いい介護施設とダメな介護施設を見分けるポイントは何か。介護施設を運営する林直樹さんは「料金だけでなく、施設内の臭いや入所者の表情に注目してほしい。
※本稿は、林直樹『介護現場から生まれた 認知症の人に伝わるすごいひと言』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■ダメな老人ホームは「臭い」に表れる
施設を選ぶとき、最初に考えたいのは「その人に合ったサービス種別かどうか」です。
たとえば、医療的なケアが必要な場合は、介護老人保健施設(老健)や介護医療院といった医療体制が整った施設が候補になります。一方で、できるだけ費用を抑えたい、認知症に特化したケアを受けたいという希望がある場合は、グループホームなどが選択肢にあがります。
サービスの種別を踏まえた上で、実際に見学する際には「現場の空気」をしっかり感じ取ることが大切です。以下に、施設選びの際にとくに確認しておきたいポイントをいくつか紹介します。
1.施設内の「臭い」に注目する
少し意外に思われるかもしれませんが、施設内の「臭い」は大切な確認ポイントの一つです。
私たちの施設でも、清掃はとても大切な仕事の一つとして挙げられます。とくにトイレ周りの臭いは、衛生管理が行き届いているかどうかの目安になります。見学したときに不快な臭いが強く感じられる場合は、日常的な清掃やケアの質に課題がある可能性が高いでしょう。
■「スタッフの雰囲気」に施設の価値観が表れる
2.入居者さんの「表情」と過ごし方を見る
その施設で暮らしている入居者さんたちの「表情」や「過ごし方」も、大きな判断材料になります。
笑顔があるか、落ち着いているか、周囲とコミュニケーションを取っているか。施設によっては、日常の活動が時間通りに流れているだけで、入居者さんがほとんど他者と関わらずに一日を過ごしているようなところもあります。
とくにグループホームは、リビングが一つであることから、共同生活のなかで自然と交流が生まれやすく、表情や雰囲気にも活気が表れる傾向があります。ご本人が新しい環境に適応しやすいかどうかを見極めるためにも、できる範囲で入居者さんの様子を感じ取ってみてください。
3.スタッフの「挨拶」と雰囲気を見る
事業所によっては、他の入居者さんの顔を見る機会がないところも多いでしょう。そんなときでも、スタッフのふるまいは見ることができます。
スタッフの雰囲気も、施設の方針や風土を反映しています。見学の際に、すれ違った職員がしっかりと挨拶をしてくれるか、気持ちよく接してくれるか――そうした小さなやりとりのなかに、その施設が大切にしている価値観が表れます。
施設は、入居者にとって「暮らしの場」であり、「もう一つの我が家」。ご家族にとっては「実家」となります。見学に来た家族に対して気持ちよく挨拶できるような温かな空気があるかどうか、そんな視点も大切です。
■「暮らしの質」に注目すべき
4.入居者層と本人の「ADL(日常生活動作)」の相性を見る
ADL(日常生活動作)のレベルが、本人と入居者たちの平均と近いかどうかも確認したいポイントです。
本人よりも動きが極端に少ない方が多い施設だと、かえって孤立を感じる可能性があります。逆に、少し元気な方が多い施設では、よい刺激を受けることもあります。日常の過ごし方や活動の様子を見て、「ここで暮らすことが安心につながりそうか」という目線で、相性を見てみてください。
施設選びは、本人の今とこれからの生活を左右する大切な選択です。費用や条件だけでなく、現場の空気感、人の様子、細かな配慮など、「数字では見えない部分」こそが、暮らしの質を決める鍵になることを、ぜひ心にとどめておきましょう。
■「家族の希望」にはリスクが含まれる場合も
介護施設にご家族を預けたあと、「きちんと見てくれているだろうか」「本当に大丈夫だろうか」と、不安になるのは当然のことです。けれど、その不安がいつしか「監視」のような関係になってしまうと、お互いにとってつらい状況になってしまいます。
施設と家族との関係は、「支援(家庭)を一緒に考えるパートナー」であることが、何より大切です。施設の職員も、ご家族と同じようにその方の幸せを願っています。入居者さんが抱えている課題や希望を、お互いに共有し合い、「どうすればそれを少しでも叶えられるか」を一緒に考えていける関係こそが、理想的な関わり方ではないでしょうか。
たとえば、リハビリについて「10歩、自分で歩けるようにしてほしい」といったご希望をいただくことがあります。けれど、施設でできるリハビリは医療行為ではなく、「生活リハビリ」と呼ばれるものです。
また、ご家族がお見舞いの際に、かつて好物だった饅頭やせんべいを持ってきてくださることもあります。お気持ちはとてもありがたいのですが、ご本人の嚥下機能が低下している場合は、誤嚥のリスクがあることも。
こうした点でも、状態や課題を共有できていれば、誤解や危険を避けることができます。
■「本人・施設・家族」の三者関係が重要
