相手に好かれる人、好かれない人の違いはどこにあるのか。明治大学法学部教授の堀田秀吾さんは「さりげない仕草、言動が明暗を分けることになる。
例えば、バージニア工科大学の研究ではスマホをテーブル上に置くだけで、親近感や共感が低下する」という――。(第2回)
※本稿は、堀田秀吾『ハーバード、スタンフォード、オックスフォード…科学的に証明された すごい習慣大百科』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■恋人を不安にさせてしまう意外な原因
ペンシルバニア州立大学のマクダニエルとブリガムヤング大学のコインは、テクノロジー機器(コンピューター、携帯電話、スマホ、テレビなど)による日常的な介入を「Technoference(テクノフェレンス)」と呼び、スマホが実生活に及ぼす影響を研究しました。
そのなかで、恋愛関係におけるテクノロジー機器の使用頻度と、機器使用にともなう日常的な中断が、人間関係の幸福度にどのように関係しているかを調査しています。この調査は女性を中心に行われ、既婚・同棲をしている143名にオンラインアンケートで回答してもらうというものでした。
その結果、大多数がカップルの会話や食事の時間などで、テクノロジー機器がパートナーとのやりとりを頻繁に妨げていると回答したといいます。
さらに、人間関係においてテクノロジーへの介入が多いと答えた参加者ほど、人間関係や生活の満足度が低く、精神的に落ち着かないことが多いことも明らかになりました。たしかに、デートの最中にスマホをいじっていたら、「私といてつまらないの?」と思われても仕方のないことでしょう。
■テーブル上にスマホがあるだけで親近感が低下
また、バージニア工科大学のミスラらが行った、ワシントンのカフェで100組のカップルを観察したという研究では、「テーブルに1台のスマホが置かれている」、あるいは「どちらかがスマホをもっている」という状況にいたカップルは、双方ともに親近感や共感が低下することもわかったそうです。
テーブルに置かれているだけでも不快に思うパートナーがいるわけですから、デートの最中はバッグやポケットにしまうなど目に見えない場所に置いたほうがベター。関係性が親密であればあるほど、スマホが共感に与えるダメージは大きくなり、大切にされている感覚が低下したそうです。
スマホの存在は人間関係に干渉する可能性があるため、デートだけではなくビジネスの現場でも用がないならしまっておいたほうが無難です。
スマホはもう鳴る・鳴らないの範疇(はんちゅう)を超え、そこにあるかないかで印象を変えてしまうアイテムなのです。
些細なテクニックかもしれませんが、「冷たい飲みものが入ったカップをもつときと比べて、温かい飲みものが入ったカップをもって接したときのほうが他者をより温かい人物であると評価する」というコロラド大学のウィリアムスとイェール大学のバーグの研究があります。
■「温かい飲み物をもつ」驚きの効果
この研究は、世界的に権威をもつ学術雑誌の1つ『Science』上で発表されたもので、実験では、41人の被験者に温かいコーヒーあるいは冷たいコーヒーをもたせたあとに、質問紙に書かれた人物についての評価を行ってもらいました。
その結果、温かいコーヒーをもっていた人のほうが、その人物に対して好意的な印象を述べ、「やさしい」「配慮がある」といった文字通り“温かい”評価をする傾向にあったといいます。
この実験は、コーヒーを飲むとカフェインの摂取など個体差が出てしまうため、あくまで“さわっているだけ”という条件の下で行われました。つまり、雑談やミーティングのときに、温かい飲みものを手にしているだけで、他者と対峙する際に、心に余裕をもちやすくなることが示唆されたのです。
また、53人の被験者に「新製品の評価」と称して、温かいパッドあるいは冷たいパッドを手渡して評価してもらい、ギフトを選んでもらうという実験も行いました。
すると、温かいパッドをもった人の54パーセントが家族や友人へのギフトを選んだといいます。一方、冷たいパッドをもった人の75パーセントは自分用のプレゼントを選んだそうです。
■相手との距離を縮める簡単な方法
実際に、温かいものにふれているときは、コミュニケーション力や考える力などを向上させる前頭前野が活性化していることも研究で明らかになっています。
温かいものをもっているだけで、他人を温かく受け止め、配慮や気遣いの精神が生まれ、やさしい気もちになれるわけですから、人間関係を構築していく際は、温かいものにふれながらコミュニケーションをとるといいでしょう。「お飲みものは?」と聞かれたらぜひ温かい飲みものを頼んでみてください。

人間には共感力の神経とでも形容すべきミラーニューロンという神経細胞があると言われています。事故の映像などを見て、こちらまで「痛い!」と感じてしまう現象も、ミラーニューロンによるもの。
また、「カメレオン効果」と言って、人は他者の行動に受動的かつ意図せずに行動を合わせるように変化することがわかっています。そして、ニューヨーク大学のチャートランドとバーグの実験によると、相手の行動を真似すると好感度が増すことがわかりました。
協力者(実験の仕掛け人)が実験参加者とペアになり、ある課題にとり組みました。このとき、協力者は参加者の姿勢や動きを注意深く観察し、それを意図的に真似るように行動しました。
■行動を真似すると沈黙や緊張感が減る
たとえば、参加者が足を組めば協力者も足を組み、参加者が飲みものを口にすれば協力者も飲みものを口にする、といった具合です。実験の結果、協力者が参加者の行動を模倣した場合、以下の2つのことが明らかになりました。
(1)参加者は、協力者との間に親近感や一体感を覚え、会話や共同作業がスムーズに進みました。また、ぎこちない沈黙や緊張感が減り、自然な雰囲気で課題にとり組むことができたそうです。
次に、(2)参加者は、協力者に対して好意的な印象をもち、「話しやすい」「感じがいい」といった評価をする傾向がありました。ちなみに、協力者も、参加者に対して同様の好意的な感情を抱くことがわかりました。

