バンダイ「たまごっち」の国内外累計出荷台数が7月末に1億個を突破した。1996年発売時の熱狂的ブームとその終焉を経て復活し、長寿商品となれたのはなぜか。
■近年のヒットを支えている2つの顧客層
ごはんやおやつを与え、一緒に遊び、うんちをすれば掃除をし、まめに機嫌や体調をチェックして、ときには病気を治してあげたりもする。世話を怠れば機嫌を損ねるだけでなく、最悪の場合は死んでしまうことも。そんな手のかかるバーチャルペットを育てる携帯電子玩具、それが「たまごっち」だ。
バンダイがこの玩具を世に送り出したのは1996年。手のひらサイズでたまご形の見た目もかわいらしく、発売されたとたん女子高生を中心に一大ブームが巻き起こった。平成初期の懐かしいアイテムとして、覚えている人も多いのではないだろうか。
しかし、どれほど爆発的にヒットしても、ほとんどの商品は数年も経てば忘れ去られて消えていく。そんな中、たまごっちは3度もブーム終焉からの復活を遂げ、誕生から29年目の今も進化しながら発売を続けている。
現在は第4次ブームのただ中にあり、2025年7月31日時点で国内外での累計出荷数がついに1億個を突破。近年の快進撃を支えているのは、20代女性、30代~40代前半の女性の2つのユーザー層だ。
バンダイ常務取締役でCTO(チーフたまごっちオフィサー)の辻太郎さんは、2つの層を「96年の第1次ブームと、00年代初頭の第2次ブームを経験した方々」と分析する。
「前者は、今では新製品をお子さんに買ってあげるなどして親子で楽しんでくださっています。後者は、当時の復刻版を“平成レトロ”を感じさせるファッションアイテムとして鞄などにつけてくださる方が多いですね。特に韓国アイドルの方がSNSで取り上げてくれてからは、20代女性の間での流行が加速しています」
■社内の誰もが「売れない」と思っていた
そんな長寿商品も、実は企画が持ち上がった当初は社内の誰もが売れないと思っていたという。辻さんもその一人で、「今思えば見る目がなかったですね」と苦笑する。
圧倒的な女性人気を誇るたまごっちだが、意外なことに企画したのは当時辻さんも所属していた男児向け事業部。そのころバンダイの業績は不振続きで、「本当につらい日々だった」と振り返る。
何とか打開策をとアイデア会議を重ねる中で出てきたのが、「変な生き物の育成あそびができる腕時計」だった。売れないだろうと思いながらも市場調査を進めたところ、男児より女子高生に受けそうだとわかり、急遽(きゅうきょ)大幅な方針転換を決定する。男児向けにつくるのをやめ、女子高生向けに全振りすることにしたのだ。
コンセプトである「たまご形のウォッチ」から、すでにたまごっちという商品名もつけていたが、これも女子高生がスクールバッグに着けやすいように、ボールチェーン型に変更した。
■第1次ブームの後に抱えた大量の余剰在庫
この方針転換が見事に当たり、発売するやいなや女子高生の間で爆発的なヒットを記録する。国内市場で100万個売れれば大ヒットと言われる玩具業界で、発売から8カ月後には国内外累計1000万個以上を出荷。
「暗かった社内の雰囲気がぐんと明るくなり、当時持ち上がっていた他社との合併話も解消されました。合併解消はたまたまタイミングが同じだっただけかもしれませんが、それでもたまごっちは社の運命を変えたと言っても過言ではないと思います」
ところが、この第1次ブームは2年ほどで去ってしまい、バンダイは大量の余剰在庫を抱えたまま販売を一時停止する事態に陥ってしまう。このときに出た損失は約60億円。
次にブームが来たのは2004年。小学生が初代「たまごっち」を遊んでいるのを見た社員が小学生へのたまごっちの可能性を感じ、当時の最新技術だった赤外線通信機能を搭載した「かえってきた!たまごっちプラス」「祝ケータイかいツー!たまごっちプラス」を発売したところ、これが年間500万個を売り上げ第2次ブームを巻き起こしたのだ。
その5年後、今度はたまごっちがTVアニメ化されて第3次ブームが到来する。この人気は前回、前々回と同じくいったんは衰えたものの、数年後に海外でオリジナル版の人気が再燃。これに乗じて国内外で復刻販売した「Original Tamagotchi(オリジナルたまごっち)」や「Tamagotchi Connection(たまごっちコネクション)」が、現在の第4次ブームにつながった。
