東京・浅草で生まれたレザーブランド「エンダースキーマ」。
2010年にデザイナーの柏崎 亮氏が立ち上げ、シューズをはじめ、カバンや財布、小物に至るまで、さまざまなレザープロダクトを展開する。
そんな彼らを語るうえで外せないのが 「manual industrial products(マニュアル・インダストリアル・プロダクツ)」、通称「mip(エム・アイ・ピー)」。誰もがよく知る傑作シューズをレザーシューズの製法によって再構築する人気シリーズだ。
10年前に誕生して以来、毎シーズン1型ずつ増えていった結果……

現在、なんと21型のモデルがラインナップ! こうして見ると「圧巻!」のひと言である。今やエンダースキーマを象徴する存在となったmipは、どのように生まれたのか? その歴史を分析してみよう。
名作バッシュのオマージュが始まり
スニーカーをはじめ大量生産されるシューズを、あえて手工業で革靴として製作するmipシリーズ。大量生産と手工業のプロダクトを対比させることで、既視感と違和感によって両者の魅力を改めて感じられる。エンダースキーマが掲げる現代的なモノづくり「ニュークラフト」を体現したプロダクトラインだ。
mipシリーズは、革の裁断やアッパーの縫製、つり込みなど、各分野を専門とするさまざまな職人たちの手によって生まれる。
「製品は使ってこそ、完成品になっていく」という想いから、素材には経年変化を楽しめるヌメ革を採用しているのもこだわりだ。

2011年にリリースされたファーストモデルがコレ。名作バスケットシューズのオマージュだということは、スニーカー好きにとって言わずもがなだろう。すべてが同じではないにもか かわらず、ひと目でそうとわかる。

そんな「見覚えあるけど何か違う」という“既視感”と“未視感”が共存するのが、mipのコンセプトであり、面白いところ。
履くほどに愛着が湧くという点はスニーカーと共通するものの、こちらは履き潰して終わりではない。
革靴だからケアもできるし、ソール交換などのリペアも可能。履く人の個性によって、シューズを“育てる”余白を残しているのが魅力なのだ。
高度な職人技でハイテク感を再現

昔ながらの製法で作る革靴ではあるものの、職人たちと協力し新しいアイデアを形にする姿勢を貫いている。それが顕著に表れているのが、ハイテクスニーカーの名作たちをオマージュしたモデルだ。

mipシリーズの中でも高い人気を誇るこちらは、 革の扱いに熟練の職人技が光る。つま先には柔らかなタンニン鞣しのシュリンク革を使用。詰まって見える履き口には鹿革を使い、モチーフの質感を忠実に再現した。

こちらは4種類のカウレザーとゴートレザーを切り替えて、パーツごとの色味やテクスチャーの違いを見せているのが秀逸だ。

スニーカーシーンに一大センセーションを巻き起こしたハイテクスニーカーにオマージュを捧げた一足も。蜘蛛の巣を彷彿させる甲部分を覆う特徴的なパーツは、水に濡らすことで形状を記憶する革の素材特性を生かして成形。
シンプルなローテクスニーカーに比べ、デザインも革新的だしディテールも細かい。だがそのぶん、パーツごとで経年変化に差異が生まれたり、通常の革靴とはちょっと違った足入れの感覚を楽しめたりする。
何より、「コレ、実は革靴なんだ」というルックスのインパクトは、ほかでは味わえないものだろう。
職人技に支えられたエンダースキーマの表現力は、やがてスニーカー以外のシューズにも及んでいく。
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スキマ 恵比寿
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外山壮一=文