※本稿は、土屋礼央『捉え方を変えてみたら大抵の事が楽しくなった僕の話』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。
■持続できない努力はスタートしないほうがいい
持続可能な仕事が大人になってからは非常に大事だなと思っています。それは「凄い面白いアイディアが浮かんだんですけど! 世界をあっと驚かせられるぞ、きっと! 大っきな花火打ち上げよう!」みたいなアイディアが浮かんだ時でさえ「それ本当に実行しても大丈夫ですか?」と躊躇する判断基準になっていたりします。
経験上、大きな花火も、全力で頑張れば、成功に導ける自信がある。でも本当にやった方が良いですか? と自問自答するのです。
「えー良いアイディアが浮かんでいるのに? それは勿体無いですよ!」
確かに、勿体無いが一番悔しい僕ですが、実行する事で勿体無い事にもなりかねないと思うのです。
本当にそれ、継続して努力出来ますか? 他人を巻き込むプロジェクトは特にそうだ。
始めたブログが最近更新されない。
始めたYouTubeチャンネルが放置されている。
少なからずそれを待っている人がいるのに。
続けられない努力はスタートしない方が良いと思うのです。僕も過去に同じ様な事を何度か経験しています。
わかっているんだけど、放ったらかしなんだよね……。タイミングを逃しちゃってさ……。頭の片隅にずっと放置している案件が残っている。これは健康的ではありません。
■全力疾走でフルマラソンは完走できない
バンドの解散だって同じ事が言えるかも知れない。望まなかった解散であれば、周囲のスタッフも含め継続出来ない頑張りはやめさせるべきだったのだ。
若い頃は経験も少なく、続けられる! と思ってスタートする事は色々あるでしょう。でももう大人(ピークを過ぎたと認める)であるならば続けられる努力かどうかは、ある程度想像出来る。全力疾走でフルマラソンは完走出来ないのと一緒ですね(ただ僕は若い頃、全力疾走でフルマラソンを駆け抜けるだけの体力をつければ良いじゃないか! と自分に言い聞かせていました。若い!)。
大事なのは完走出来るかどうか、持続可能な仕事かどうか。アイディアは浮かんでいたとしても、今の僕にとって非常に大きな判断材料になっています。
■目指すのは“全勝”ではなく“勝ち越し”
僕がこの持続可能な考え方になったきっかけはラジオです。ニッポン放送の月~木の午後3時間の帯番組『レオなるど』のパーソナリティを担当する事になった時に、以前からラジオに関して色々アドバイスをもらっていたFMラジオJ WAVEの夕方の帯番組『GROOVE LINE』のナビゲーター・ピストン西沢さんに帯番組を担当する報告と共に助言をもらいに行きました。
その時のアドバイスの一つに
「帯のラジオは毎日全力で勝とうと思うと、喋り手もリスナーも消耗する。力を抜いて、負ける日があるぐらいがちょうど良い。2勝1敗1分ぐらいが最高だよ。勝ち越せれば良い」
というのがありました。
なるほど。それまでは全力で挑む事が仕事への誠意だと思っていました。しかし毎日3時間も喋り続ける事を考えたら、それでは身が持たない。かつラジオは、ながら聴きのメディアだ。
帯のラジオが始まってみると、まさにその通りでした(ただ『レオなるど』は僕の力不足で毎週1分3敗ペースだったので、終わっちゃいました……)。
でもピストンさんのアドバイスは『レオなるど』と同時期に担当していたFM10NACK5、日曜日の午後5時間生放送番組『カメレオンパーティー』で活きる事になります。
NACK5には毎週9時間生放送をしているレジェンドがいらっしゃるので、我々の番組を長いとは言えませんが、客観的に見れば凄い長い時間の番組です。僕自身の番組では最長時間番組です。
■「そんなに頑張らない」で番組が10年継続
全力で喋り続けていたら持ちません。声もガラガラになります。気持ちは全力で喋りたくても、身体的には絶対持たない。それで放送終盤、ボロボロでトークしていたら、そこからラジオを聴いた人に失礼な放送になってしまう。
『レオなるど』もあったので、『カメパ』は強制的にリラックスして喋る事を心がけるようになります。「そんなに頑張らない」と表現しても良いかも知れません。
結果、『カメレオンパーティー』はとても評判になります。2025年の10月で10年目に突入です。相方の佐々木もよこさんが素晴らしいと言うのは勿論ありますが、5時間もあるんだから、日曜日の午後のんびりと家で友達と喋っている感覚、車の中で家族と喋っている感覚でリスナーさんに届けようとしています。
俗にいう「ユルい番組」と言えるでしょう。日中の生放送のラジオはユルいぐらいがちょうど良いんだと思います。ただこの「ユルい」は気をつけなければいけません。適当で良い=「ユルい」ではないのです。
■『タモリ倶楽部』のユルさの裏側
「ユルい」の象徴的な番組『タモリ倶楽部』に長い間出演をさせてもらっていました。進行も担当していましたが、タモリさんの気の赴くままに収録が進む場合も多く、進行通りにいかなくても良い、間違いなく「ユルい」番組でした。
でも現場にいてわかったのは、タモリさんを含む出演者が台本通りの行動をせず、違う面白さを見つけた時や、台本では書けない面白コメントを残した時も絶対、その場面がカメラに収められている事。
「ごめんなさい、今撮れてなかったので、もう一度お願いします!」が基本無い番組なのだ。撮影チームが各々の部分は絶対に仕事をサボらない。
評判の良いユルい番組の裏は、こういう事なんだなと思っています。
なので僕はユルい番組を目指す番組を担当していても、一つは必ず汗を搔いたものを手土産トークとして用意して挑む様にしています。僕なりの『タモリ倶楽部』方式です。かつ一つ以外は持って行かない事も気をつけています。だって僕らもリスナーさんも疲れちゃいますから。持続可能な努力こそが、続ける仕事には大事な気がします。
勿論大きな花火を打ち上げる仕事も楽しい。もしその仕事を担った場合に大切なのは自分には持続可能は難しいと思ったら、信頼出来る他人にバトンを渡せる用意をしておく事。バトンが渡り続ける仕事であれば持続可能な仕事です。自分にしか出来ない努力を一つだけ準備して、あとは経験を活かして、チームの一員として仕事が円滑に進む為に存在する。
努力が一つだけで良いって、とても心が軽くなりませんか?
あとは経験でカバー。
これなら続きそうですよね。
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土屋 礼央(つちや・れお)
ミュージシャン、ラジオパーソナリティ
1976年9月1日生まれ。東京都国分寺市出身。RAG FAIRとして2001年メジャーデビュー。2011年よりソロプロジェクトTTREをスタート。TBSラジオ『こねくと』、NACK5『カメレオンパーティー』、TBSラジオ『立飛グループpresents 東京042~多摩もりあげ宣言~』などラジオ番組のパーソナリティも多く務める。
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(ミュージシャン、ラジオパーソナリティ 土屋 礼央)