■渡辺謙、医療ジャンルに葛藤しつつ北川悦吏子の手紙が後押しに
『ロングバケーション』(フジテレビ)や『ビューティフルライフ』(TBS)で知られる北川悦吏子氏が作、渡辺は7キロの減量をするなど役作りをして挑んだが、これまでは医療モノの作品への参加は断ってきた。
その理由について渡辺は「本当の苦しさや悩みをドラマで描けるのか。ドラマにしていいのか、という葛藤が僕のなかであったからです。唯一、アルツハイマーが題材の映画をプロデュースしました。それを書いたメールでお断りしたんです。すると北川さんから3倍くらい長いメールが返ってきまして。
脚本を読み「『医者が死ぬことをコントロールしていいものなのか』を前提としている物語なので『この作品を放送して大丈夫なのか?』と思いましたが、でも生きることや、それを支える愛がそれぞれの登場人物に描かれていて、生きる・死ぬという根源的なテーマを、ライトで滑稽ででも最後は腑に落ちる“北川節”で書かれていると感じました」と納得したそう。
ドラマ『オレンジデイズ』以来20年ぶりの北川作品に参加する妻夫木も「北川さんの世界観は独特でファンタジックでもあるけどこういう世界があったら、こういう相手がいたらいいな、と、自分と重ね合わせて入っていけるような印象を持ちました。俳優とはフィクションを扱う仕事ではあるけど『うそを真実にしてもいいんじゃないか』と思える台本でした」と希望を感じた脚本だったという。
■妻夫木聡、家族ができて変化「『死ねないな』と思うようになった」
繰り返される手術と抗がん剤治療にうんざりした成瀬は陸に「殺してくれよ」と頼み、あっさりと承諾した陸だったが、「でもその前に、やりたいことはありませんか」と提案。バイクで旅に出た2人はキャンプをしたり、生まれた街へ行ったり、初恋の人に会ったり…人は何のために生き、何を残すのかという永遠の問いの答えを求めながら各地をめぐることとなる。
人が死に向かう姿を丁寧に描写した今作。撮影を通し、妻夫木は「より一層、『なんのために生きているのか』という問いに、「家族のために生きている」とはっきり感じるようになりました。結婚して子どもができるまでは考えていなかったし、役者の仕事にまい進して『いつ死んでもいいな』と思うこともあった。でも今は家族ができて『死ねないな』と思うようになった。今は、1分1秒を生きることがとても貴重。なんでもないこと、例えばコーヒーを飲む瞬間だけでも幸せを感じられるようになった気がしますし、ものごとに対して冷静に見れるようになった。
今作は「陸の再生物語」だとする渡辺は「幸せってそんなに大きなものではない。夜、寝る前に布団に入る時間が幸せだったり、そんな瞬間の積み重ね、小さい幸せを日々見つけていかないといけないんだ、と思いました。僕自身も大きな作品に出ることができたりすることも喜びですが、人間としては些末(さまつ)な日々のなかに誰にでもある幸せをみつけたい。それがこのドラマでは数多く描かれていた気がしました」と自らと重ね合わせた。
物語にちなみ“死ぬ前にしたいこと”を問われると妻夫木は「結局、家族になってしまう。
続けて「(自分の意識が)違うことに向くようになってきちゃったのかもしれない。親としてやることは用意しているけど、子どもたち自身、どう育つかはわからない。
■妻夫木聡のべた褒めに渡辺謙が照れ笑い「もういいじゃん(笑)」
ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)や映画『怒り』(2016)など同じ作品に出演することがあったが本格的な共演はこれが初めて。クランクイン前には妻夫木が渡辺の家に泊まり、交流を深めた。
「しっかりお芝居する機会はなかったけど会うと気さくに話してくれる。想像以上に、キュートな方です。
妻夫木に渡辺は「変わらないんだよね、妻夫木は。いつどこで、別の作品で会っても、結婚して子どももできて、背負うものができても変わらない。なんか別人格というか実人生と自分は上手にすてきに生きてる。いつ会っても印象はかわらない。これから5、60代になってどう年輪を重ねていくのか楽しみ。変わっていくことと変わらないことが僕は楽しみです」と期待をかけていた。