"フライングブリック"(空飛ぶレンガ)は、あまり聞こえのいいニックネームではないが、ボルボの四角いサルーンの速さは本物だった。ベースとなったのは市販車の240ターボ・エボリューションだ。
拡大したターボとウォーターインジェクションを備えるこのモデルでホモロゲーションを取得。ヨーロッパ・ツーリングカー選手権(ETCC)とDTMに参戦するため、グループA 仕様のレーシングカーが20台ほど造られた。
 
ライバルはBMW 635 CSiやローバーSD1 、ジャガーXJ-Sなど。開発が進むにつれて、240ターボも対抗馬となっていく。ターボ搭載2.1リッターのエンジンは、当初の340bhpからすぐに向上し、ライバルと勝利を争えるようになった。1984年は優勝回数も少なかったが、1985年にはいよいよ本領を発揮してETCCを制覇。
翌1986年もタイトル獲得に迫る勢いだった。
 
写真の240ターボは、ストックホルムのレーシングチーム、マグナム・レーシングが製造した2台のうちの1 台で、のちにルナ・スポーツ・プロモーションのチームから出走した。ゾルダー・サーキットでボルボのETCC 初優勝を遂げたのが、まさにこの車だ。それがETCC 最初のターボ車による勝利でもあった。

ひと味違う戦闘力の高いグループAレーシングカーとは?

 
その後、ポルトガル人ドライバーが買い取り、1985、86年にポルトガル・ツーリングカー選手権に参戦。そのあとは様々なデモンストレーションに使用していた。
これを2013年に現オーナーが購入し、モト・ヒストリクス社でフルレストアを施して、1984 年当時の仕様とカラーリングに戻した。以来3シーズンにわたって、ピーター・オート主催のヘリテージ・ツーリングカップで活躍。また、2017年にはグッドウッド・メンバーズミーティングにも出走した。

ひと味違う戦闘力の高いグループAレーシングカーとは?

 
現在は、ビスターヘリテージにあるスポーツパーパスで販売されている。驚くほどオリジナルのコンディションで、ボディやインテリア、主要メカニカル・コンポーネントは1984 年当時のものだ。ただし、エンジンはリビルドしたばかりの代替品に換装されている(出力は340bhpで変わらず)。
オリジナルのエンジンは2017年に"引退"したが、それも車に付属し、スペアパーツも幅広く揃う。
 
ひと味違う戦闘力の高いグループAレーシングカーを探しているなら、"フライングブリック"に勝るものはない。ヘリテージ・ツーリングカップのような、素晴らしいあの時代のマシンで争うヒストリックレースにも、このボルボなら持っていくだけで出走することが可能だ。