浦添市勢理客にある国立劇場おきなわがきょう、開場20年を迎える。 「沖縄の伝統芸能の保存振興のために専用の劇場が必要だ」という芸能関係者らの悲願が結実し2004年、全国6番目の国立劇場として開場した。
 以来、伝統芸能の鑑賞機会の提供や、組踊の実演家養成、伝統芸能の調査研究などに役割を果たしてきた。 最大の成果は、組踊の若手後継者が確実に育っていることだろう。沖縄戦では多くの犠牲が出て、戦後の担い手不足は深刻だった。特に演者である「立方(たちかた)」の育成は急務とされてきた。 開場翌年から始まった組踊研修生はこれまでに57人が修了した。現在は7期生9人が3年間のカリキュラムを受講。
組踊の実技(立方、地方)や、講義形式で人間国宝の技をじかに学んでいる。 こうした修了生たちは現在、公演の中心的役割を担う。他にも学校での上演活動や小舞台での演奏会など活躍には目を見張るものがある。国立劇場の新たな支え手としても期待されており、着実に裾野を広げてきた。 企画公演では古典作品のほか、芥川賞作家の故大城立裕氏による新作組踊の上演などで伝統芸能に新たな風を吹き込んだ。 10年からは創作舞踊の公募表彰事業を開始。
19年からは組踊の新作(戯曲)を募集する事業も始まっている。 現状に安住すれば技芸は停滞し、魅力を失う。伝統を守り続けるためにも、新たなチャレンジにつながる取り組みが求められている。■    ■ 自主公演の年間入場者数は昨年度1万4011人で、ピーク時(15年度1万8372人)の76%にとどまったものの、新型コロナ禍の影響から回復の兆しを見せた。 一方、過去19年の年間平均上演回数が約40回というのは物足りない。 大劇場は昨年度、年間48日、小劇場は同92日を一般に貸し出しているが、その多くは週末の利用だ。
平日は公演がなく劇場が閑散としている日も少なくない。 伝統芸能の舞台に適した装置を備える施設は県内にほとんどない。児童生徒向けの公演も国立劇場で実施するなど、上演回数やイベントを増やし県民が日頃から足を運ぶ機会につなげてほしい。 沖縄の伝統芸能を広く発信する目的を考えれば、観光客もさらに呼び込みたい。 300年前の舞台の再現を試みた初の野外公演(19年10月)は反響を呼んだ。学校や企業とも連携して集客力を高める工夫が必要だ。
■    ■ 沖縄の文化は、中国や本土、さらに太平洋の島々との交流から形づくられてきた。国立劇場の事業の柱の一つにも「伝統文化を通じたアジア・太平洋地域との交流」が明記されている。 国際情勢が複雑化する中、文化交流が平和の維持に果たす役割は少なくない。 伝統芸能の海外への発信や、県内に海外の文化を紹介する事業など、アジア・太平洋地域の交流拠点としての役割の深化も望みたい。