なんだか“大野生”が巣食う島に、人がお邪魔をしているようだ。

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目の前で次々と繰り広げられる光景。

それは過去に訪れたハワイでもタヒチでも見られなかったもの。

ブラジルのジャングルや、生物多様性の宝庫コスタリカに行けば、似たような光景に出会えるのかな。そう思えるほどの生命力に、西表島は溢れていた。

 


大自然と言うより“大野生”。世界が認めた島

カヌーでゆっくり進む勇壮なマングローブの森は神秘的で、ビーチでは数多のヤドカリが歩き、森を行けば山に生きる昆虫たちが足元にやってくる。

イリオモテヤマネコだけじゃない! “大野生”が溢れる西表島に、世界が注目するワケ
国内最大のマングローブ原生林。カヤックでのんびりいくだけで癒されるが、癒しをくれるマングローブについて知れば、旅により深みを与えてくれる。

サンゴ礁の海でシュノーケリングをすれば色とりどりの熱帯魚がそこかしこで泳ぎ、夜になって夜行性の生き物や星空を楽しむツアーに参加すれば、道路をヤシガニが歩き、イノシシが横切り、電線にはフクロウがとまる。

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シュノーケリングで少し潜るだけでこの光景。天然の水族館ならぬ「これぞ自然界の姿」に西表島の海では触れられる。

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ジャングルを歩き、ふと視線を送るとヤモリなどの小動物と「こんにちは」。そんな状況に数えきれず遭遇する。

そしてガイドさんは「ハブもその辺にいますので」とのたまった。

今回の滞在はわずかに2泊。それでも数多くの“野生”が目の前にあらわれた。剥き出しの西表島の“日常”は、圧倒されるほどにすごかった。

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夜になると野生動物の動きは活発になる。リュウキュウイノシシも道路脇にひょっこり。

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道路を横断するオオガニにも遭遇。誤って轢かないよう「夜間の運転はスロースピードで」が鉄則。

沖縄県の八重山諸島にある西表島は、東京から2000km、沖縄本島からも約400km離れた場所にある。むしろ台湾のほうが近い、いわば日本の端にある島だ。

人口はわずか2400人。人間活動による影響は少なく、そのため大いなる“野生”が今も息づいている。

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聴き慣れない可愛い鳴き声に誘われて振り向くと、そこにはフクロウのリュウキュウコノハズクが。

この7月には、奄美大島、徳之島、沖縄島北部とともに世界自然遺産に登録。その背景にも豊かな生物多様性があった。

地球上のほかの地域では見られない、西表島だから確認できる固有種、絶滅危惧種が生息・生育しているのだ。

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滞在中には蛇も登場。「ハブか!」とちょっと焦ったが、こちらは無毒の蛇のサキシママダラ。

最たる象徴がイリオモテヤマネコ。現在の個体数は100頭ほどとされ、かつ減少傾向にある西表島の固有種だ。

さらに周囲約130kmの島の9割が亜熱帯の原生林で覆われ、マングローブの原生林は国内最大という、まさしく大自然ならぬ“大野生”が残る場所なのである。


「旅行」のあり方を変える先進的リゾートも

この“大野生”を未来に継承していくことが、世界自然遺産登録の大きな意義。観光の方法も、もちろん変わってくる。

「これからは『マスツーリズム』ではなく『エコツーリズム』」。そう明言したのは「星野リゾート 西表島ホテル」だ。

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星野リゾート 西表島ホテル。アジアンテイストの低層ホテルは139室すべてが海に向いて立地。ゲスト専用のプール、屋外ジャグジーも備え優雅な滞在を約束する。

簡単にいうなら、安く短い日程のツアーで多くの人に来島してもらうのではなく、従来より旅客数は減少しても、西表島の存在意義を実感しながら可能な限り長く滞在してもらう。

そのような“旅のカタチ”を推奨していくことを決めたのだ。

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ゲストルームは3タイプ。最上階のスーペリアツインからは色鮮やかな海をのぞむことができる。

では具体的に“旅のカタチ”はどう変わるのか?

