防衛省は、敵基地攻撃能力(反撃能力)がある長射程ミサイルを、陸上自衛隊の健軍駐屯地(熊本市)と富士駐屯地(静岡県)に配備した。2022年に策定した安保関連3文書に基づくもので、配備の第一陣となる。

 健軍には中国の沿岸部や台湾周辺海域にも届く射程千キロ程度の「25式地対艦誘導弾」、富士には変速軌道で飛ぶ「25式高速滑空弾」を配備した。
 海自のイージス艦「ちょうかい」には巡航ミサイル「トマホーク」の発射能力を搭載した。26年度中には長射程ミサイルを北海道の上富良野駐屯地と宮崎県のえびの駐屯地にも配備する。
 日本が反撃能力の保有に踏み切ったのは、軍事力を増強する中国をけん制する狙いがある。
 中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を実施するなど東アジアの安全保障環境が変わってきていることは事実だ。
 勘違いしてはならないのは、「安全保障」は、軍事力だけで成り立つものではないということだ。
 国の領土や主権、国民の生命、財産を外部の脅威から守る。その目的達成には、外交による信頼関係の醸成や民間、経済交流など多面的な方策が求められる。
 価値観を共有し、相互認識を深めることで「敵」をつくらないことも、重要な安全保障政策だが、今の状況はあまりにも抑止力一辺倒になっている。
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 台湾有事が「存立危機事態」になり得るとした高市早苗首相の国会答弁に、中国は「内政干渉だ」と強く反発した。
 今年に入り、日本を「新型軍国主義」との言葉を使い批判を強め、日中関係は冷え込んでいる。
 高市首相発言には、米国家情報長官室の年次報告書も「重大な方針転換」と指摘し、日中間の緊張の高まりを懸念した。

 さらに、現職の自衛官が刃物を持って中国大使館の敷地内に侵入し、逮捕される事件が発生した。ウィーン条約で約束されている大使館の安全を脅かす重大事案であるにもかかわらず、日本側の反応は鈍く、中国側は非難を強めている。
 感情的な対立が深まり、信頼関係がない中でのミサイル配備は抑止力としての働きよりも、かえって緊張を高め安全保障のジレンマに陥らせる危険性が高い。
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 長射程ミサイル配備は日本が掲げてきた「専守防衛」を形骸化させるものだ。
 配備に際し地元からは「攻撃されるリスクが高まるのでは」との声が上がっている。これに対し、内倉浩昭統合幕僚長は住民の不安を問われ「ご指摘のようなことよりも抑止力を高める効果の方が大だ」と発言した。後に住民の不安を指したものではないと釈明したが不信を買って当然だ。
 米国、イスラエルによるイラン攻撃では応酬が続き、対立が激化している。今、世界に求められているのは不信を拭う外交力だ。軍事力を強めるだけでは問題解決にならない。
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