どこに座るかによっても話しやすさが変わったりします。実際、相手から斜めの位置や横並びに座ったほうが緊張感が低いということが早稲田大学の山口と鈴木の研究で示されています。
不思議なものでケンカをするときは向き合っていることがほとんどです。反面、やさしくされるときは、隣で話を聞いてくれたりしませんか? 一緒に横に座ったり、映画館に行ったり、関係性のなかに横向きをとり入れると、相手との距離も近くなるはずです。
■会議では相手から斜めの位置に座ろう
真横は視界から逃れられるメリットもあります。まだあまり親密度を築けておらず緊張してしまう場合は、視線を感じない(=緊張度合いが減る)わけですから、良好な関係を育む追い風になる可能性が高くなります。
距離が近いと心の縄張りの内側に入っていくことにもなるため、ついつい心を許して、普段はほかの人には話さないことをオープンにするといった効果も働きます。
その場合、「自己開示」(※1)すれば、「返報性の法則」(※2)が働き、打ち解け合うスピードも速くなるでしょう。デートのときや気が合う人と語り合うときは、あえて斜めや横に座ることを意識してみてください。

(※1)自分自身に関する情報や考え、価値観、感情、経験などを、ありのまま率直に他者へ伝える行為。

(※2)相手の態度に対して、自分も同様の態度で相手に返そうとする心理的作用のこと。好意、敵意、譲歩、自己開示などいくつかの返報性がある。


福島大学の飛田の研究によると、「お菓子が集団による創造的パフォーマンスを向上させる」ことが明らかになっています。
実験は143名の看護職を対象に、
(1)話し合い中に飲食行動をOKとする「飲食あり条件」

(2)お菓子や飲みものを提供しない「飲食なし条件」
という2つの条件を設けて行いました。
■専門家が「仕事中のお菓子」を推奨する理由
前者のほうが結果がよく、飲食をしながら話し合いをしたグループは、「実用的なアイデアが生まれた」「作業が楽しかった」「考えついたアイデアに満足している」といった意見が寄せられ、飲食なしのグループよりもアイデアを生み出した数で約47.83パーセント、グループプロセスの評価で約8.94パーセントもよい結果を示しました。
また、1人でお菓子を食べながら作業をする場合も効果があることが判明し、アイデアの数や量も増えると報告されています。しかし、集団のほうがより顕著ということなので、アイデアを求められるようなミーティングにおいては、あらかじめそういった環境をつくっておくとよいかもしれません。
向上する理由としては、お菓子によって感情がよりポジティブになることで、創造的なアイデアを導きやすくなることに加え、お菓子や飲みものに含まれるブドウ糖などの糖質が創造性とリンクする認知機能を活性化する可能性があることなどが挙げられています。
仕事の合間にチョコなどを食べると気分転換につながるのには、理由があるというわけです。「仕事中にお菓子を食べる」と聞くと眉をひそめる人もいるかもしれませんが、プラスの側面があることも知っておいて損はないと思います。
過剰に負荷がかかるようなミーティングや仕事環境は避け、お菓子をとり入れるといった余裕をもつほうが、組織のコミュニケーションは向上するのです。

参考文献(出典)

*ペンシルバニア州立大学のマクダニエルとブリガムヤング大学のコインの研究

McDaniel, B. T. & Coyne, S. M.(2016). “Technoference”: The interference of technology in couple relationships and implications for women’s personal and relational well-being.Psychology of Popular Media Culture, 5, 85-98.

*バージニア工科大学のミスラらが行った研究

Misra, S., Cheng, L., Genevie, J., & Yuan, M.(2014). The iPhone Effect: The Quality of In-Person Social Interactions in the Presence of Mobile Devices. Environment and Behavior, 48,275-298.

*コロラド大学のウィリアムスとイェール大学のバーグの研究

Williams, L. E., & Bargh, J. A.(2008). Experiencing physical warmth promotes interpersonal warmth. Science, 322(5901), 606-607.

*ニューヨーク大学のチャートランドとバーグの実験

Chartrand, T. L., & Bargh, J. A.(1999). The chameleon effect: The perception-behavior link and social interaction. Journal of Personality and Social Psychology, 76(6), 893-910.

*早稲田大学の山口と鈴木の研究

山口創, 鈴木晶夫.(1996). 「座席配置が気分に及ぼす効果に関する実験的研究」. 実験社会心理学研究, 36, 219-229.

*福島大学の飛田の研究

飛田操(2017). 「菓子が集団による創造的パフォーマンスに及ぼす効果」 福島大学人間発達文化学類論集, 39-48.

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堀田 秀吾(ほった・しゅうご)

明治大学法学部教授、言語学博士

1999年、シカゴ大学言語学部博士課程修了(Ph.D. in Linguistics、言語学博士)。2000年、立命館大学法学部助教授。2005年、ヨーク大学オズグッドホール・ロースクール修士課程修了、2008年同博士課程単位取得退学。

2008年、明治大学法学部准教授。2010年、明治大学法学部教授。司法分野におけるコミュニケーションに関して、社会言語学、心理言語学、脳科学などのさまざまな学術分野の知見を融合した多角的な研究を国内外で展開している。また、研究以外の活動も積極的に行っており、企業の顧問や芸能事務所の監修、ワイドショーのレギュラー・コメンテーターなども務める。著書に『特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ』(クロスメディア・パブリッシング/共著)、『科学的に元気になる方法集めました』(文響社)、『最先端研究で導きだされた「考えすぎない」人の考え方』(サンクチュアリ出版)、『図解ストレス解消大全』(SBクリエイティブ)など多数。

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(明治大学法学部教授、言語学博士 堀田 秀吾)
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