今回の選出アーティストは、4月22日にメジャー1st Mini Album『CHAP』をリリースするエドガー・サリヴァン。
萌ちゃんと音楽やってきて よかったなと思えました
ーーまずは、音楽を始めようと思ったきっかけを聞かせていただけますか?
佐々木萌(以下、萌):中学生くらいからロックやポップスを中心に四六時中、熱中して聴いていて、特にフジファブリックの音楽が好きでインタビューやコラムも雑誌などで読んでいました。楽曲制作のスタンスや物事への向き合い方のストイックさなど人間としての佇まいにも惹かれて、ルーツとなった昔の音楽なども聴き漁っていましたね。そんな中、ボーカルの志村さんが亡くなった衝撃は本当に経験したことのないものでした。大好きな人間の発する新曲が聴けない(当時、現フジファブリックのお三方がバンドを継続する発表はしていなかった)ということが、どういうことなのか時間をかけて思い知り、更にすべての楽曲を大切に聴き続けることになりました。
坂本遥(以下、遥):中学生のとき、日比谷野音でギタリストであるCharさんのライブを見て、何にも上手くいかなかった自分でも、これをやれば自分も周りもひっくり返せると思って。自分の出す音やパルスで人を惹きつける姿が心からカッコいいと思いました。
ーー佐々木さんは最初ひとりで活動されていたようですが、そこからバンド~ユニットスタイルへと変化させていったのはなぜでしょうか?
萌:当時、弾き語りとサポートメンバーを迎えたライブのどちらも行っていたのですが、だんだんとバンドスタイルでやるイメージで曲を書くようになったり、単純に一緒に音を出す事が楽しいと感じたりして、サポートメンバーとの絆というか関係性も深まってくる中で、メンバーに“バンドをやらないか”と提案をしました。初期のメンバーは、それぞれがゼロキャリアの中でその楽しさとおもしろさだけで集っていたんですが、いろいろな経験や出会いを重ねていくうちに、自分のやりたいスタイルを見つけて新しい場所で音を鳴らす事を選んだメンバーもいたという感じですね。だから、今に至るまでの体制の変化は、なぜ?というのは、その活動の流れの中での単純な結果ということです。
ーーそのスタイルを進化させていく中で、楽曲制作の仕方や気持ちの変化はありましたか?
萌:もちろん。
ーー今回のアルバム名は『CHAP』ですが、表題曲「chap」に関して5 曲目に位置付けした理由や意図した全体のコンセプトはどういったものでしょうか?
萌:曲順は全ての曲が出揃った時点で自然に落ち着くものがあり、選択肢はたしか2案ほどしかありませんでした。作り方も録り方もシンプルなこの曲は、ほかの曲を聴いていく中で、急に近く聴こえる意表をついた位置がいいなと思ってこうなりました。
ーー 「chap」は一発録りされたようですが、普段のレコーディングとの違いは?
萌:普段のレコーディングではクリックのガイドを聞きながらなので、癖でテンポキープだとかを考えながらですが、この曲は、それらを忘れて慣れたブースの中でふたりっきり、“せーの”で録りました。「chap」は、ほかの曲を録り終えた後に、なにも飾らずに素直に言葉を紡いでみようと思い作った、とても短い時間でできた曲です。
遥:「chap」の歌詞を見て、“ああ萌ちゃんと音楽をやってきてよかったなぁ”と思えました。僕らが歌うべきことを僕らなりの温度で言ってくれていると思います。
ーー“自分たちのワンシーンを素直に切り取った曲になった”と何かで拝見したのですが、今のエドガー・サリヴァンをどう表す1曲になっているのでしょうか?
萌:内容については、聴いて感じてもらえればと思います。楽器については、ギターと少し古いソフトなピアノだけなので、そういった意味でメンバーふたりがそこにいる、あるがそのまま、という感じですね。
ーー楽曲制作に関してですが、歌詞やメロディどちらかが先行だったり、ふたりの役割分担や法則的なものはありますか?
