舞台は、愛知県。
名古屋市南区に暮らす住人(アルジ)は、3代目として60年続く工務店を継いだ夫妻で、2人の子どもがいる。昨年構えた新居は間口が2.7メートル、奥行きが15メートルと細長い、いわゆる“ウナギの寝床”。建坪は12坪と決して広くはないが、そもそもこの土地は夫の実家の駐車場だったという。
玄関を入ると約6メートルの吹き抜けがあり、空間を斜めに貫く無数の木が目に飛び込む。これは「筋交い」という柱と柱の間に斜めに入れる補強材で、合計18本もの筋交いが入っている。空間を貫いていると邪魔になりそうだが、アルジには木材を切らず、そのままの形や長さで使いたいという思いがあったという。実は、この家に使った木材はほとんどが「デッドストック木材」なのだ。
新居を建てるにあたり、約2500万の予算内に収めるために、デッドストック木材を活用することにしたアルジ夫妻。デッドストック木材とは、新品のまま工務店の倉庫に眠っていた木材のこと。祖父と父が使うあてもなく、良いものだからと購入していたものだった。これら大量の木材を子どもの代まで残さないためにも、新居に使いたかったが、一方で愛する木材はできるだけ切りたくない…そこで長い木を斜めの筋交いとしてそのまま活用した。
そんな筋交いが交差する、玄関を入ってすぐの場所はワークスペース。壁のほとんどを窓にすることで、明るく開放的な空間になっている。奥のスペースと隔てる仕切りは、和室で使われる欄間。「虫食い欄間」と呼ばれる、虫に食われて自然にできた模様をあえて楽しむという貴重な欄間で、これを縦にして間仕切りとして利用。穴が開いているので、視線をカットしつつ、光と風を採り込める。
家全体は、建坪12坪の限られた空間を広く使うため、床の高さをずらした4層のステップフロア構造にした。水回りは一番下の層にまとめて設置した。「まったく木がないところをなくしたかった」というアルジは、浴室も天井だけを木にしている。木のぬくもりが感じられる家に住んで、妻は「やっぱり気持ちがいいのか、全然家から出なくなっちゃいました」と変化を語る。