倉本さんが自身の脚本でナレーションを初めて使ったのは、1975年から始まった『前略おふくろ様』というドラマのこと。
〈たとえば田舎出の無口な板前がいるとするじゃない。彼は山形から東京に出てきて東北弁コンプレックスがひどくあるから、人前でペラペラしゃべることはしない。でも本当言うと心ん中にはしゃべりたいことが山程あるンじゃないか。実は心中おしゃべりなンじゃないか。そういう心の声というものを実際に発するセリフと裏腹にぶつけてみたら面白いンじゃないかって〉
倉本さんは同作で萩原健一が演じた純朴な板前が、東北弁のコンプレックスから普段は無口な代わりに、心の中で本音をべらべら喋るという設定を導入し、それを大量のナレーションで表現しました。「北の国から」でも、この手法を転用しています。
つまり、それは口に出してはいけない(と当人は思っている)ことが多ければ多いほど、心の声が増えるということも意味しています。だから「シリーズ15話」の、純の性の目覚めを描いた回や、「’92巣立ち」で、純が童貞を失った回のように、性的な話題になると純のナレーションが増え、結果的に「~なわけで」も増えると考えることができるのです。平たく言えば、純が悶々とすれば「~なわけで」が増えるというわけです。
ちなみに「~なわけで」という言い切らない口調は、山下清の『はだか放浪記』に影響を受けたもの。あの口調の原点は、裸の大将だったのでした。

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