ある意味、H&Mの作る服はそのすべてがサステイナブルなのかもしれない。定番のTシャツやデニムはもちろん、コラボレーションものや期間限定のコレクションにいたるまで、だ。

ではなぜそう言い切れるのか。具体的にはどんな取り組みをしているのか。詳しく掘り下げていきたい。

 


FUNな循環を味わえる古着回収サービスとは?

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H&Mは製造・輸送・包装すべてに配慮がある。

仕入れ先や工場と公正に取引し、循環型の素材で服を作り、環境負荷の少ない方法で消費者に届ける。その服を持ち帰るためのショッピングバッグも、日本では2018年に既に紙袋(有料)への切り替えが終了している。これが冒頭「H&Mのその服はすべてがサステイナブル」と書いたおもな理由だ。

持続可能性を追求する取り組みは多岐にわたり、新たな課題に積極的なチャレンジを続けている。H&Mというブランドにとって、サステイナブルという視点は欠くべからざるものといえよう。

すべてがサステイナブルな「H&M」の、ファッションを楽しむ循環システム
[左]古着回収サービスは、ドイツの衣料リサイクル企業「アイコレクト社」の協力を得て運用。H&Mのすべての店舗に写真のような回収ボックスが設置されている。古着を持ち込めばその場で500円OFFのクーボンと引き換えてくれるのだ。ぜひご体験を。 [右]よりサステイナブルな素材を50%以上使用した商品に付く「グリーンタグ」。どんな素材をどのような割合で使用しているかが、このタグに明確に記載されている。店舗に並んだ数多くの服の中から、ひと目で“サステナ服”をピックアップできるというわけだ。

ではいったい、具体的に何をやっているのか?限りある誌面で最初に紹介したいと思ったのが古着回収サービスである。H&Mの愛用者ならば、店舗に設置されている回収ボックスの存在は既にご存じであろう。

もう着なくなってしまった服を袋に詰めて持参し、このボックスに収める。その旨をスタッフに伝えると、500円OFFのクーポンがもらえるのである。

ブランドや状態は不問。穴の開いた片足の靴下でも、あるいは何袋分もの古着を持ち込んでもいい。服や布製品(カーテンやシーツなど)であれば何でもOKだ。

「今ある資源を最大限活用するべく、’13年からスタートしたサービスです。服をゴミとして捨てるのではなく、わざわざH&Mの店舗まで持ってきてくれたその行動に感謝したい。古着にも価値があることを伝えたい。そんな思いが500円OFFのクーポンに込められています」。

そう語るのは、PR部門のプロジェクトマネージャーを務める田中都さんだ。「難しく考えず、断捨離するような感覚でお店に持ってきてください」と話す。

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プロジェクトマネージャーの田中都さん。「2030年までにすべての素材をリサイクル、またはサステイナブルに調達されたものに移行します。これは2021年中には70%以上達成する見込みです。そして’40年までのクライメット・ポジティブ(温室効果ガスの吸収量が排出量を上回ること)が大きな目標。H&Mが存在するほうが地球環境に有益である、という状態を目指しています」。

こういったいい意味での気軽さ、フレンドリーさというのは、実はとても大事なことだと思う。いわゆるSDGsに関して、「難しいこと」「意識の高いこと」だと最初に思われては、その入り口に立ってもらうことすらできないからだ。

十分に楽しんでボロボロになった服が、500円OFFのクーポンに変わる。

そのクーポンでまた新しい服を楽しむ。まずは理屈抜きで、そんなFUNな循環を味わってもらえればいい。だからこの古着回収サービスを、最初に知ってほしいと思ったのである。


既存のリサイクルコットンより2.5倍もサステイナブルな素材

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デニムの豊富なラインナップもH&Mというブランドの魅力。どちらもリサイクルコットンを混紡したデニム地を採用する。[左]後染めネイビーの色みが個性的なクロップドデニム。2499円、[右]ベーシックなストレートシルエット。3999円/ともにH&M 0120-866-201

H&Mがサステイナブルな取り組みに本格的に注力しはじめたのは1990年代後半のことだ。

「ファッション業界全体が抱えていた慢性的な問題が、いくつも表面化した時代でした。児童労働の問題や化学薬品による水の汚染……。直面する問題をどうやってクリアしていけばいいのか。そんな模索の時代が、今の取り組みの源流にあると思います」(田中さん・以下同じ)

H&Mの企業としての沿革をたどれば、’90年代~2000年代というのは、ヨーロッパ圏を飛び出しさらなる店舗拡大を本格化した時期にあたる。アメリカへ、そしてアジアへ。成長と同時に、持続可能な事業を実現するための知見を積み重ねていったということだ。

その経験値が、ファッションとしてひとつの結実を見せたのが、’10年に発表された「コンシャス・コレクション」である。

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デニムジャケットの生地はリサイクルコットン混紡。しかしながら深い色みとタフな風合いは本格派のそれだ。5999円/H&M 0120-866-201