■「死ぬ」設定を一度なくしたものの…
ここまでの間、バンダイは前述の赤外線通信機能搭載モデルをはじめ、カラー液晶モデル、タッチ液晶モデル、Wi-Fi機能搭載モデル、そして海外モデルなど、時代や国・地域に合わせてさまざまな機種を世に送り出してきた。その数は全38種類にも及ぶ。
ただ、やみくもに変化させてきたわけではなく、ときには元に戻すという選択もしてきた。
第3次ブーム以前のたまごっちは長期間世話をしないと死ぬ設定で、その生き物らしさが魅力だった反面、「かわいそう」「怖い」といったクレームも多かった。ローマ・カトリック教会から「命を粗末に扱うような商品を発売すべきではない」といった内容の手紙が届いたこともあったという。
こうした声や世界情勢を受けて、バンダイでは09~15年の間にいったん「死ぬ」を「置き手紙をして家出する」に変更している。辻さんは「思い返せば、この頃のたまごっちは少しずつ“らしさ”がなくなっていっていた」と語る。
「たまごっちらしさとは、お世話する喜びも、意のままにならない大変さも感じられる“生き物らしさ”。社内で議論した結果、置き手紙ではそれが表現されていないということで、16年に『死ぬ』設定に戻したんです」
■変えずに守り抜いてきた5つのこと
設定の変更と回帰を経てきた一方で、発売当初から決して変えずに守り抜いてきたこともある。開発面では「たまご形」「液晶画面」「3つのボタン」、そして「生き物の世話をする」「ヘンテコである」の5つだ。
戦略面では、たまごっちの端末と同型のアクセサリーはつくらないという方針を守ってきた。それでは「たまごっち」がただのアイコンになってしまい、おもちゃとしての面白さも世話をする楽しみも伝えられないからだという。
25年7月には、これらの点を守りながら原点である“生き物らしさ”も重視した新作「Tamagotchi Paradise(たまごっちパラダイス)」を発売。開発にあたっては、あらかじめ「世話のやけるよろこびを世界中の人々に。」というブランドパーパスを定めて、それに沿ったモノづくりを行った。
具体的には、前作に搭載していたWi-Fi機能をやめてリアルなコミュニケーションを重視する形に戻し、電源も充電式から以前の電池式にした。この2点は価格を抑えるためでもあるが、元に戻した部分はそれだけではない。
■愛されてきた秘訣は「商品のトゲ」
たまごっちたちは発売を重ねるごとにバリエーションが増え、近年では成長すると服を着るものまで現れるようになっていた。そのぶんユーザーの楽しみも広がるのだからいいことのように思えるが、新作ではこうした発想をあえて捨て去った。
生き物なのに、成長したら急に服を着るっておかしいよね――。そう考えて、初期製品と同じ、服を着ていない姿に戻したのだ。進化よりも原点に立ち返ることを優先した結果だった。
逆に、これまでの掟を破っている部分もある。ユーザーが忙しいときに世話を手伝ってくれる機能「たまシッター」がそれだ。「たまシッター」は前作の「Tamagotchi Uni(たまごっちユニ)」から搭載されているが、こうした機能を搭載しないでほしいという社内の意見もあった。辻さんは「昔から絶対に搭載するなといわれていたんですが、やっちゃいました」と頭をかく。
近年は仕事や学校、習いごとなどで忙しいユーザーも多いことから、世話の形も時代の流れに合わせたという。
「先代の社長は、こうしたヘンテコな部分を『商品のトゲ』と呼んでいました。そのトゲこそが、たまごっちがこれだけ長く愛されてきた理由だろうと思います。どれほど技術が進化し、モノや情報が増え続けても、この部分だけはずっと守っていくつもりです」
■世界情勢や宗教を考慮した調整も行う
「Tamagotchi Paradise(たまごっちパラダイス)」は前作の予約数を4倍以上も上回る好調なスタートを切り、国内外ともに完売が続出している。初期のブームを経験したユーザーが親子で楽しむケースも増え、「新製品を出すたびに裾野が拡大している手応えがある」と辻さん。
海外での売り上げも大きな伸びを見せている。現在「Tamagotchi」は50以上の国・地域で販売しており、累計出荷数の半分以上を占める。
