本当に必要かといえばそうとは思えないし、ましてや今やらなければならない緊急性は認められない。
 日本国旗を傷つける行為を罰する「国旗損壊罪」の制定に向け、自民党はプロジェクトチームの会合で法案の骨子を示した。

 骨子は、国旗を公然と「損壊、除去、汚損」する行為に加え、自らその状況を撮影した動画や損壊した国旗の画像を不特定多数に「頒布、公然陳列」する行為も処罰の対象とした。
 会合では過剰規制を問題にする意見など慎重論が相次いだという。
 外国の国旗に対する損壊罪はあるのに、日本国旗に対する損壊罪がないのはおかしい-自民党と日本維新の会は、連立政権合意書でこうした状況を「矛盾」と捉え、今国会での「是正」を目指している。
 しかし外国国旗の損壊罪は、外交関係を重視する立場から、外交上の利益を考慮して設けられたもので、自国の国旗損壊罪とは立法目的が異なる。
 国旗損壊罪という新たな刑罰を設けるためには、必要性や正当性を根拠付ける立法事実がなければならないが、実態の検証は不十分である。
 1987年の海邦国体で、掲揚された日の丸が引きずり下ろされ燃やされた事件があったが、器物損壊罪などで有罪になっている。現行法でも対処できないわけではないのだ。
 国旗損壊罪の制定によって懸念されるのは、表現の自由が侵害されるのではないか、という点だ。
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 移民国の米国にとって星条旗は、国家としてのまとまりを象徴する特別な重要性を持っている。
 その一方で連邦最高裁判所は89年、国旗を燃やして逮捕・起訴された事件で、国旗焼却を合衆国憲法修正第1条で保障された表現の自由に当たると判断した。
 言論・表現の自由、内心の自由が持つ意味について、深く考えさせる判決だ。
 芸術の分野では今でも、国家批判を含めさまざまな表現が試みられている。
日の丸を「加工」することによって自分の内面を表現するという手法は、表現の一つの形式ともいえる。
 なぜ、国旗損壊罪を導入し、罰則規定まで設けるのか、その理由がよく分からない。
 香港では、中国国旗を燃やしたなどとして、民主活動家らが「国旗侮辱罪」で逮捕された。
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 「保護法益」という言葉がある。法律が守ろうとしている利益や価値のことである。
 自民党は「自国の国旗を大切に思う一般的な国民の感情」を保護法益と位置付ける。立法目的と罰則という手段に果たして合理的な関連性はあるのか。
 自民党の岩屋毅前外相は「一部の人の心情に訴えるための政治的アピールのような立法になる。憲法に照らしても適切ではない」と指摘する。
 繰り返しになるが、罰則付きの国旗損壊罪を制定する社会的な緊急性はどこにもない。
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