「10年前はあのハイブランドも10万円ぐらいで買えたのに・・・」物価上昇が著しい昨今、友人同士でため息まじりにこんな会話になることがあります。

 でも、ブランドものとの関わり方は「所有」だけではありません。

先日、大阪中之島美術館で始まったルイ・ヴィトン「ビジョナリー・ジャーニー」展に行ってきました(会期は9月17日まで)。ルイ・ヴィトン創業170周年と大阪・関西万博を記念して開催された企画で、旅や匠(たくみ)の技、創造性、日本文化との共鳴、などのテーマで没入感に引き込まれる内容です。展示は、創業者ルイ・ヴィトンのアトリエを再現したおしゃれすぎる空間から始まり、数々の名品トランクの展示、村上隆や草間彌生ら日本人アーティストとのコラボについてや、ロボットが耐久性をテストするコーナー、プラネタリウム風の空間でバッグが回転するコーナーなど、次々と想像を超えた空間演出で圧倒されました。

 この日、朝から体調がいまいちだったのが、ヴィトンの品に囲まれていたら復活して、一流のアイテムが持つパワーを実感。人々がハイブランドを求めるのもエンパワーメント効果に潜在的に気付いているからでしょうか。経済的に所有できなくても、今回のような展示でブランド品の〝ヴァイブス〟を吸収するのでも良さそうです。

 治安が良い日本で、ハイブランドのバッグなどを持ち歩くのは問題ないのですが、国によっては危険です。先日、ハイソな方が集うパーティーで、セレブな女性たちが過去の物騒な体験について語っていました。ヨーロッパでは、プロのテクニックでブランドバッグなどが盗まれる事例があるそうで・・・。

 「レストランでバーキンを椅子の横に置いていたら、超オーバーサイズのワンピースの女性が近付いてきて、後ろを通り過ぎたらもうなくなっていたんです」と、語る元ミス・ユニバースの女性。「私はニースで一瞬荷物から目を離した隙に盗(と)られました。マジックのようでした」と、元キャスターの女性も話していました。

セレブにはセレブの苦労があるのかと思っていたら、元ミス・ユニバースの女性が「でも、盗まれるとそのあと収入が増えませんか?」と驚きの理論を発言。何か高価なものを手放すと、埋め合わせるように臨時収入があるのかもしれません。話を聞いて、怖いからヨーロッパに行きたくない、と小さい世界に閉じこもりそうになっていましたが、セレブならではのポジティブシンキングを見習いたいです。 

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 30からの転載】

辛酸なめ子(しんさん・なめこ)/ 漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。2025年2月に「江戸時代のオタクファイル」(淡交社)を上梓。

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