そのため、遊びの中で、世界情勢や宗教を考慮した調整も欠かさない。世界中で愛され続ける一見シンプルでかわいらしい商品は、実はきめ細かな配慮の積み重ねでできているのだ。
■「世話のやける喜び」を届ける
誕生から30周年を迎える26年の目標は、累計出荷数1億個だった。それを早くも達成してしまった今、次に掲げる目標は何だろうか。
そう尋ねると、辻さんは「千代の富士が1000勝したときに次の目標を『1001勝』と答えたのにならって、1億1個と言わせてください」と笑った。
「ただ、最終目標はやはり、世界中の皆さんに世話のやける喜びを届けること。今後もたまごっちを通して生き物を飼うことの喜びと悲しみを、命の大切さを伝え続けていきたいと思います」
たまごっちを始めた人は、最初の3~4時間は呼び出し音が鳴る頻度に驚くだろう。基本的には世話が必要なタイミングで鳴るのだが、面倒なことにキャラクターのわがままによって鳴ることもある。それでも、そうした世話のやけるところこそがこの玩具の魅力であり、だからこそ愛着も湧く。
商品のトゲを守りながら進化と回帰を繰り返し、懐かしさ需要から人気が再燃するたびに新規需要も取り込んできたたまごっち。その歩みに、世代をまたいで売れ続ける商品をつくるための極意を見た気がした。
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辻村 洋子(つじむら・ようこ)
フリーランスライター
岡山大学法学部卒業。証券システム会社のプログラマーを経てライターにジョブチェンジ。複数の制作会社に計20年勤めたのちフリーランスに。各界のビジネスマンやビジネスウーマン、専門家のインタビュー記事を多数担当。趣味は音楽制作、レコード収集。
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(フリーランスライター 辻村 洋子)
バンダイ常務取締役でCTO(チーフたまごっちオフィサー)の辻太郎さんは「企画が立ち上がったのは男児向け玩具の事業部で、当初は誰もが売れないと思っていた」という――。
■近年のヒットを支えている2つの顧客層
ごはんやおやつを与え、一緒に遊び、うんちをすれば掃除をし、まめに機嫌や体調をチェックして、ときには病気を治してあげたりもする。世話を怠れば機嫌を損ねるだけでなく、最悪の場合は死んでしまうことも。そんな手のかかるバーチャルペットを育てる携帯電子玩具、それが「たまごっち」だ。
バンダイがこの玩具を世に送り出したのは1996年。手のひらサイズでたまご形の見た目もかわいらしく、発売されたとたん女子高生を中心に一大ブームが巻き起こった。平成初期の懐かしいアイテムとして、覚えている人も多いのではないだろうか。
しかし、どれほど爆発的にヒットしても、ほとんどの商品は数年も経てば忘れ去られて消えていく。そんな中、たまごっちは3度もブーム終焉からの復活を遂げ、誕生から29年目の今も進化しながら発売を続けている。
現在は第4次ブームのただ中にあり、2025年7月31日時点で国内外での累計出荷数がついに1億個を突破。近年の快進撃を支えているのは、20代女性、30代~40代前半の女性の2つのユーザー層だ。
バンダイ常務取締役でCTO(チーフたまごっちオフィサー)の辻太郎さんは、2つの層を「96年の第1次ブームと、00年代初頭の第2次ブームを経験した方々」と分析する。
「前者は、今では新製品をお子さんに買ってあげるなどして親子で楽しんでくださっています。後者は、当時の復刻版を“平成レトロ”を感じさせるファッションアイテムとして鞄などにつけてくださる方が多いですね。特に韓国アイドルの方がSNSで取り上げてくれてからは、20代女性の間での流行が加速しています」
■社内の誰もが「売れない」と思っていた
そんな長寿商品も、実は企画が持ち上がった当初は社内の誰もが売れないと思っていたという。辻さんもその一人で、「今思えば見る目がなかったですね」と苦笑する。
圧倒的な女性人気を誇るたまごっちだが、意外なことに企画したのは当時辻さんも所属していた男児向け事業部。そのころバンダイの業績は不振続きで、「本当につらい日々だった」と振り返る。