施設側も、入居者さんの状態が変化したときには、できるだけ頻繁にご家族に共有するよう努めています。しかし、それでも「3カ月前まで歩けていたのに、今は車椅子になっていた」といった変化に驚かれることもあるでしょう。
そのとき、ご家族にとって納得のいく説明があるかどうかが、信頼関係を左右するポイントになります。「情報はできるだけオープンに」「課題は一緒に考える」――この姿勢が、施設と家族の信頼を深める鍵となります。
また、施設にとってご家族のご協力はとても心強いものです。たとえば、「病院の受診に一緒についてきてもらえませんか」とお願いすることもありますし、本人が「これが食べたい」「昔よく食べていたものをもう一度口にしたい」とおっしゃったとき、ご家族が嗜好品を届けてくださることもあります。
さらに、本人に外出の意欲があっても、施設の体制だけでは十分に応えきれないこともあります。そんなとき、ご家族が外に連れ出してくださるだけでも、気分転換や生きがいにつながることがあります。
「施設に任せきり」ではなく、「一緒に支えていく」という姿勢があることで、暮らしがより豊かになっていくのです。施設は、本人にとって「もう一つの生活の場」です。「ただいま」と「おかえり」が交わるような関係を、本人・施設・家族の三者でつくっていく――それが、長く安心して続けられる介護のかたちなのだと思います。
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林 直樹 (はやし・なおき)
介護施設経営者
さざなみ代表取締役。大阪市、東大阪市、京都市で介護施設(グループホーム・小規模多機能型居宅介護・住宅型有料老人ホーム)を運営するさざなみに入社。その後、同社代表取締役に就任。2023年には「認知症介護のプロ【はやし社長】」としてYouTubeチャンネルを開設し、認知症介護について発信。なかでも、介護現場で生まれた認知症患者への「とっさのフレーズ」を紹介するショート動画などは、YouTubeでの総再生回数2400万回以上(2025年5月時点)と、好評を博している。そのほか、学校法人ファースト学園理事長、全国介護事業者連盟大阪府支部幹事も務める。著書に『介護現場から生まれた 認知症の人に伝わるすごいひと言』(日刊現代)がある。
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(介護施設経営者 林 直樹 )
いい施設を見抜く4つのチェック項目があるので参考にしてほしい」という――。
※本稿は、林直樹『介護現場から生まれた 認知症の人に伝わるすごいひと言』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■ダメな老人ホームは「臭い」に表れる
施設を選ぶとき、最初に考えたいのは「その人に合ったサービス種別かどうか」です。
たとえば、医療的なケアが必要な場合は、介護老人保健施設(老健)や介護医療院といった医療体制が整った施設が候補になります。一方で、できるだけ費用を抑えたい、認知症に特化したケアを受けたいという希望がある場合は、グループホームなどが選択肢にあがります。
サービスの種別を踏まえた上で、実際に見学する際には「現場の空気」をしっかり感じ取ることが大切です。以下に、施設選びの際にとくに確認しておきたいポイントをいくつか紹介します。
1.施設内の「臭い」に注目する
少し意外に思われるかもしれませんが、施設内の「臭い」は大切な確認ポイントの一つです。
私たちの施設でも、清掃はとても大切な仕事の一つとして挙げられます。とくにトイレ周りの臭いは、衛生管理が行き届いているかどうかの目安になります。見学したときに不快な臭いが強く感じられる場合は、日常的な清掃やケアの質に課題がある可能性が高いでしょう。
■「スタッフの雰囲気」に施設の価値観が表れる
2.入居者さんの「表情」と過ごし方を見る
その施設で暮らしている入居者さんたちの「表情」や「過ごし方」も、大きな判断材料になります。
笑顔があるか、落ち着いているか、周囲とコミュニケーションを取っているか。施設によっては、日常の活動が時間通りに流れているだけで、入居者さんがほとんど他者と関わらずに一日を過ごしているようなところもあります。
とくにグループホームは、リビングが一つであることから、共同生活のなかで自然と交流が生まれやすく、表情や雰囲気にも活気が表れる傾向があります。ご本人が新しい環境に適応しやすいかどうかを見極めるためにも、できる範囲で入居者さんの様子を感じ取ってみてください。
3.スタッフの「挨拶」と雰囲気を見る
事業所によっては、他の入居者さんの顔を見る機会がないところも多いでしょう。そんなときでも、スタッフのふるまいは見ることができます。
スタッフの雰囲気も、施設の方針や風土を反映しています。見学の際に、すれ違った職員がしっかりと挨拶をしてくれるか、気持ちよく接してくれるか――そうした小さなやりとりのなかに、その施設が大切にしている価値観が表れます。
