「2019年の夏に、知人を介して見里朝希監督が学生時代に制作したアニメ作品『マイリトルゴート』を観せてもらいました。自分でフェルトを動かして作品を作っているとお聞きして、『面白そうだな』と。もともとシンエイ動画で制作している映画『クレヨンしんちゃん』のオープニングでクレイアニメを使っていたこともあって、ストップモーションのアニメには興味を持っていました。そこで『なにかでご一緒しませんか?』と監督に声をかけたんです」
『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』で知られるシンエイ動画だが、本格的なストップモーションアニメの制作は初めてだという。制作には多くの時間が必要になることから、短編で本数を重ねていく方針が決まり、見里監督の「モルモットが車になる」というアイディアが採用された。
「最初は『機関車トーマス』や『カーズ』のようにセリフのある作品を想像していたので、脚本が上がってきた段階でセリフがないことに驚きました。ただ、読んでみると社会風刺が効いていて、子どもだけじゃなくて大人にも伝わる内容になっている。
監督が最初にイメージしていたのはもう少し風刺の色が強い作品だったように思いますが、シンエイ動画はずっと子ども向けのアニメ作品を制作してきた会社なので、私たちのほうからは『子どもにも親しみやすいストーリーを』という話はしましたね。結果的に、監督の作家性と子ども向けアニメのエッセンスをうまい具合に融合できたんじゃないかと思います」
それでも、ここまでの反響は予想していなかったと語る梅澤氏。作品が話題になったことで、新たに気づいたこともあったようだ。
「2分40秒という短い尺数ということもあり、どうしたってストーリーを丁寧に説明することが難しい。
今、バラエティやワイドショーでも過剰なほどテロップを入れたり、ナレーションをつけたりするじゃないですか。ある意味、『モルカー』はそんな時代に逆行するようなコンテンツです。ただ、それでもこれだけの反響があるということは、たとえ子ども向けのアニメ作品でも、1から10までかゆいところに手が届くようにしちゃダメだということを改めて感じましたね」
残念ながら、『PUI PUI モルカー』の放送は3月23日で最終回を迎えるが、一度観たらその独特の世界観にハマること間違いなし。最終回は要チェックになりそうだ。
◆『クイック・ジャパン』vol.154(2021年2月26日発売/太田出版)