テレビ東京で25日午前11時半から、経済報道ドキュメンタリー『ガイアの夜明け』の特別版として、「ガイアの夜明けBeyond The Story」(テレ東BIZで配信中)を放送した。数々のホテルや旅館を再生させ、観光業界の“再生請負人”とも呼ばれる星野リゾート代表・星野佳路氏(66)に、いま街全体の再生に取り組む山口県・長門湯本温泉を“街ブラ”しながら、170の質問をぶつけた特別インタビューとなっている。


 番組の舞台は、星野リゾートがマスタープランを策定し、街全体の“面的”な再生に取り組む山口県・長門湯本温泉。星野氏が掲げるのが「オソト天国」というコンセプトで、各温泉旅館が自分の宿の宿泊客だけでなく、ほかの旅館に泊まる客にもサービスを提供し、もてなす。名物の夏みかんのどら焼きとスペシャルラテは宿泊客でなくても味わえ、紅葉の季節にライトアップされる竹林の階段や、川沿いに置かれたベンチが、そぞろ歩きそのものを楽しませる。

 その中心にあるのが、源泉が自噴する立ち寄り湯「恩湯(おんとう)」。地元の人にとってこだわりのある大切な施設だったが、観光地としては設備が古く、いまのスタンダードを満たせなかったため、マスタープランのなかで解体と建て直しを提案。地元の納得を得るまでには苦労もあったという。「時代が変わって集客を伸ばせず、一軒、二軒と倒産・破綻が始まっていた。私の計画が良いかどうかは別にして、これに乗ってみよう――前の世代の長門湯本から、新しい時代へ一気に、みんなで乗り換えるチャンスかもしれない。そう思ってもらえたんですね」と星野氏は振り返った。

 クールなイメージと、人を動かす熱さ。その両方を持つように見える星野氏だが、返ってきたのは意外な答えだった。「熱くなるのはスキー以外にないくらいの感じで生活しています」。
スタッフやチームに“熱”を伝えることも、「あまり意識していない」という。理論と根性なら、どちらが大事かという問いには「理論のほうがはるかに大事ですね。根性で仕事をする時代ではないかもしれない」と答え、感覚ではなく、証明された理論に軸足を置く姿勢が言葉の端々ににじませた。

 人と違う見方をするのは昔からなのか。そう聞くと、「学校の先生から“天邪鬼”だとよく言われていた」と星野氏。「世間で一般的にこうだと言われることに対して、まず“そんなことないでしょ”という気持ちが自分の中にある。そこから入っていって、それを論理的に説明できるかどうかを考えている自分がいる、という感じですね。反骨心というよりもう少し何の意味もない反抗心」と笑う。続いて「競争は好きか」と問うと、「好きというか、競争せざるを得ないと思っている。勝つためには戦略が必要で、確度の高い戦略をつくるには世界で証明されている理論を活用するほうが可能性が高まる」と答えた。

 事業を継ぐのは子どもであってほしいか。そう問うと、星野氏は「継いでほしいよりもファミリービジネスとして残ることが、いまの星野リゾートの段階では大事」だと語る。
理由は非上場であることの意味にある。「投資家が入れば、どうしても短期的な収益が重視され、海外進出や大規模な投資への意思決定がしづらくなる。本当の意味で持続可能な競争力に達するまでは、私たちはまだ世界の運営会社に比べて小さすぎる。当面は短期的な利益を気にせず、やるべきことに資源を集中できるようにするには、非上場で維持していくことが大事だと思います」。

 一方で、会社が将来どんな姿で続いてほしいかという質問には「あんまり僕らが規定すべきではない」と回答。自身は4代目で、「前の世代に“こういう会社であってほしい”と言われても気にしなかったし、気にしないからこそ自由に経営ができた。AIが出てくるなんて想像もしていなかった時代の言葉に、ほとんど意味はない。だから私も、そう考えるべきではないし、考えても無駄なんですね」。子どもについては「星野リゾート、星野ファミリーの資源を引き継いでいく重要な存在」としつつ、「選択肢はそれだけではない」とも語った。

 いま世の中が星野氏に一番期待していることは何か。星野氏が挙げたのは、外資系の運営会社が急速に日本市場へ入ってくるなか、“日本のホテルサービスとはこういうものだ”と提案しながら、彼らと対等に伍していくことだった。その象徴が、いま進めているアメリカでの温泉旅館プロジェクト。
「非上場のファミリー経営を維持しているからこそできること。すごく大きなリスクで、短期的な収益は落とすかもしれないけれど、将来、世界のホテル運営会社の中で戦っていくためには、今、絶対にやらなきゃいけない」と語った。

 アメリカへの進出は成功しそうかとの質問には「必ずうまくいくと思っているし、あそこでブレークスルーしないと、本当の意味で世界で戦うことはできない」。経営者としての最後の仕事になるのか、との問いには「あまり“最後”と気合を入れすぎないほうがいい」と前置きしつつ、「星野リゾートの戦略としては、やらざるを得ない。アメリカに行くなら温泉旅館で行く、これは正しいと思っている。私の代でできるならやりますし、できないなら次の代がやらざるを得ない。大事な戦略です」と語った。

 夜、温泉街のバーで、理論派の星野氏らしからぬ言葉が漏れた。「街づくりは理屈じゃなくて、懇親会が大事なんだ。飲み会が大事だ」。仲間と熱く語り合う姿を見て、あらためて「星野氏は人に火をつける人ではないか」とぶつけると、「そこは、すごく意識している部分です。同じ論理的に正しい戦略でも、表現の仕方によって、参加する人たちのやる気に火がつくこともあれば、少し間違えると火がつかないこともある。
同じ戦略、同じことであっても、どう表現すれば、みんなが自分ごとのように思ってくれて、ワクワクし、やる気に火がつくのか。そういうコミュニケーションを取ることが、経営者の仕事になってきているんですね」。

 では、人がやる気になるスイッチはどこにあるのか。星野氏は二つを挙げた。「一つは、正しい戦略だと思える納得感。もう一つは、利益や売上といったお金の部分だけでなく、そこに使命感を感じられる要素です。自分たちの仕事が本当に社会のためになり、地域のためになり、そこで生活する上で誇りを持てる。そう思えたとき、人はやる気を出すんだと思います。ただし、短期的にやる気を出させても、正しい戦略でなければ結果は伴わない。正しい戦略を考えるには、理論を重視して、論理的でなくては持続可能ではない」。熱を語りながらも、最後は理論へと帰っていくのだった。
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