この伝説の代表的人物と言えるのが、元・総理大臣の田中角栄さん。小学校時代の成績は優秀だったものの、家計の都合で進学できず苦労した田中さんでしたが、勉強は欠かさず、英和辞典を読んで、覚えたページを食べていたという伝説が残されています。このエピソードは、田中さんの伝記漫画にも掲載されており、同じく元総理の宮澤喜一さんにも同様の伝説が残されています。
学者や文人たちにも、辞書を食べた人はいるようです。詩人、童謡作家の北原白秋は、『言海』という辞書を買い、覚えたら捨てて、その行為を「言葉を食べた」と言ったそうです。実際には食べてはいないのですが、年代的に一番古い「辞書を食べた」(と言った)人物かもしれません。また民俗学者の南方熊楠も辞書を食べたと言われています。
こうしたエピソードを見ると、日本の近代化から高度経済成長期へのさらなる飛躍に、辞書を食べるという物語は一役買ったようです。ちなみに「エディブルペーパー」といわれる食べられる紙は本当に存在します。将来これを使った辞書ができて、食べることとの記憶の相関が実証されたら、本当に辞書を食べる時代がくるかもしれません。
◆ケトル VOL.23(2015年2月14日発売)