ある意味、H&Mの作る服はそのすべてがサステイナブルなのかもしれない。定番のTシャツやデニムはもちろん、コラボレーションものや期間限定のコレクションにいたるまで、だ。
ではなぜそう言い切れるのか。具体的にはどんな取り組みをしているのか。詳しく掘り下げていきたい。
FUNな循環を味わえる古着回収サービスとは?
H&Mは製造・輸送・包装すべてに配慮がある。
仕入れ先や工場と公正に取引し、循環型の素材で服を作り、環境負荷の少ない方法で消費者に届ける。その服を持ち帰るためのショッピングバッグも、日本では2018年に既に紙袋(有料)への切り替えが終了している。これが冒頭「H&Mのその服はすべてがサステイナブル」と書いたおもな理由だ。
持続可能性を追求する取り組みは多岐にわたり、新たな課題に積極的なチャレンジを続けている。H&Mというブランドにとって、サステイナブルという視点は欠くべからざるものといえよう。

ではいったい、具体的に何をやっているのか?限りある誌面で最初に紹介したいと思ったのが古着回収サービスである。H&Mの愛用者ならば、店舗に設置されている回収ボックスの存在は既にご存じであろう。
もう着なくなってしまった服を袋に詰めて持参し、このボックスに収める。その旨をスタッフに伝えると、500円OFFのクーポンがもらえるのである。
「今ある資源を最大限活用するべく、’13年からスタートしたサービスです。服をゴミとして捨てるのではなく、わざわざH&Mの店舗まで持ってきてくれたその行動に感謝したい。古着にも価値があることを伝えたい。そんな思いが500円OFFのクーポンに込められています」。
そう語るのは、PR部門のプロジェクトマネージャーを務める田中都さんだ。「難しく考えず、断捨離するような感覚でお店に持ってきてください」と話す。

こういったいい意味での気軽さ、フレンドリーさというのは、実はとても大事なことだと思う。いわゆるSDGsに関して、「難しいこと」「意識の高いこと」だと最初に思われては、その入り口に立ってもらうことすらできないからだ。
十分に楽しんでボロボロになった服が、500円OFFのクーポンに変わる。
既存のリサイクルコットンより2.5倍もサステイナブルな素材

H&Mがサステイナブルな取り組みに本格的に注力しはじめたのは1990年代後半のことだ。
「ファッション業界全体が抱えていた慢性的な問題が、いくつも表面化した時代でした。児童労働の問題や化学薬品による水の汚染……。直面する問題をどうやってクリアしていけばいいのか。そんな模索の時代が、今の取り組みの源流にあると思います」(田中さん・以下同じ)
H&Mの企業としての沿革をたどれば、’90年代~2000年代というのは、ヨーロッパ圏を飛び出しさらなる店舗拡大を本格化した時期にあたる。アメリカへ、そしてアジアへ。成長と同時に、持続可能な事業を実現するための知見を積み重ねていったということだ。
その経験値が、ファッションとしてひとつの結実を見せたのが、’10年に発表された「コンシャス・コレクション」である。

「オーガニックコットンやリサイクルポリエステルといった自然や労働環境に配慮した素材で作った服を、コレクションとして初めて発表しました」。
言葉は悪いが、当時おそらく多くの人たちが「H&Mはファストファッションの代表的ブランド」と認識していたのではないか。
その哲学はもとより、スタイリッシュなデザインにも驚かされた。そしてエコ(当時はサステイナブルという言葉も一般的ではなかった)とファッションは両立すると気付かされたのである。
そうして30年以上にわたりサステイナブルな取り組みに挑戦し続けてきたH&Mが近年迎えているのは、「イノベーション」の局面。すなわち技術革新だ。
AIを活用した、廃棄物ゼロの循環型デザインワーク。サボテンやブドウの皮、パイナップルの葉(!)から作られたヴィーガンレザー素材。環境問題に詳しくない者が耳にしてもワクワクするようなストーリーを持つ画期的技術の数々が実現され、運用へと導かれている。
そんな技術革新の多くが、H&Mファウンデーションが主催する「グローバル・チェンジ・アワード(※1)」の受賞企画から生まれている。サステイナブルのアイデアの種を発掘し、その成長をサポート。
また驚くべきことに、H&Mがこれらのアイデアを独占することは決してない。サステイナブルへの取り組みとして業界全体で広く役立ててほしいとの思いから、その権利をオープンにしているのだ。

「このスウェットシャツとスウェットパンツにも、最新の技術が詰まっています。それは素材。リサイクルコットンを50%以上使ったコットン素材“RCOT(アールコット)”です」。
リサイクルコットンは繊維一本一本が短い。それゆえ、繊維の長い新しいコットンと混紡して作る必要がある。そのリサイクル繊維混紡の割合は、20%までが限界とされてきた。それ以上混紡すると繊維切れなどにより耐久性が担保できないからだ。
しかしこの“RCOT”は、リサイクルコットンを50%まで混紡。コットンの耐久性や風合いを損なうことなく、リサイクル繊維の割合を高めている。単純に言えば、今より2.5倍もサステイナブルな素材というわけだ。
人の心を動かすサステイナブルな服

今回の取材にあたって多くの話を聞かせてくれたH&Mの担当者、田中さん。しかしながら彼女は、2年前まではサステイナブルに関する知識をほとんど持ち合わせていなかったという。
「’19年にH&Mに入社してこの部門の担当になってから、少しずつ勉強していきました。今こうして説明しているのが自分でも不思議なくらいです(笑)。
ただ、ひとついいなと思ったことがあって。環境問題などの知識を得ると、人に伝えたくなります。例えば身近な友人や家族などに。そしてその人たちの行動が少しでも変わると、すごくうれしいんです。
エコバッグを使いはじめたり、プラスチック製品の購入を減らしたりという、本当にささいなことなのですが。一人ひとりの小さな一歩がとても重要だと思うので」。

そう、サステイナブルの第一歩は知ることなのである。知れば行動したくなる。行動して何かが変われば歓びが湧く。
結局のところ、人を動かすのはプラットフォームやシステムではなく個人の心情なのだろう。そして、そんなふうに心を動かすさまざまな“サステナ服”を、今後数多く紹介していきたいと思う。
H&M エイチ・アンド・エム
創業年:1947年
創業者:アーリン・パーション
本社所在地:スウェーデン・ストックホルム
従業員数:約15万3000人
店舗数:世界74カ国・5018店舗
※数値は2020年度末時点。
Sustainable Keywords
・循環型ファッションのためのアワードを主催
・よりサステイナブルな素材の積極的な開発・活用
・2040年までに100%循環型のクライメット・ポジティブへ
※1 グローバル・チェンジ・アワード
循環型ファッションのための革新的なアイデアを募るコンペティション。2015年に設立。「ファッション業界のノーベル賞」とも評される。受賞者は毎回5組前後。助成金の100万ユーロ(約1億2000万円)は受賞プロジェクトごとに分配される。
品田健人、鈴木泰之=写真 加瀬友重=編集・文