■「リースバック契約」の相談が増えている
今年5月、国民生活センターが「リースバック契約」に関する注意を呼びかけ、話題になりました。「リースバック」をはじめて聞いたという方にもぜひ知ってほしい、落とし穴を紹介します。
「リースバック」とは、マンションや一軒家といった持ち家を不動産会社などに売却して現金を得た後、同じ家に賃料を払って住み続けるサービスのこと。「売った家に賃貸で住み続けるってどういうこと?」と思われるかもしれませんが、まとまった現金を確保しつつ住み慣れた家で過ごすことができるため、環境を変えずに現金を確保したい方にとっては魅力的なサービスと言えるでしょう。また、家の所有権はリースバック事業者となるため、契約条件によっては、固定資産税などの負担もなくなります。
では、リースバックで今、どんなトラブルが起きているのでしょうか。 国民生活センターによると、リースバックに関する相談が近年急増しており、2019年には24件だった相談件数が2024年には239件と、5年間で約10倍に跳ね上がっています。
■買取価格は一般的な相場の「6~7割」が最多
職業柄、不動産関係の方とお話しすることが多い私も、コロナ前まではほとんど利用者の声を聞いたことがなかったことを考えると、コロナや昨今の物価高騰によって、資金調達の手段として活用する方が増えてきたのではないかと思いました。
実際、国土交通省が昨年12月から今年1月にかけて、宅地建物取引業者を対象に行った調査によると、契約者の利用動機として、「生活資金の確保」「住宅ローンやその他債務の返済」が上位を占めており、資金確保のためにリースバック契約を行った方が大半を占めていることがわかります。
しかし、国交省の調査では、リースバックで自宅を売却した場合、買取価格は一般的な相場の「6~7割」と回答した事業者が最も多いこともわかっています。というのも、物件の所有者となった不動産会社は基本的に再販を目的としているため、リフォーム代などを見越した値付けをしていると思われます。
■約6万円の家賃が約11万円になった事例も
さらに、業者によっては市場価格に比べて極端に低い価格を提示してくるケースもあり、国民生活センターが公表した事例では、認知症の親を持つ子どもから、「自宅を400万円で売却し、月額家賃4万円のリースバック契約をしていることを聞いた。父は以前から認知症の疑いがあり、自分の住所も書けない状態であった。自宅を取り戻したい」といった相談例が挙げられていました。
国民生活センターは、リースバックの相談を寄せた契約当事者の約7割が70歳以上の高齢者であることを特徴として挙げています。
そんな高齢者につけ込む悪徳業者の中には、朝から晩まで執拗に勧誘し、判断能力を奪った上で契約をさせるケースも報告されています。
「朝10時から夜10時過ぎまで長時間勧誘された。考えさせてほしいと言ってもしつこく話をされ、仕方なく契約書にサインをしてしまった。後日、親族に『売却価格が安い。よく考えた方がいい』と言われた。解約しようと担当者に連絡したが、『手付金50万円の返金に加え、違約金50万円を支払うように』と言われた」
(国民生活センターの報道資料より)
そして、売却後の「家賃」がトラブルになりやすい点も、リースバック契約で気をつけたいポイントです。
「自宅マンションのリースバック契約を結び、約1,600万円で売却した。
(国民生活センターの報道資料より)
■家賃の取り決めをめぐるトラブルも
上記の事例のように、賃貸契約における最も重要な家賃の取り決めについて、契約者の理解が曖昧だったり、業者側の説明が不十分だったことで、突如、住み続けることが困難となる事態が相次いでいるとのこと。
先程も取り上げた国交省の調査では、「賃料については物件の売却金額を踏まえて決めている」という事業者が43%と最も多くなっており、修繕費用についても、民法上では貸主負担が原則の賃貸物件の修理費等について、借主負担としている事業者が約4割いることもわかっています。一方で、約7割は更新料を設定していませんでした。
つまり、リースバックにおける家賃や費用負担については、通常の賃貸契約とは異なるケースがままあり得る、ということでしょう。
■クーリング・オフは適用されない
さらにおそろしいのは、自宅を業者に売却した場合、クーリング・オフが適用されない点です。周囲の家族が「この契約はおかしいのでは?」と気付いたとしても、売買契約が成立してしまった後では、無条件で解約することができないのです。
たとえば、「買取額が安すぎておかしいから家を取り戻したい」となった場合、解除するにはいわゆる「手付倍返し」として、手付金の倍額を支払うことになります。また、ある一定の期間を過ぎると、多くの場合、違約金が必要となりますが、家の売買は高額になりやすいので、違約金も高くなり、結局諦めるしかない……ということが十分に考えられるでしょう。
■試算やリサーチを重ねて冷静に判断
最新の調査結果や当事者の声をまとめてご紹介しましたが、改めて、リースバックを考える際に心に留めておいてほしいのは、まず周辺相場を調べることです。複数の業者から買取金額を聞き、妥当な金額かどうかを見極めましょう。そして、リースバックにおける賃貸契約においても、長期間、家賃を払い続けることができるのかどうか、しっかり試算をしてください。物価高騰によって賃料も右肩上がりの傾向ですから、家賃が値上がりする可能性も含めての検討が必要です。
「子どもに迷惑をかけたくないから」と、リースバックを考える高齢者の方もいますが、リースバック契約を知らされていなかった子どもが、いざ相続となった際、家がないことで親子トラブルになった話も耳にします。そのため、持ち家のある親御さんがいる方は、事前に「リースバックって知ってる?」と、話を振っておくのも効果的ですね。
また、「家を売却したことをご近所に知られたくないから」と、リースバック契約をする方もいますが、そのまま変わらず住み続けていることで、家族や周りの人からも問題が見えづらくなってしまう点を指摘する専門家もいます。強引な勧誘があっても決して一人だけで判断せず、その場はきっぱりと断り、試算やリサーチを重ねて冷静に判断することを心がけてください。
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高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。
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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)