萌:理想は、パンチラインのメロと歌詞が同時に降ってくることです。法則は…あったような気もしますが、最近また作り方が変わってきているので今はなんとも言えないです。歌詞やメロより先にリフやコード、ビートから組んでいく曲もあります。
遥:メロディのアイデアについては萌ちゃんを全面的に信用しているので、僕がトラックの種を作って隣りで歌ってもらって、というパターンが増えてきています。一緒にディレクションしていくのは楽しいです。
ーー「Begininnʼ」と「DOKI DOKI」はテレビ番組のテーマソングに起用されていますが、放送で流れた際に感じたことや周りからの反応はいかがでしたか?
萌:どちらの番組もMVとともに放送して頂けたので、発見してくれて顔を知ってくれる人が増えたような気がします。
ーーリード曲の「DOKI DOKI」ですが、MVに呪い人形が出てくるなどおもしろい試みだと思ったのですが、どのような経緯でこういった企画になったのでしょうか?
萌:ドキドキすることを、ゲームやバーチャルといった過激な世界や強い酒、ドラッグなどに求めるのではなく、音楽や目の前の人に“純粋に恋をすることでときめいていこうよ”というメッセージを込めた曲なんですが、MVの監督には“少しだけ人間的グロテスクさを入れたい”と事前に提案していました。仕上がりはゲームに熱中して目の前の恋人をないがしろにしてしまっている男に対してのアンチで、女の子が藁人形を打ったりゲームを壊す描写なので、インスタントな快楽に逃げるものすべてへのアンチという意味では、むしろ曲の主張の象徴ともいえるかもしれません。
ーー耳に残るフレーズやメロディだと感じましたが、キャッチーなサウンドやフレーズはどういった時に思いつくのでしょうか?
萌:水場(お風呂の湯船の中、シャワー、トイレ、キッチンなど)が多いです。
そこで会える人たちが大切だし、 ライブができる環境が大切
ーーほかの楽曲に関しても伺いたいのですが、「エンドゲーム」の歌詞で“今夜サンタさんになって君の部屋まで行く”というフレーズが印象的でしたが、この季節のリリースで“サンタさん”を入れようと思ったのはなぜでしょうか?
萌:最初、遥のデモには歌詞もフルで入っていたのですが、男目線というか別の目線のストーリーでした。歌詞は書き直してるのですが、このフレーズは印象が強かったので、そのまま活かして使うことにしました。季節というより部屋に侵入するためのヤバい口実という感じです。
遥:“今夜サンタさんになって君の部屋まで行く”というパンチフレーズから作っていった曲なので、これが曲の核になっている、ということです。萌ちゃんが書き直してくれた歌詞の中に僕のフレーズがあまり残っていなかったので、面白いバランスになったなと思っています(笑)。
ーー 笑。「KEMONO feat.なみちえ」ですが、コラボレーションしようとしたキッカケとやってみていかがでしたか?
萌:きっかけはYouTubeで、なみちえのソロと田村兄弟のユニットTAMURA KINGの楽曲を聴いたことです。声とリリック(と彼女の哲学)が素直に良くて、コラボしようとメールで熱烈にナンパしました。ビデオ作りを含め全行程楽しくて最高でした。
ーー「エンドゲーム」のように、日頃起きていることやニュースからヒントを得て曲に取り入れることは他にもありますか?
萌:普段の生活のなかで曲ができるとなると、日常見たものを取り入れるのは自然なことだと思います。フィクションを書きたいという気持ちが最近は薄れてきています。見て感じたものがあれば他人事ではないので、イメージが膨らめば形にしていきたいと思います。
ーー「ジョニーはご機嫌ななめ」ですが、ジューシィ・フルーツのオマージュをしようと思ったきっかけ、そして、曲中の“僕”のように、少年時代を振り返って“初心に戻ろう”と感じた出来事はありますか?
萌:「ジェニーはご機嫌ななめ」この曲を知ったきっかけはPerfumeさんのカバーでした。ジェニーときたらジョニーもいるだろ、とタイトルを決めただけでそれ以上の意味は特にありません(笑)。詞の内容は、東京に来て、髪の毛を派手にしてサングラスかけてブイブイ言わせてる男子メンバーに対して、数年前に誕生日プレゼントとして書いた曲です。
遥:長い間あたためた曲になったなぁと思います(2018年がデモ初稿)。元々、誕生日に贈ってくれた曲なんですが、お前ら調子乗ってるな!っていうのを卒業アルバムの例えで表現してくれたのが面白い視点だと思っていました。でも今後も基本的には調子に乗っていきたいです。それが初心なので。
ーーちなみに、幼い時の夢は何でしたか?