何とか打開策をとアイデア会議を重ねる中で出てきたのが、「変な生き物の育成あそびができる腕時計」だった。売れないだろうと思いながらも市場調査を進めたところ、男児より女子高生に受けそうだとわかり、急遽(きゅうきょ)大幅な方針転換を決定する。男児向けにつくるのをやめ、女子高生向けに全振りすることにしたのだ。
コンセプトである「たまご形のウォッチ」から、すでにたまごっちという商品名もつけていたが、これも女子高生がスクールバッグに着けやすいように、ボールチェーン型に変更した。
■第1次ブームの後に抱えた大量の余剰在庫
この方針転換が見事に当たり、発売するやいなや女子高生の間で爆発的なヒットを記録する。国内市場で100万個売れれば大ヒットと言われる玩具業界で、発売から8カ月後には国内外累計1000万個以上を出荷。
バンダイの業績は一気に回復した。
「暗かった社内の雰囲気がぐんと明るくなり、当時持ち上がっていた他社との合併話も解消されました。合併解消はたまたまタイミングが同じだっただけかもしれませんが、それでもたまごっちは社の運命を変えたと言っても過言ではないと思います」
ところが、この第1次ブームは2年ほどで去ってしまい、バンダイは大量の余剰在庫を抱えたまま販売を一時停止する事態に陥ってしまう。このときに出た損失は約60億円。
次にブームが来たのは2004年。小学生が初代「たまごっち」を遊んでいるのを見た社員が小学生へのたまごっちの可能性を感じ、当時の最新技術だった赤外線通信機能を搭載した「かえってきた!たまごっちプラス」「祝ケータイかいツー!たまごっちプラス」を発売したところ、これが年間500万個を売り上げ第2次ブームを巻き起こしたのだ。
その5年後、今度はたまごっちがTVアニメ化されて第3次ブームが到来する。この人気は前回、前々回と同じくいったんは衰えたものの、数年後に海外でオリジナル版の人気が再燃。これに乗じて国内外で復刻販売した「Original Tamagotchi(オリジナルたまごっち)」や「Tamagotchi Connection(たまごっちコネクション)」が、現在の第4次ブームにつながった。
■「死ぬ」設定を一度なくしたものの…
ここまでの間、バンダイは前述の赤外線通信機能搭載モデルをはじめ、カラー液晶モデル、タッチ液晶モデル、Wi-Fi機能搭載モデル、そして海外モデルなど、時代や国・地域に合わせてさまざまな機種を世に送り出してきた。その数は全38種類にも及ぶ。
ただ、やみくもに変化させてきたわけではなく、ときには元に戻すという選択もしてきた。
その一例が「死」の設定だ。
第3次ブーム以前のたまごっちは長期間世話をしないと死ぬ設定で、その生き物らしさが魅力だった反面、「かわいそう」「怖い」といったクレームも多かった。ローマ・カトリック教会から「命を粗末に扱うような商品を発売すべきではない」といった内容の手紙が届いたこともあったという。
こうした声や世界情勢を受けて、バンダイでは09~15年の間にいったん「死ぬ」を「置き手紙をして家出する」に変更している。辻さんは「思い返せば、この頃のたまごっちは少しずつ“らしさ”がなくなっていっていた」と語る。
「たまごっちらしさとは、お世話する喜びも、意のままにならない大変さも感じられる“生き物らしさ”。社内で議論した結果、置き手紙ではそれが表現されていないということで、16年に『死ぬ』設定に戻したんです」
■変えずに守り抜いてきた5つのこと
設定の変更と回帰を経てきた一方で、発売当初から決して変えずに守り抜いてきたこともある。開発面では「たまご形」「液晶画面」「3つのボタン」、そして「生き物の世話をする」「ヘンテコである」の5つだ。
戦略面では、たまごっちの端末と同型のアクセサリーはつくらないという方針を守ってきた。それでは「たまごっち」がただのアイコンになってしまい、おもちゃとしての面白さも世話をする楽しみも伝えられないからだという。
25年7月には、これらの点を守りながら原点である“生き物らしさ”も重視した新作「Tamagotchi Paradise(たまごっちパラダイス)」を発売。開発にあたっては、あらかじめ「世話のやけるよろこびを世界中の人々に。」というブランドパーパスを定めて、それに沿ったモノづくりを行った。
具体的には、前作に搭載していたWi-Fi機能をやめてリアルなコミュニケーションを重視する形に戻し、電源も充電式から以前の電池式にした。この2点は価格を抑えるためでもあるが、元に戻した部分はそれだけではない。
