「知ってホッとする冬服大全」とは……
ダウンの代替品として誕生した化学繊維の中綿は、化繊の持つ汎用性を活かし、ファッションの幅を広げる重要なポジションを確立している。かつての“ダウンの代替品”というイメージは過去の話となりつつあるようだ。
その最先端を知るザ・ノース・フェイスで話を聞いた。
「ダウンか、化繊か」の2択は誤り
「ダウンは熱を溜め込むうえに軽量なのが強みで、間違いなく高品質な素材です。同時に弱点もあって、湿気や汚れに弱く、水に濡れたらロフト(かさ)はしぼみ、潰れてしまうという特徴があります」。

アウトドアの環境において、ダウンはいつ汚れたり濡れたりしてもおかしくない。保温性が高くコンパクトに持ち運べるのは利点だが、ロフトが潰れ、保温性を失ってしまったら、ダウンの良さはガクッと減ってしまう。

「化繊綿はその点、水に強く、濡れたり汚れたりしても保温性がキープできます。家の洗濯機でも洗えるので、イージーケアといった面でも大きなメリットでしょう」。
確かに、天然素材であるダウンは繊細で、それなりのケアと注意が求められる。どのシーンにも適しているわけじゃない。「どちらがいい」という決めつけるのはナンセンスなのだ。
「ダウンと化繊綿どちらかひとつという2択で考えるのではなく、シーンや用途によって使い分けるのが賢いと思います」。
ザ・ノース・フェイスの中綿「VENTRIX」とは

化繊綿を使用したウェア作りを始めて20年以上の歴史を数えるザ・ノース・フェイス。彼らが開発したオリジナルの中綿「VENTRIX(ベントリックス)」の機能性を知れば、化繊綿とダウンがまったく異なる可能性を秘めているのがわかる。
「このVENTRIXという中綿は“シート状”になってるんです。
例えば、冬のホームで電車を待っている間は保温性を発揮し、駅から家まで歩く際は体の熱気を逃がしてくれる、といった効果も得られますね」。

熱の放出と保温という、本来相反する要素を兼ね備えたVENTRIX をザ・ノース・フェイスでは「呼吸する中綿」と呼んでいるらしい。

時代の経過とともに変化する中綿の価値

どの分野でもサステイナブルが求められる昨今、中綿はそんな時代の要請に応える役割も担っているという。
「ダウンの代替品として生まれた中綿ですが、時代の変化とともに社会的な役割も変わってきています。ザ・ノース・フェイスでは、できるだけリサイクルダウンを採用していて、新しい天然ダウンを使わないように心がけていますが、天然の資源であることに変わりはありません。
一方、化繊の中綿はアニマルフリーだし、ペットボトルをリサイクルしているものもあり、“廃棄されてしまうものに付加価値を付けて新しい商品を生み出す”というサステイナブルな側面もあります」。

“コスパ”で天秤にかける無意味さ

中綿は汎用性が高く、さまざまな用途やシーンに適応できるという点でファッションの幅を広げてきた。
「未だに『ダウンは天然素材だし、中綿よりいいよね』っていう声を聞くこともありますが、2つを比較することは正しくありません。ダウンにはダウンの魅力があって、中綿には中綿の強みがある。それを知ることが大切です」。
また、中綿はダウンより安いと思われがちだが、それも正確ではないという。中綿の値段は幅広く、中綿に機能を持たせるほど表地や裏地などに工夫が必要で、結果としてコストにも反映される。
自分のライフスタイルに必要なのは、本当にダウンなのか――そんな目線で一度、ザ・ノース・フェイスの中綿ジャケットを見てみれば、また新しい世界が拓けるかもしれない。
「知ってホッとする冬服大全」とは……
知った気でいたけれど、実はそこまで知らなかった冬服のコト。そこで、各ブランドやショップへ取材を敢行。冬服知識の不足分を補うビタミン剤として活用してもらえたらこれ幸い。
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伊藤恵一=写真 菊地 亮=取材 ぎぎまき=文