「オーガニックコットンやリサイクルポリエステルといった自然や労働環境に配慮した素材で作った服を、コレクションとして初めて発表しました」。

言葉は悪いが、当時おそらく多くの人たちが「H&Mはファストファッションの代表的ブランド」と認識していたのではないか。

このコレクションで、大量生産・大量消費の象徴と思い込んでいた我々のイメージを変えはじめた。

その哲学はもとより、スタイリッシュなデザインにも驚かされた。そしてエコ(当時はサステイナブルという言葉も一般的ではなかった)とファッションは両立すると気付かされたのである。

そうして30年以上にわたりサステイナブルな取り組みに挑戦し続けてきたH&Mが近年迎えているのは、「イノベーション」の局面。すなわち技術革新だ。

AIを活用した、廃棄物ゼロの循環型デザインワーク。サボテンやブドウの皮、パイナップルの葉(!)から作られたヴィーガンレザー素材。環境問題に詳しくない者が耳にしてもワクワクするようなストーリーを持つ画期的技術の数々が実現され、運用へと導かれている。

そんな技術革新の多くが、H&Mファウンデーションが主催する「グローバル・チェンジ・アワード(※1)」の受賞企画から生まれている。サステイナブルのアイデアの種を発掘し、その成長をサポート。

また驚くべきことに、H&Mがこれらのアイデアを独占することは決してない。サステイナブルへの取り組みとして業界全体で広く役立ててほしいとの思いから、その権利をオープンにしているのだ。

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今季の目玉となるコットン素材“RCOT”を使ったスウェットシャツ&パンツ。リサイクルコットンを50%まで使用した、イノベーティブな素材なのである。ラベルには“RCOT”の説明文が英語で記載されている。左から3999円、4999円/ともにH&M 0120-866-201

「このスウェットシャツとスウェットパンツにも、最新の技術が詰まっています。それは素材。リサイクルコットンを50%以上使ったコットン素材“RCOT(アールコット)”です」。

リサイクルコットンは繊維一本一本が短い。それゆえ、繊維の長い新しいコットンと混紡して作る必要がある。そのリサイクル繊維混紡の割合は、20%までが限界とされてきた。それ以上混紡すると繊維切れなどにより耐久性が担保できないからだ。

しかしこの“RCOT”は、リサイクルコットンを50%まで混紡。コットンの耐久性や風合いを損なうことなく、リサイクル繊維の割合を高めている。単純に言えば、今より2.5倍もサステイナブルな素材というわけだ。


人の心を動かすサステイナブルな服

すべてがサステイナブルな「H&M」の、ファッションを楽しむ循環システム
2020年に本国スウェーデンで導入された、店内型リサイクルシステム「Looop」。カスタマーが持ち込んだ古着が新しい服に生まれ変わる過程を目の前で見ることができる。循環型ファッションを見事に可視化した、画期的&未来的なシステムといえよう。

今回の取材にあたって多くの話を聞かせてくれたH&Mの担当者、田中さん。しかしながら彼女は、2年前まではサステイナブルに関する知識をほとんど持ち合わせていなかったという。

「今思えばゼロに近い」ほどだったとか。

「’19年にH&Mに入社してこの部門の担当になってから、少しずつ勉強していきました。今こうして説明しているのが自分でも不思議なくらいです(笑)。

ただ、ひとついいなと思ったことがあって。環境問題などの知識を得ると、人に伝えたくなります。例えば身近な友人や家族などに。そしてその人たちの行動が少しでも変わると、すごくうれしいんです。

エコバッグを使いはじめたり、プラスチック製品の購入を減らしたりという、本当にささいなことなのですが。一人ひとりの小さな一歩がとても重要だと思うので」。

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オーガニックコットン100%の長袖Tシャツ。カラーバリエーションも豊富に揃った人気商品のひとつである。999円/H&M 0120-866-201

そう、サステイナブルの第一歩は知ることなのである。知れば行動したくなる。行動して何かが変われば歓びが湧く。

その歓びが行動のエネルギーとなり、周囲を巻き込むパワーへと変化する。

結局のところ、人を動かすのはプラットフォームやシステムではなく個人の心情なのだろう。そして、そんなふうに心を動かすさまざまな“サステナ服”を、今後数多く紹介していきたいと思う。

H&M エイチ・アンド・エム
創業年:1947年
創業者:アーリン・パーション
本社所在地:スウェーデン・ストックホルム
従業員数:約15万3000人
店舗数:世界74カ国・5018店舗
※数値は2020年度末時点。

Sustainable Keywords
・循環型ファッションのためのアワードを主催
・よりサステイナブルな素材の積極的な開発・活用
・2040年までに100%循環型のクライメット・ポジティブへ

※1 グローバル・チェンジ・アワード
循環型ファッションのための革新的なアイデアを募るコンペティション。2015年に設立。「ファッション業界のノーベル賞」とも評される。受賞者は毎回5組前後。助成金の100万ユーロ(約1億2000万円)は受賞プロジェクトごとに分配される。

 

品田健人、鈴木泰之=写真 加瀬友重=編集・文

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