萌:音楽雑誌のライターと、婚活イベントの主催です。
遥:昆虫博士です。今は虫を見るのも嫌です(笑)。
ーー 笑。私たちはコンサートイベント科の学生なのでライブに関して伺いたいのですが、レコーディングと観客の前で演奏するライブとでは、どういった違いがありますか?
萌:ライブでは、表情や振る舞いすべてで歌う、演奏することです。“どうだ、ぐっと来い”、みたいなエネルギーはレコーディングのときは出していないので。
ーーライブをするにあたって心がけていることは?
萌:ライブをするにも出来なくなっちゃって、ライブがしたいな…と思っています。
遥:ひとりよがりになり過ぎないこと。感謝を込めてステージに立っています。
ーースタッフの必要性について伺いたいのですが、どういったことを求めていますか?
萌:スタッフ含め多くの人が本番に鳴った音楽に感銘を受けながらやっている、良い音を鳴らそうとやっている現場はやっぱりいいオーラになりますよね。
遥:イベント前の資料や準備、機材のセッティングや音響周り、楽屋や導線、諸々。ある程度自分でやることも不可能ではないのですが、演奏に集中できればできるほど確実にパフォーマンスもアップします。だからスタッフがいる現場の時は、できる限り演奏だけに集中するように心がけています。スタッフの皆さんがやってくれていることすべてが、ステージのパフォーマンス向上に確実につながっていると思います。ありがたいです。
ーーここ最近、新型コロナの影響でたくさんのライブが中止になっていますが、ライブを楽しみにしている音楽ファンの方々に今伝えたいことはありますか?
遥:僕らもライブで皆さんに会えるのを心から楽しみにしています。ライブがしたくてウズウズしています。リモートで演奏を合わせることは難しいことではないですが、やはり生で合わせる魅力は唯一無二です。一日でも早くライブができるよう、今は健康に、手洗いうがいをして、なるべく外に出ないように過ごしましょう! 心も健康に過ごせるように、家でできる楽しいこともいっぱい探しましょう。
ーー新体制になって初めてのワンマンライブを6月に控えていますが、どのようなものにしたいと思っていますか? その為に進めていること、やっていることがあったら教えてください。
萌:今はとにかく開催を願いながら日々できる事をやっています。ワンマンライブは大切ですが、つまりそこで会える人たちが大切だしライブができる環境が大切です。それらの大事さを痛感しています。ひょっとすると普段感じられなかったようなことを今たくさん感じています。だから、開催して会えたら、新体制のことや『CHAP』のリリースに大きく加えて、この数ヶ月思ったことや演奏できる喜びを伝えたいと思っています。今感じることをまた新たに曲にしたり、オンラインで進められる衣装やグッズの打ち合わせなどは進めていますよ。
ーー今後の夢や、こんなことやりたいなど願望はありますか?
萌:日本のもっとたくさんの地域にツアーで行きたい。ドラムやベースを含むすべての楽器をメンバーふたりのみで演奏する曲を作りたい。あと、ホーンや弦楽器などとのコラボレーションがしたいですね。
ーーでは、最後の質問です。漠然とした問いかけになりますが、あなたにとって音楽とは?
萌:心が動いてることを確認できる方法、最近は自分が思ったことを聴いてもらえるきっかけになるコミュニケーションの一番好きな方法、だと思います。
遥:音楽がないと自分の中の大きなピースが欠けることになると思います。そもそも自分が自分でいるために必要なもので、それをみなさんに届けることが出来るなんてことは幸せなことこの上ないです。音楽はそれを通じて沢山の人と出会い関わらせてくれる、生きることそのものみたいなものだと思います。
取材:椎名康予 丸山桃花(日本工学院専門学校 蒲田校コンサートイベント科)
ミニアルバム『CHAP』
2020年4月22日(水)発売
ASCU-778 /¥2,000(税抜)
【ライブ情報】
6月28日(日) 東京・shibuya WWW