■2年越しの転職劇 60歳になっても日々発見「すごくいい機会をいただいています」
――まずは、大阪・MBS毎日放送から、ニッポン放送ショウアップナイターの実況陣に加入することになった経緯から伺わせてください。
毎日放送時代から『ニッポン放送ショウアップナイター』のプロデューサーさんと懇意にしておりまして、私が2年前に阪神戦の実況で神宮に来た時にたまたまお会いしたんです。そこで「子どもたちも就職したから、定年後には妻と東京に行こうかって、冗談で話しているんです」なんてことをしゃべったんです。
その2ヶ月後、今度は交流戦でベルーナドーム行った時に(プロデューサーが)わざわざ来てくれて「馬野さん、この前の話どうなっていますか」と聞かれたのですが、僕は全然覚えてなかったんです(笑)。それでも「もし、本当に東京にいらっしゃるのであれば、ウチでやりませんか?」と言ってくださって。僕はもともと、中学生の時に『ニッポン放送ショウアップナイター』を聴いて実況アナウンサーを目指した人間だったので。60歳になるタイミングで加入できるなんて、こんなすばらしいことはないという思いがありました。家に帰ってから妻とも話をしまして、そこから2年かけて実現の運びとなりました。
毎日放送には(定年よりも)早めに退職することを伝えていたのですが、その後のことは話せないこともあって…。なので、毎日放送のスタッフたちが「馬野さんの最後の実況を盛り上げましょう!」と言って、昨年9月の実況を盛り上げてくれて。12月には、僕のために2時間の特番まで組んで、古い素材を出してきてくれたんです。
『ニッポン放送ショウアップナイター』実況陣に加わっててから5ヶ月ほどが経ちます。毎日放送にいた頃は、自分が最年長で、よっぽどのしくじりがないと「きょうの放送、ちょっとあそこが…」みたいなことは言われなかったんです。でも、ニッポン放送に来たら、自分よりも先輩が7人もいらっしゃるので、自分から話を聞きに行くと、いろいろと教えてくださいます。60歳になってからでも、もっともっと聴きやすい放送というものが追求できるんだなと、すごくいい機会をいただいています。
――『ニッポン放送ショウアップナイター』の型みたいなものを感じることはありますか?
実況のスタイルは今まで通りやらせてもらっておりますが、やはり『ショウアップ』という名前がついているほどなので、その部分は意識するようにしています。これまで36年やってきたスタイルを変えることは簡単でないですが、『ニッポン放送ショウアップナイター』でやっているんだということを心がけて取り組みたいと考えながらやっています。
■甲子園での“凱旋実況”に意気込み グラウンドのコンディションも取材「こだわってお伝えしたい」
――Mr.ショウアップナイターと呼ばれる深澤弘さんから、生前に「テキスト」を受け取ったことがあると伺いました。
深澤さんには、すごく気にかけていただきました。僕が40歳を少し過ぎて管理職になったぐらいの時に「最近どうだい?」とお話してくださったので「ちょっと現場の仕事も減ってきまして」なんて答えたのですが、深澤さんが「若い人を育てる時期だよね。じゃあ、オレが松本秀夫を育てた時のテキストがあって、それを送るから、若いアナウンサーをしっかり育ててくれ」とくださったんです。そのテキストを読んでみると、僕も勉強になることがたくさん書いてありました。
書いてあることは基本的なことなのですが、例えばアメリカの実況中継では「ゆで卵」と呼ばれているものがあると。何かといえば、ゆで卵は3分で出来上がるから、その間にイニング・得点・経過を伝えなければいけないということなんです。あとは、現場で野球をたくさん見なさいと。最近だとコロナ禍で現場に行けない時期もあって、若い世代のアナウンサーたちはテレビの画面を見ながら実況の練習をしていたのですが、どうしても視野が狭くなってしまうんですよね。「とにかく野球を見て、解説者としゃべりながら、放送じゃない時も見て学びなさい」という深澤さんの教えは、今後も大事にしていきたいと思います。
――馬野さんと『ニッポン放送ショウアップナイター』のつながりを感じるエピソードでした。
先ほども申し上げましたが、もともと『ニッポン放送ショウアップナイター』のリスナーだったので、深澤さんの中継も聴いていましたし、松本秀夫さんの実況デビューも聴いています(笑)。だから、自分がリスナーとして聴いて、憧れていた方々と一緒にできているというのは、夢のようです。
――29日(金)の阪神対巨人戦は、甲子園での実況です。馬野さんにとっては“凱旋実況”となりますね。
そうなんです。ただ、去年までは毎日放送で阪神サイドに立った放送を届けていたのですが、今回は『ニッポン放送ショウアップナイター』ですから、慣れ親しんだ球場ではあるものの、実況は全然違うものになりますね。
――それは馬野さんならではの心配ですね(笑)。逆に、自分だからこそできる強みはどこでしょう?
