他人になりすまし、恋愛感情を抱かせて金銭を騙(だま)し取るロマンス詐欺の被害が止まらない。ここ数カ月の間にも数千万円単位の被害が続出し、億を超えるケースもある。

札幌市在住の60代男性は、SNS(交流サイト)を通じて知り合った日本人女性を名乗る人物から投資話を持ちかけられ、総額約4億円を詐取された。

 警察庁によると、2024年の被害総額は、前年比約2倍の400億9千万円だった。被害者は40~60代の男女に集中しており、男女比では男性が多い。ロマンス詐欺の実態がメディアで報じられるようになったのは5年以上も前だ。以来、警察は注意喚起を続けたが、被害は収まるどころか拡大し、犯人の手口も巧妙化している。

 被害者たちは、借金の返済に追われ、人間不信に陥るなどその後も二次被害に苦しみ続けているが、一方の犯人は海外で野放しにされたままだ。

 彼らは一体何者なのか。

 被害が深刻化しているため、あらためて振り返りたい。犯人の多くはナイジェリアやガーナなどの西アフリカ、タイやマレーシアなどの東南アジアを拠点に詐欺を繰り返している。

 中でもナイジェリアはロマンス詐欺の発祥の地とも言われており、私が2年前に同国の商業都市ラゴスで取材をした犯人たちの多くは単独犯で、一般の大学生だった。スマホを使い、「愛の囁(ささや)き」が盛り込まれた共有マニュアルのメッセージを送り、相手の恋心を弄(もてあそ)んで投資話を持ち掛けるのだ。

 彼らのことは現地でヤフー・ボーイと呼ばれている。

同国ではその昔、政府高官を騙(かた)って外国企業から金銭を詐取する詐欺が横行していた。連絡手段は手紙だったが、インターネットの普及に伴い、それがヤフーメールに変わったことでその呼び名がついた。中には、成金になって豪邸や高級車を所有する「詐欺王」も存在し、ヤフー・ボーイたちの憧れとなった。

 「ロマンス詐欺は犯罪だと思っていない。あくまで生活をするための仕事だ」

 「相手の外国人は先進国にいるから、少しぐらいお金を取っても大丈夫だろう」

 被害者の気持ちを考えると、そんな彼らの言い分は、到底正当化できるものではない。とはいえ日本を含む先進国からしたら、彼らが貧困の現実に直面しているのは間違いない。ナイジェリアの最低賃金は月額7万ナイラ(約6500円)で、日常生活では停電が頻繁に起き、特に若者たちの失業率は高い。将来への失望感が広がる中、周りの仲間が詐欺で小金を稼いでいたら、違法と分かっていても手を染めたくなるのだ。おまけに捜査当局も監視の目が緩く、「カネさえあれば逮捕を免れる」(あるヤフー・ボーイ)といった途上国特有の事情もある。

 日本の警察庁は今年2月、ナイジェリア当局と連携し、同国の犯人11人を検挙したと発表した。捜査機関がようやく重い腰を上げた形だが、これは氷山の一角に過ぎず、現地ではいまだに若者たちがスマホを手に獲物を探しているのだ。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 24からの転載】

水谷竹秀(みずたに・たけひで)/ ノンフィクションライター。

1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、「日本を捨てた男たち」で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。

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