■愛されてきた秘訣は「商品のトゲ」
たまごっちたちは発売を重ねるごとにバリエーションが増え、近年では成長すると服を着るものまで現れるようになっていた。そのぶんユーザーの楽しみも広がるのだからいいことのように思えるが、新作ではこうした発想をあえて捨て去った。
生き物なのに、成長したら急に服を着るっておかしいよね――。そう考えて、初期製品と同じ、服を着ていない姿に戻したのだ。進化よりも原点に立ち返ることを優先した結果だった。
逆に、これまでの掟を破っている部分もある。ユーザーが忙しいときに世話を手伝ってくれる機能「たまシッター」がそれだ。「たまシッター」は前作の「Tamagotchi Uni(たまごっちユニ)」から搭載されているが、こうした機能を搭載しないでほしいという社内の意見もあった。辻さんは「昔から絶対に搭載するなといわれていたんですが、やっちゃいました」と頭をかく。
近年は仕事や学校、習いごとなどで忙しいユーザーも多いことから、世話の形も時代の流れに合わせたという。
ただし、シッター機能を使いすぎるとうまく育たないため、意のままにならない大変さは以前と同じ。ユーモラスな見た目や個性的な性格、うんちをする、病気になったり死んだりもするといった生き物らしさ、辻さんの語る「ヘンテコな部分」も健在だ。
「先代の社長は、こうしたヘンテコな部分を『商品のトゲ』と呼んでいました。そのトゲこそが、たまごっちがこれだけ長く愛されてきた理由だろうと思います。どれほど技術が進化し、モノや情報が増え続けても、この部分だけはずっと守っていくつもりです」
■世界情勢や宗教を考慮した調整も行う
「Tamagotchi Paradise(たまごっちパラダイス)」は前作の予約数を4倍以上も上回る好調なスタートを切り、国内外ともに完売が続出している。初期のブームを経験したユーザーが親子で楽しむケースも増え、「新製品を出すたびに裾野が拡大している手応えがある」と辻さん。
海外での売り上げも大きな伸びを見せている。現在「Tamagotchi」は50以上の国・地域で販売しており、累計出荷数の半分以上を占める。
そのため、遊びの中で、世界情勢や宗教を考慮した調整も欠かさない。世界中で愛され続ける一見シンプルでかわいらしい商品は、実はきめ細かな配慮の積み重ねでできているのだ。
■「世話のやける喜び」を届ける
誕生から30周年を迎える26年の目標は、累計出荷数1億個だった。それを早くも達成してしまった今、次に掲げる目標は何だろうか。
そう尋ねると、辻さんは「千代の富士が1000勝したときに次の目標を『1001勝』と答えたのにならって、1億1個と言わせてください」と笑った。
「ただ、最終目標はやはり、世界中の皆さんに世話のやける喜びを届けること。今後もたまごっちを通して生き物を飼うことの喜びと悲しみを、命の大切さを伝え続けていきたいと思います」
たまごっちを始めた人は、最初の3~4時間は呼び出し音が鳴る頻度に驚くだろう。基本的には世話が必要なタイミングで鳴るのだが、面倒なことにキャラクターのわがままによって鳴ることもある。それでも、そうした世話のやけるところこそがこの玩具の魅力であり、だからこそ愛着も湧く。
商品のトゲを守りながら進化と回帰を繰り返し、懐かしさ需要から人気が再燃するたびに新規需要も取り込んできたたまごっち。その歩みに、世代をまたいで売れ続ける商品をつくるための極意を見た気がした。
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辻村 洋子(つじむら・ようこ)
フリーランスライター
岡山大学法学部卒業。証券システム会社のプログラマーを経てライターにジョブチェンジ。複数の制作会社に計20年勤めたのちフリーランスに。各界のビジネスマンやビジネスウーマン、専門家のインタビュー記事を多数担当。趣味は音楽制作、レコード収集。
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(フリーランスライター 辻村 洋子)
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