■「結婚相談所=恋愛に失敗した人が行く場所」ではない
「結婚相談所は恋愛がうまくできない人や失敗した人が行く場所でしょ?」――そんな固定観念は、もはや過去のものです。20代の結婚相談所新規入会者数(※1)は10年で約4倍に増加しました。Z世代にとって、結婚相談所は人生を合理的に進めるための“最初の選択肢”となりつつあります。
※1 フィオーレ、パートナーエージェントの2社の平均値で算出
かつて結婚相談所は「最後の砦」と呼ばれていました。恋愛が苦手な人が利用する場所――そんなイメージが定着していました。
しかし最新の業界データによると、状況は劇的に変化しています。新規入会者数の急増に加えて、新規入会年代別比率(※2)でも20代が2015年の14.5%から2020年の19.2%、そして2025年には21.9%へと右肩上がりで増加しているのです。
※2 ゼクシィ縁結びエージェント、フィオーレ、パートナーエージェントの3社の平均値で算出
■26歳で相談所の門をたたいた研修医の女性
例えば、研修医として働く未希子さん(仮名・27歳)は、26歳の時に先輩から「この1~2年で結婚しないと、どんどん忙しくなる」と言われ、婚活を決意。マッチングアプリに登録はしたものの、「アプリで会った人に投資詐欺を勧められた」といったSNSの投稿を見て、安全性に不安を感じました。
「お金はかかるけど、変な人を避けるためのフィルター代」と考え、アプリでの活動は行わず結婚相談所に入会。28歳までには結婚したいという明確なライフプランのもと、真剣な出会いを求めて活動を始め、約1年で仕事に理解のある素敵なパートナーと出会い、成婚退会されました。
このような事例は決して珍しくありません。
■入会だけで数十万円の相談所をあえて選ぶ若者
こうした変化の背景には、コロナ禍による生活意識の変化も一因としてありますが、それ以上に、Z世代が育ってきた社会環境や価値観の影響が大きいと言えます。
また注目すべきは、マッチングアプリとの圧倒的なコスト差です。アプリは無料から月額数千円程度で利用できるのに対し、結婚相談所は入会金10万~20万円、月会費1万~2万円、成婚料10万~30万円(相場)、と高額です。
それにもかかわらず、Z世代の間では結婚相談所を「最初の選択肢」として利用するケースが増加しています。この現象は、単なる経済合理性だけではなく、心理的・社会的な背景が大きく影響していることを示しているのではないでしょうか。
■「運命の出会い」よりも「条件、相性」を重視
Z世代の結婚相談所利用を理解するには、まず世代間の価値観の違いを把握する必要があります。パートナーエージェントの調査では、20代の4割弱が「恋愛と結婚は切り離して考えてもいい」と考えていることがわかりました。
この違いは、育った環境の差に起因します。Z世代は幼少期からSNSやデジタル環境に慣れ親しみ、情報の透明性や効率性を重視する文化の中で育ちました。また、経済の不安定性や将来の不確実性が高まる中で、リスク管理意識も他の世代より高いとされています。
それらの結果、従来の「運命的な出会いを求める恋愛」よりも「条件や相性を客観的に判断できる婚活」を合理的な選択として捉える傾向が強まっているのです。これは恋愛軽視ではなく、むしろ「人生で最も重要な意思決定の一つだからこそ、感情だけに頼らず冷静に判断したい」という現実主義の表れと言えます。
■狭いコミュニティでの恋愛は気まずい
ここからは、Z世代が「効率的婚活」を選ぶ主な理由を5つ挙げます。
1.結婚につながる自然な出会いの構造的減少
現代の20代は、都市生活やリモートワークの普及により、日常的な異性との接触機会が減少しています。リクルートブライダル総研の調査では、20代男性の46.0%、女性の29.8%が「交際経験がない」と回答しており、前回調査よりも増加しました。
また、SNSで身近な人に交際情報が広まることを避けたい心理も強く、狭いコミュニティ内で恋愛関係が知れ渡ることによるトラブルや気まずさを回避する防御的な姿勢も見られます。
かつて結婚につながる出会いの場だった職場や地元コミュニティでの恋愛が敬遠される中、従来の出会いの構造そのものが機能しなくなってきているのです。
2.デジタル疲労と安全性への不安
Z世代はSNSやマッチングアプリに日常的に接して育った世代ですが、だからこそオンライン上のリスクも熟知しています。身元確認が不十分でトラブルに発展するリスクや、アプリ疲れ、個人情報漏洩といった心理的負荷を実体験として理解しているのです。デジタルリテラシーの高さが、より慎重な選択につながっています。
■数十万円の費用も「合理的な投資」
3.効率性と投資対効果を重視する投資思考
時間や労力といったコストに敏感なZ世代は、恋愛に多くの感情や時間を「消耗する」よりも、結婚という目標から逆算した活動を好みます。合コンやアプリでの出会いにかかる手間と成果の不確実性を考えれば、月1万~2万円の会費で効率的に婚活できる結婚相談所は十分に合理的な投資となります。