同ホテルの総支配人、細川正孝さんによると、島の資源の持続性を念頭に、「楽しい体験」に加え「島の知識」を提供することが大切になるという。

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西表島にやってきたあと、社内の立候補制度を利用して総支配人となった細川正孝さん。プライベートでは3児の父であり、家族で島の大自然を楽しんでいる。

「例えば、マングローブが生茂る川を2時間ほどカヤックで行き、川の上流からはジャングルを歩いてアクセスする『秘境ナーラの滝へ ダイナミック西表島アドベンチャー』があります。

道程を楽しみながら秘境を訪れ滝壺で遊ぶといったレジャーなのですが、これまでは“行って、遊んで、帰って、終わり”という内容でした。

これからは、そのような楽しみを大切にしながらも、マングローブやジャングルといった自然環境、所どころで出合う動物や昆虫への理解を促すことが大切だと考えます」。

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外の風や自然の香りを楽しめる「ジャングル Kichi」。西表島に関する書物が揃うライブラリーでもある。

「西表島の暮らしは自然とともにありました。自然があったから観光が生まれ、訪れた人たちはかけがえのない時間を過ごせています。

この環境の持続性を高めるうえで必要なのは自然への負荷を低減すること。そのために自然の価値を伝えていくことが重要なのです」。

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ホテルの敷地内にはジャングルもある。ガイドと一緒に歩くツアーに参加すれば、圧巻の風景だけでなく、ジャングルの生態系での生存競争の激しさまで覗くことができる。

自然で遊んで楽しむことに加え、学ぶ楽しさも提供していく。

それが世界自然遺産となった西表島で観光事業を営んでいく「星野リゾート 西表島ホテル」の役割だと考えているのだ。


自然を「楽しむ」と「保つ」を、同時に実現する

エコツーリズムの提供を決めたホテルとして、次のような3つの施策を展開している。

まずは「エコロジカルなホテル運営」。

実は島にはゴミの処分場がない。だから出るゴミを減らすことは必然となる。ペットボトルの取り扱いや、使い捨てアメニティの提供を終了したのもそのためだ。

館内にウォーターサーバーを置き、ゲストにはマイボトルの持参を推奨。持参できなかった人にはボトルのレンタルサービスを行っている。

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24時間利用できるウォーターサーバー。ゴミを減らす施策のひとつだ。

2つ目が、「島の魅力と価値を感じるネイチャーツアー」。

これは上述したとおり。単にアクティビティを楽しめるだけでなく、自然を愛する島在住ナチュラリストガイドとの協働によって、島の魅力と価値について見識を深められるネイチャーツアーを展開するというもの。

ジャングルやサンゴ礁の海、マングローブに囲まれた川など、フィールドは多彩だ。

3つ目が「イリオモテヤマネコの保護活動」。

わずか100頭前後しか生息しない絶滅危惧種のイリオモテヤマネコだが、個体数を減らす際たる原因は“ロードキル”。

車との接触事故だ。

そこでロードキルを防止する活動を展開。加えてイリオモテヤマネコや島の自然について学ぶプログラム「イリオモテヤマネコの学校」を無料で毎日開催し、ゲストがロードキルを知る機会を提供する。

イリオモテヤマネコだけじゃない! “大野生”が溢れる西表島に、世界が注目するワケ
各所で目にする注意を喚起する看板。それほど島内でのロードキルは多い。

実は、このように自然に溶け込みながら滞在し、その地の理解を深めていくリゾートは世界的に増えている。

それは大型バスで乗りつけ短期間で次の場所を目指すマスツーリズムとは一線を画す先進的なスタイル。

環境を守りながら観光地としての魅力を保ち、それによって人が訪れ、観光業によって自然が保全され、地域がさらに元気になっていく観光の新たなカタチなのである。

イリオモテヤマネコだけじゃない! “大野生”が溢れる西表島に、世界が注目するワケ
ホテル前には夕陽の沈む月ヶ浜が広がる。快晴時のトワイライトタイムはマジックアワー。時も言葉も忘れる。

“大野生”が巣食う島と、その魅力を発信しながら守っていくリゾート。自然遺産として世界の注目が集まる西表島は、「イリオモテヤマネコの島でしょ?」という認識だけではもったいな過ぎる場所なのだ。

では、世界の最先端と足並みをそろえる「星野リゾート 西表島ホテル」に滞在すると、実際にどのような自然体験ができるのか。

日本のどこにもないと感動と多様性に富んだアクティビティの詳細は、次回に紹介していきたい。

 

[施設詳細]
星野リゾート 西表島ホテル
沖縄県八重山郡竹富町上原2-2
0570-732-022(9:30~18:00)
https://iriomotehotel.com

高橋賢勇=写真 小山内 隆=取材・文

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