今回の3連戦は、僕含めて3人のアナウンサーで行うのですが、この時期の甲子園の暑さに最も慣れているのは、僕だと思います。もう想像を絶する暑さです。東京ドームで実況をしている時は、500ミリリットルのペットボトルを1本飲むか飲まないかくらいなんですが、甲子園の夏は500ミリを3本飲んでました。甲子園はスタンドの中に放送席が独立していなくて、観客席の中に放送席のある球場なので、球場の観客の声援をものすごく拾うんですね。だから、ファンのみなさんの声に負けないように…ということをものすごく訓練をしてきたのですが、これまでのキャリアの中で、甲子園での実況をしていないブランクが最も長いので、負けない声がしっかり出せるのか、少しだけ不安を持っています。
あとはグラウンドの状態も、自分なりにこだわってお伝えしたいと思っています。阪神園芸・甲子園施設部長の金沢健児さんとは親しくさせてもらっているのですが、試合当日の天気予報が悪い時は、必ず彼のもとへ取材に行っていたんです。そこで「きょうの状態なら、ちょっとの雨でもダメそう」とか「きょうは下が乾いてるから、かなりの雨でも大丈夫です」などといった状態を聞いておく。
――『ニッポン放送ショウアップナイター』も来年で60年です。もともとはリスナーとして親しんできて、この4月から担い手のひとりとなりましたが、そんな馬野さんから見た魅力をお聞かせください。
やっぱり僕は『ニッポン放送ショウアップナイター』のDNAというものがあると思っているんです。始まった時の基本は絶対に崩さず、それを受け継いでいこう…という形で、60年綿々と、アナウンサー、ディレクター、技術の方と、皆さん受け継いできたと思います。もちろん、変えていかなきゃいけないものもあると思いますが、いいものは時間が経っても、伝えていかなきゃいけない。『ニッポン放送ショウアップナイター』のDNAを伝えていく一員になれたことは、すごくうれしいことですし、リスナーとしてはかなり聴いてきているので、自分の中にも少しはDNAがあると思っています。僕なりに、リスナーのみなさん、これからの『ニッポン放送ショウアップナイター』を背負っていくみなさんに、お伝えしていくことができればと思っています。
【馬野雅行】
1965年7月12日生まれ、東京都出身。1989年、毎日放送入社。甲子園をメインに阪神戦の実況を数多く担当、36年間の関西での実況生活中、阪神の優勝は3回あったが、自身の優勝実況は未だ経験なし。趣味は鉄道情報収集での「鉄分」補給。
<8/26(火)~31(日)の「ニッポン放送ショウアップナイター」>
8月26日(火)から31日(日)までの一週間、「ニッポン放送ショウアップナイター」では連日現金最大5万円が当たるプレゼントを実施。中継試合でホームランが出ると、ビールが当たる企画も行う。そして、8/30(土)の「阪神×巨人」には、阪神タイガース前監督で現球団オーナー付顧問の岡田彰布が「ニッポン放送ショウアップナイター」に初登場。江本孟紀とタッグを組んで、『ダブル解説』で届ける。