なお筆者は、成婚までにかかる総費用の比較を試みましたが、マッチングアプリでは具体的な数字が公開されておらず、比較はできませんでした。一般的に婚活サービスを選ぶ際は、公開データを調べて複数のサービスを比較・検討するものですが、Z世代においては、AIに条件を入力して「自分に合う結婚相談所を探す」といった、効率的なアプローチも見られます。
4.金融リテラシー教育の影響
ここ10~15年で学校教育に金融リテラシーが導入され、投資や資産形成の考え方を学ぶ機会が増えています。物価高や可処分所得の減少といった経済環境も相まって、Z世代は将来設計や自己投資への意識が非常に高いのです。
彼らにとって、婚活は単なる出会い探しではありません。将来の安定した人生を築くための「自己投資」です。コストをかけてでも、信頼できる場所で効率的にゴールを目指すことが、最もリスクの低い賢い選択だと考えているのです。
5.リスクヘッジ文化の浸透
「恋愛に賭ける」よりも「将来に備える」という姿勢は、将来の不確実性や社会的リスクを回避する合理的判断として表れています。経済の不安定性が高まる中で、人生の重要な意思決定においてリスクを最小化したいという心理が働いているのです。
■実際の利用者が語る「リアルな本音」
実際の結婚相談所利用者の声を聞くと、彼らがなぜアプリよりも結婚相談所を選ぶかがより明確に見えてきます。
【共通】
・マッチングアプリはプロフィール、顔写真が本物かどうかわからない
・「いいね」が来ても、会うまでのメッセージ交換が正直めんどくさい
・交際に発展しても、急に音信不通になることがある。他の人とうまくいったのか、自分に問題があったのかわからず不安
・異性とのお付き合いをしたことがないため、結婚相談所のほうが安心
・アプリを利用している人すべてが「結婚相手」を探しているわけではないので、同じ温度感の異性を探すには時間がかかりそう
【男性】
・合コンに行ってもコストが高く、成果も不確定。結婚相談所のほうが効率的
・他のサービスに課金するよりも無駄がなさそう
・「自然な出会いを待つ」という不確実なものに時間をかけるより、プロ(相談所)という仕組みに投資して、結婚という目標を最短で達成したい
・男性も女性も同じ費用が発生する
【女性】
・アプリより年齢層が高く、20代後半でも若さが強みになる婚活市場の中で「選ぶ立場になれる」というメリットがある
・ジムや習い事も月会費がかかる。婚活も“サブスク”感覚で考えると納得できる
・親にちゃんと紹介できる相手がいい。
・理系は出会いが少ない。社会に出たとき“もう遅い”とならないよう、情報収集をしている(理系大学院生)
整理すると、男女ともに「効率」「安心」「合理性」を重視しています。男女別で見ると違いもあり、男性は結婚相談所を「最短で目標に到達するためのコンサル的ツール」として活用する一方、女性は「安全で安心できる出会い」を得るために費用を払っていることがわかります。
■「高額な料金」は結婚格差を生むおそれ
Z世代の利用増加を受け、結婚相談所側のサービスも変化しています。AIによるマッチング精度向上やデジタル化はもちろん、料金プランの多様化や低価格帯サービスの開発も進むと考えられます。これにより、幅広い層への利用促進が期待されます。
さらに、Z世代の多様な価値観や経済状況に対応したサービス設計の必要性も高まります。将来的には、「安心」と「合理性」を両立させる柔軟なサービスが、業界全体の成長を支えることになるかもしれません。
しかし課題も浮上しています。平均年収が20代前半で約267万円、20代後半で約394万円(※3)という彼・彼女らにとって、月2万円の会費は可処分所得の約1割という大きな負担となり、「婚活格差」が生まれる危険性もあるのです。結婚したいすべてのZ世代がアクセス可能なサービス設計が今後の重要な課題となります。
※3 国税庁「令和5年分民間給与実態統計調査」
■婚活は「出会い」から「信頼」へ
Z世代の結婚相談所利用は、単なる結婚願望の強さだけでは説明できません。
Z世代の婚活は、もはや「最後の砦」ではなく「人生設計を合理的に進める手段」として社会に根付こうとしています。出会いと恋愛の非効率性を避け、効率と安心を重視する彼らの選択は、婚活市場だけでなく結婚観全体に新しいパラダイムを提示しているのではないでしょうか。恋愛から結婚への道筋が多様化する中で、Z世代が選択した「効率的婚活」は、新たな社会の標準となるかもしれません。
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平田 恵(ひらた・めぐみ)
タメニー株式会社広報
立命館大学卒業。新卒で人材派遣会社に入社し、入社後わずか7カ月で課長に昇進。その後約5年間、高校野球のリポーターなどフリーランスとして様々なメディアの現場を経験。再び人材業界の勤務を経て、2016年9月にタメニー株式会社(旧株式会社パートナーエージェント)に未経験広報として入社。2019年8月に人事部マネジャーへ異動(広報も兼任)、2020年10月からグループ広報の立ち上げをひとりで行う。2023年第一子を出産し、産後8週で仕事へ復帰。結婚式や婚活のプロとして数多くのメディアへ出演中。
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(タメニー株式会社広報 平田 恵)