施設は、入居者にとって「暮らしの場」であり、「もう一つの我が家」。ご家族にとっては「実家」となります。見学に来た家族に対して気持ちよく挨拶できるような温かな空気があるかどうか、そんな視点も大切です。
■「暮らしの質」に注目すべき
4.入居者層と本人の「ADL(日常生活動作)」の相性を見る
ADL(日常生活動作)のレベルが、本人と入居者たちの平均と近いかどうかも確認したいポイントです。
本人よりも動きが極端に少ない方が多い施設だと、かえって孤立を感じる可能性があります。逆に、少し元気な方が多い施設では、よい刺激を受けることもあります。日常の過ごし方や活動の様子を見て、「ここで暮らすことが安心につながりそうか」という目線で、相性を見てみてください。
施設選びは、本人の今とこれからの生活を左右する大切な選択です。費用や条件だけでなく、現場の空気感、人の様子、細かな配慮など、「数字では見えない部分」こそが、暮らしの質を決める鍵になることを、ぜひ心にとどめておきましょう。
■「家族の希望」にはリスクが含まれる場合も
介護施設にご家族を預けたあと、「きちんと見てくれているだろうか」「本当に大丈夫だろうか」と、不安になるのは当然のことです。けれど、その不安がいつしか「監視」のような関係になってしまうと、お互いにとってつらい状況になってしまいます。
施設と家族との関係は、「支援(家庭)を一緒に考えるパートナー」であることが、何より大切です。施設の職員も、ご家族と同じようにその方の幸せを願っています。入居者さんが抱えている課題や希望を、お互いに共有し合い、「どうすればそれを少しでも叶えられるか」を一緒に考えていける関係こそが、理想的な関わり方ではないでしょうか。
たとえば、リハビリについて「10歩、自分で歩けるようにしてほしい」といったご希望をいただくことがあります。けれど、施設でできるリハビリは医療行為ではなく、「生活リハビリ」と呼ばれるものです。
転倒のリスクや介助の限界があるなかで、「歩行を目的とした支援」は非常に慎重にならざるを得ません。
また、ご家族がお見舞いの際に、かつて好物だった饅頭やせんべいを持ってきてくださることもあります。お気持ちはとてもありがたいのですが、ご本人の嚥下機能が低下している場合は、誤嚥のリスクがあることも。
こうした点でも、状態や課題を共有できていれば、誤解や危険を避けることができます。
■「本人・施設・家族」の三者関係が重要
施設側も、入居者さんの状態が変化したときには、できるだけ頻繁にご家族に共有するよう努めています。しかし、それでも「3カ月前まで歩けていたのに、今は車椅子になっていた」といった変化に驚かれることもあるでしょう。
そのとき、ご家族にとって納得のいく説明があるかどうかが、信頼関係を左右するポイントになります。「情報はできるだけオープンに」「課題は一緒に考える」――この姿勢が、施設と家族の信頼を深める鍵となります。
また、施設にとってご家族のご協力はとても心強いものです。たとえば、「病院の受診に一緒についてきてもらえませんか」とお願いすることもありますし、本人が「これが食べたい」「昔よく食べていたものをもう一度口にしたい」とおっしゃったとき、ご家族が嗜好品を届けてくださることもあります。
さらに、本人に外出の意欲があっても、施設の体制だけでは十分に応えきれないこともあります。そんなとき、ご家族が外に連れ出してくださるだけでも、気分転換や生きがいにつながることがあります。
ご家族の協力は、施設にとっても、本人にとっても、何より大きな力になります。
「施設に任せきり」ではなく、「一緒に支えていく」という姿勢があることで、暮らしがより豊かになっていくのです。施設は、本人にとって「もう一つの生活の場」です。「ただいま」と「おかえり」が交わるような関係を、本人・施設・家族の三者でつくっていく――それが、長く安心して続けられる介護のかたちなのだと思います。
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林 直樹 (はやし・なおき)
介護施設経営者
さざなみ代表取締役。大阪市、東大阪市、京都市で介護施設(グループホーム・小規模多機能型居宅介護・住宅型有料老人ホーム)を運営するさざなみに入社。その後、同社代表取締役に就任。2023年には「認知症介護のプロ【はやし社長】」としてYouTubeチャンネルを開設し、認知症介護について発信。なかでも、介護現場で生まれた認知症患者への「とっさのフレーズ」を紹介するショート動画などは、YouTubeでの総再生回数2400万回以上(2025年5月時点)と、好評を博している。そのほか、学校法人ファースト学園理事長、全国介護事業者連盟大阪府支部幹事も務める。著書に『介護現場から生まれた 認知症の人に伝わるすごいひと言』(日刊現代)がある。
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(介護施設経営者 林 直樹 )
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