家族の反対を押し切り、妻の祖父の田んぼを引き継ぐため、農業の道に進んだりお米さん。そんな彼が農作業をする姿と共に「僕は自閉スペクトラム症、通称ASDという発達障害を持っています」と投稿した動画が134.7万回再生を超える反響を呼び、「弱点を自分の武器に変えるってすんごい事ですよ」「極められるのはすばらしい事です」などと、コメントが寄せられた。
幼少期から振り返り学生時代や社会人になってからの生活、米作りへの想いなど、投稿者のりお米さんに聞いた。

◆“社会不適合者”だと思っていた日々から農業に挑戦「短所だと思っていた特性も、環境が変われば武器になる」

――Instagramでは「僕は自閉スペクトラム症、通称ASDという発達障害を持っています」という動画が注目を集めました。以前はご自身の特性によって、どんな場面で生きづらさを感じていましたか?

「一番は社会に出てからです。興味のないことは全然できないですし、相手の気持ちや場の空気をうまく読み取れず、悪気はないのに誤解を招いてしまうこともありました。当時は自分のことを、本気で『社会不適合者』だと思っていました」

――幼少期から「変わっているね」と言われていたそうですが、子どもの頃も苦労されたのでしょうか?

「正直、社会人になってからと比べたら、幼少期はそこまで苦労しなかった気がします。ただ、集団行動や周りに合わせることはすごく苦手でした。自分では普通に話したつもりでも、相手との受け取り方が違ってしまい『変わってるね』と言われることもありました。それでも当時は周りに支えられていたので、本当の意味で強く生きづらさを感じるようになったのは、社会に出てからです」

――米作りに出会う前は、ご自身の特性とどのように付き合っていたのですか?

「自分の特性とうまく付き合えていたというより、『自分はそういう人間なんだ』と割り切っていた部分が大きいです。多くの人が当たり前にできることが自分には難しく、そのたびに『自分は社会で扱いづらい人間なんだろうな』と感じていました」

――そこから、どのように意識が変わっていったのでしょうか?

「自分の特性を否定するのではなく、『自分に合う環境を探そう』と思うようになりました。そして、その答えが米作りでした。米作りでは、自分のこだわりの強さや1つのことを突き詰められる特性が強みになり、環境が変われば短所だと思っていたことも“武器”になるんだと実感しています」

◆妥協を許さない完璧主義、こだわりの強い性格も「米作りにおいては最強の武器になると確信した」

――さまざまな選択肢がある中で、なぜ「米作り」だったのですか? 出会いのきっかけを教えてください。

「僕はごく普通の会社員家系で育ち、農業とは全く無縁の環境だったので、特に興味を持っていませんでした。
しかし、妻とお付き合いをするようになり、妻のおじいちゃんがお米を作っていて無料でいただいていたんです。その恩返しがしたくて、仕事が休みの日に田んぼを手伝うようになったのが始まりでした」

――ご自身の特性が「米作りにおいては最強の武器になる」と確信したきっかけは何だったのでしょう?

「僕は興味のあることに対して異常なほどこだわりが強い性格です。米作りを始めてからは、栽培方法を調べたり本やネットで何時間も情報を集めたり、どうすればもっと良いお米が作れるか考えている時間が全く苦になりませんでした。会社員の頃は、そのこだわりを『面倒くさい』『考えすぎ』と言われることもありましたが、米作りではそれが品質に直結し、初めて自分の強みだと思えたんです。その時に、『自分の特性は欠点ではなく、米作りにおいては最強の武器になる』と確信しました」

――土作りや水管理、収穫など、具体的にどの作業でそのこだわりが発揮されていますか?

「具体的にこの作業だけ、というものはありません。僕は一度ハマったものに対して一から十まで突き詰めたくなる性格なので、土作り、水管理、肥料、品種の特徴、病害虫対策など、気になったことは1つひとつ納得するまで調べます。先輩農家さんに話を聞きながら、もっと良くする方法を考え続けています」

――作業の枠を超えて、米作りそのものに向き合われているのですね。

「そうですね。『どの作業にこだわっているか』というより、『米作りそのものに妥協せず、完璧を追求し続けている』と言った方が、自分らしい表現だと思います」

――理想の味を実現するために、他の人が見落としがちな部分まで追求されているのでしょうか?

「僕は妥協が苦手で、逆を言えば完璧主義なんです。例えば、田んぼの雑草も『あとでまとめて抜けばいい』と考える人もいますが、僕は生えていたら抜きたくて仕方なくなってしまいます。他にも、今まで使ってた肥料よりもっと自分の田んぼに合う肥料があるのではないかと追求したりします。これまでの常識を疑うような思考を持ちながら、自分にしかできない米作りを目指しています」

――「“変わってる”は、才能でした」と思えるようになるまで、周囲の言葉に傷ついたこともありましたか?

「『普通ならわかるでしょ』『空気読んでよ』と言われることは、何度もありました。
自分では何が悪かったのかわからないことも多く、そのたびに『自分は普通じゃないんだ』と感じていました」

◆発信を通して届いた温かい声と新たな決意「無理に普通になろうとしなくていい」

――反対に、周囲からの言葉で救われた経験はありますか?

「『変わっているところが、あなたの良いところだよ。自分はあなたみたいになりたくてもなれない』と言ってもらえたことです。それまでは、『変わっている=短所』だと思っていました。その言葉をきっかけに、自分にも誰にも真似できない部分があるんだと考えれられるようになりました。今では、変わっているは悪いことではなく、自分だけの個性であり、武器にもなると思っています」

――SNSでは温かい声がある一方で、心無い言葉が届くこともあるかと思います。どのような想いで発信を続けているのですか?

「最初は作ったお米を販売するために始めたSNSでした。でも、ASDを公表した動画にたくさんのコメントをいただく中で、『私の子どもも同じ障害があり、将来が不安でしたが、勇気や希望をもらえました』というメッセージをいただいたんです。自分の発信が誰かの背中を押すことができるんだと初めて気づきました」

――厳しく当たられることがあっても、発信を続ける理由がそこにあるのですね。

「もちろん厳しい言葉をいただくこともありますが、それ以上に『前向きになれました』『救われました』と言ってくださる方がたくさんいます。だから今は販売のためだけでなく、ASDがあっても自分に合う場所を見つければ特性は武器になるということを、自分自身の生き方を通して伝えていきたいです。それが誰かにとっての勇気や希望になれたら嬉しいです」

――最後に、今「生きづらさ」を感じていたり、自分の居場所を探している方へメッセージをお願いします。

「僕は大した実績もないので立派なことは言えませんが、ずっと『普通にならなきゃ』と思って生きてきて、どれだけ頑張っても普通にはなれませんでした。
だからこそ伝えたいのは、『無理に普通になろうとしなくていい』ということです」

――自分に合う場所を見つけることが大切なのでしょうか。

「そう思います。人にはそれぞれ向いている環境と向かない環境があります。僕は社会では扱いづらい人間だったかもしれません。でも、米作りに出会ったことで、自分の特性は短所ではなく武器になると気付きました。

今はまだ居場所が見つかっていない人も、それはあなたに価値がないからではなく、まだ自分に合う場所に出会えていないだけかもしれません。自分を否定せずいろいろなことに挑戦してみてください。いつか『ここなら自分らしく生きられる』と思える場所に出会えた時、今まで短所だと思っていたことが、誰にも負けない武器になる日がきっと来ると、僕は信じています」
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