【最新公開シネマ批評】
映画ライター斎藤香が現在公開中の映画のなかから、オススメ作品をひとつ厳選して、本音レビューをします。

今回ピックアップするのは、綾野剛主演映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』(2025年6月27日公開)です。
日本で初めて教師による児童のいじめが認定された福岡県の小学校で起こった事件。この真相に迫るノンフィクションを映像化したのが本作です。試写で鑑賞しましたが、これが実話だなんて……恐ろしくて鳥肌が立ちました。

では、物語から。

【物語】
2003年、小学校教諭の薮下誠一(綾野剛さん)は、担任を受け持つクラスの児童・氷室拓翔(三浦綺羅さん)の母親・氷室律子(柴咲コウさん)から告発されます。教師とは思えない常軌を逸した行動により拓翔くんはメンタルが壊れて入院。その責任を問うものでした。

この一件は、マスコミにより世の中に知れ渡り、藪下は停職を余儀なくされ、さらに民事訴訟へと発展します。が、裁判で藪下は「事実無根のでっちあげ」と完全否認をするのです。

【いじめシーンの違和感】
映画の冒頭、薮下が行ったイジメの全貌が映し出されます。学校で行われる行為はひどいもので、体罰シーンは「死んじゃうよ!」と止めに入りたくなるほどでした。ただ、一連のいじめシーンは違和感があったんです。


たとえば、藪下は生徒たちに「前を向いて」と指示したあと、教室の後方で拓翔に暴力を振るうのですが、その暴力は前を向いていても生徒たちは気づくこと。

怖くて何もいえない、動けないのはわかりますが、そんなことがあったら、生徒たちは先生が怖くて学校に行きたくなくなるのでは?と。そもそも、あんなに盛大に暴力を振るったら絶対にバレるはず……。その違和感が “でっちあげ” を紐解く鍵になっていると思いました。

【学校側の対応に怒り心頭!】
拓翔の母親・律子が学校を訪れ、薮下のいじめを訴えます。ここから薮下の転落が始まるのです。きっかけは律子の訴えですが、その勢いに押されて、いじめのすべて認めて受け入れてしまった校長(光石研さん)の対応が薮下転落の背中を押したのでは、と思いました。

生徒や他の先生への聞き取りも不十分なまま、藪下に「とにかく認めて謝罪しろ」の一点張り。藪下の否定には聞く耳を持たず、この場を丸く収めることしか頭がない。きちんと対応をしていたら “でっちあげ” なんて起こらなかったはずなのに。

こんな校長が実在するなんて……と悲しくなりましたよ。

【モンスターペアレンツ律子の真意と藪下の逆襲】
本作の恐怖の中心にいるのは律子です。
彼女はなぜ息子が藪下のいじめにあったと訴えたのか。その真意は? 動機が見えないからこそ余計に不気味なモンスターペアレンツなんです!

しかし、藪下もやられっぱなしではなく、冤罪を訴え、信頼を取り戻すために動き出します。そのときに出会ったのが弁護士の湯上谷(小林薫さん)。

湯上谷は本当にいじめがあったのか、拓翔は本当にメンタルをやられているのかとコツコツと調査し、いじめの真実を炙り出していきます。と同時に、律子の過去も掘り起こしていき……。後半の展開はゾクゾクしっぱなしでしたね!

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【完璧なキャスティング、俳優陣が作品をレベルアップ】
この映画のレベルをより押し上げているのは俳優たちの演技。

理不尽な目にあっても必死に耐えた薮下。綾野剛さんは絶望的な状況でも誠実さを忘れず、諦めない藪下の真の強さを芝居で見せてくれました。

いっぽう、律子を演じた柴咲コウさん。淡々と藪下を追い込んでいく律子は感情を見せない、何があっても揺るがない、鉄の心臓を持つ母親。この人を敵に回したら大変なことになる!と思わせる強烈なパフォーマンスは、怖すぎて震えました……。

藪下の救世主となる湯上谷弁護士を演じた小林薫さんと藪下にまとわりつく週刊誌の記者を演じた亀梨和也さんも印象深い。
亀梨さんは珍しく助演として作品のスパイス的な役割。拓翔を演じた子役の三浦綺羅くんも二面性を演じわけてお見事でした。

実在した事件の映画化なので社会派の一面もありますが、三池崇史監督はエンタテインメント映画の見せ方も熟知している監督。ゆえにサスペンス映画としても裁判映画としても見応え大あり! 見終わった後、事件について誰かと話したくなる作品です。

執筆:斎藤 香(C)Pouch

『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』
2025年6月27日(金)より全国ロードショー
監督:三池崇史
原作:福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫刊)
脚本:森ハヤシ
出演:綾野剛 柴咲コウ
亀梨和也 / 大倉孝二 小澤征悦 髙嶋政宏 迫田孝也
安藤玉恵 美村里江 峯村リエ 東野絢香 飯田基祐 三浦綺羅
木村文乃 光石研 北村一輝 / 小林薫
ⓒ2007 福田ますみ/新潮社 ⓒ2025「でっちあげ」製作委員会

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