※本稿は、吉田肇『介護・老後で困る前に読む本』(NHK出版)の一部を再編集したものです。
■配偶者に先立たれたら…
親と子が遠距離に居住している場合、親御さんにとって将来の心配事は、「自分にもしものことがあって、夫(妻)がひとりになったら……」ということではないでしょうか。
しかし、両親ともに健康で元気に活動されている場合、お子さん世代はそこまで考えがおよばないものです。そこで、まずは親世代が夫婦間で「自分がひとりになったときにどうしたいのか」を話し合っておきましょう。
具体的には、
◎ 自宅に住み続けたいのか
◎ 駅近のマンションやサ高住への住み替えを希望するのか
◎ 子どもと同居あるいは近居を希望するのか
◎ 子どもが複数いる場合、子どものうち誰と同居あるいは近居を希望するのか
といった点です。結論が出たら、それを未来ノートに記すとともに、
「父さんか母さんのどちらかがひとりになった場合、家を売却してサ高住に住み替えることを考えているから、そのつもりでいてね」
「自分にもしものことがあったときに、父さんの老後が心配。父さんは家に住み続けることを希望しているので、近隣の親しい人たちやお医者さんについて知っておいてほしい」
「自分にもしものことがあったときに、母さんの老後が心配。母さんは◯◯(子どもの名前)との同居を希望しているから、介護が必要になる前に検討してあげてほしい」
などと、未来の暮らし方の希望について子どもに伝え、元気な「今」から自分たち夫婦に必要と思われる備えに取りかかりましょう。
■親子の本音は当事者以外が聞き出す
なかなか切り出しにくい話は、「自分はこうしてほしいんだけど……」と直接伝えるよりも、当事者ではない立場の人が持ちかけたほうがスムーズに進むことが多いです。
例えば、親は長男・長女のふたりの子どものうち、息子よりも娘に介護してもらいたいと内心考えていて、子どもたち兄妹の間でも「娘の私がいずれは親と一緒に住んで面倒を見たほうがいいと思う」「ありがとう、俺もできる限り手伝うから」と相談ずみだとします。でも、娘が直接親御さんに「介護が必要になったら兄貴より私と同居するほうがいいよね?」と聞くと、親御さんは迷惑をかけたくないという思いから、「介護が必要になったら施設に入れてくれればいいよ」とついはぐらかし、結局大切な話が先送りになってしまうのです。
ですから、当事者以外のキーパーソン、この場合は息子がキーパーソンとして、「介護してもらうなら妹のほうがいいかな」と水を向け、「できればそうしたいけど、迷惑をかけたくないし……」という親の本音を聞き出していくと、その先に話を進めることができます。
■「人から聞いた話」として話題に出す
本音を聞き出すうえでは、「人から聞いた話」として話題を振るのも効果的です。例えば、
子「親が亡くなったあとに借金があることがわかって困った友人がいるんだけど、うちは大丈夫だよね?」
子「会社主催のセミナーで、介護離職の問題やよくある介護の悩みについてこんな話を聞いてきたんだけど、他人事じゃないと思ったんだよね。自分は仕事を辞められないので、どうするのがいいか相談に乗ってくれる?」
子「お母さんが好きな俳優の○○が、『夫婦で“断捨離”をした』とラジオで言っていたよ。やっぱりカッコいいね」
親「テレビで最近の老人ホーム事情を特集していたんだけど、自分が入るならこういう老人ホームがいいな。どう思う?」
親「ご近所の○○さんは、近々息子さん夫婦と同居するそうで、二世帯住宅にリフォームしたのよ。お邪魔したら今時のおしゃれですてきなおうちだったわぁ」
親「私の母はお姑さんの介護で大変な苦労をしたの。私は同じ苦労をかけたくないので、二世帯同居はしたくないのよ」
などのように、自分が話し合いたいと思っている話題に近い「人から聞いた話」を振りながら、将来の不安や希望を親子で早めに確認し合っておきましょう。
■答えを急がず、段階的に準備する
親御さんに介護経験がある、もしくは身内や知人から介護の大変さを聞いているようであれば、お子さんから「どういう介護の大変さがあるの?」と積極的に聞いてみましょう。親御さんが介護の大変さを知っているからこそ、「自分たちはそういう苦労をしたくないよね。お互いに困らないためにできる準備って何かな?」と、具体的な備えについて一緒に考えていくきっかけになります。
答えを急がず、時間をかけて段階的に準備をすることも大切です。
親子が同居ないしは近居の場合も、敬老の日や家族の誕生日、近しい親族の命日や回忌法要など、親子が寄り添えるタイミングを見つけ、やはり何回かに分けて段階的にどんな備えをすればいいのかを共有しましょう。
■娘たちには墓守りを任せられるか
これは私の例ですが、私の父が眠っている吉田家先祖代々の墓は、石川県金沢(かなざわ)市にあります。私は姉とふたり姉弟で、姉は嫁いで他家の人となりましたので、母が亡くなった場合、私が母に代わって墓守りを担うことになります。ただ、私のふたりの子どもは娘で、私に何かあったときに墓守りを任せられるかどうかを早いうちに確認しておく必要があると考えました。母が吉田家のお墓をできる限り守ってほしいと希望しているからです。また、母は自分の戒名を生前に決めておくことも望んでいました。そこで、母と私と妻の3人でお墓のある金沢の寺の住職を訪ね、まず戒名を決めていただきました。
■3年かけて方針を固めた
それからしばらくのち、今度は私と妻と娘たち4人で金沢に観光旅行をしました。お墓のある街自体に魅力を感じることができなければ、墓守りのためにわざわざ東京から足を運ぶ気持ちにならないと考えたからです。もちろんお墓参りもしました。さらにその後日、娘たちに墓守りを引き受ける意思があるかどうか、もしも引き受ける意思があるなら、墓守りにかかる費用を残しておくことを伝えました。
また、次女が次の世代に墓守りを引き継ぐことが難しいと判断した場合は、現在のお墓から寺の共同墓地へ改葬してよいことを全員で確認し合いました。これは一般論としても、親子で早めに確認しておくべきポイントです。
私たち家族が墓守りについて検討し始めてから方針が固まるまでに3年くらいかけたと思います。こうした手順を踏んでおかなければ、吉田家の墓はいずれ無縁墓になっていたでしょう。それは母の希望に反しますし、お寺にとっても迷惑です。
このように、時間をかけて段階的に準備をする必要があるからこそ、いかに早めに行動を起こせるかが重要なポイントになるわけです。
(吉田 肇)

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