿が格好いい!なんだか不良だった子供がいつの間にか男気溢れる優しくて格好いい大人になってた、みたいないい話だと思う。

 

清水写真事務所=写真 祐真朋樹=文

編集部おすすめ