ふるさと納税の「ポイント還元」が9月末で終了する。駆け込みで寄付を検討している人は、どんな返礼品を選べばいいのか。
ファイナンシャルプランナーの内田英子さんは「“ランキング上位だから”と、焦ってフルーツや海鮮などを選んではいけない。物価上昇の局面では、生活防衛の視点が大事だ。厳しい家計を救う一助となる、おすすめの返礼品がある」という――。
■おすすめの返礼品は、ティッシュ・洗剤・米・飲料
2025年10月から、ふるさと納税でのポイント還元が禁止され、今まさに駆け込みで寄付先を検討している方も多いと思います。制度を巡っては「改悪だ」という声も広がっていますが、9月中であればまだポイント還元は間に合います。
期限が目前に迫る中、検討している方の多くはいったい何の返礼品を選んだらいいのかと迷っているのではないでしょうか。物価が上昇している今、上手な返礼品の選び方次第で、ふるさと納税は家計を守る強い味方になります。今回は「生活防衛」という観点から、ファイナンシャルプランナーの視点でおすすめの返礼品を紹介します。
【1 必需品でインフレ負担の2割をカバー】
最初に結論を申し上げると、家計を守る観点で最も有効なのは、生活必需品かつストックしやすい返礼品です。例えば、トイレットペーパーや洗剤、シャンプーやハンドソープなどの日用品や、お米やパン、ビール、ペットボトル飲料などの食品です。ストックしやすいもの、という観点がとにかく重要になります。
ふるさと納税が申し込める代表的なウェブサイトから、該当の返礼品をピックアップしました(図表1参照、代表的なものを抜粋)。

■物価上昇局面では“毎日消費するもの”が最適
物価上昇時にもかかわらず生活水準を維持してしまえば、ただ支出額が増えてしまいます。たとえば年2%物価が上昇するなら、基本生活費が年間300万円の方なら年間6万円のプラス、つまり、6万円分負担が増えるということです。
ですから、毎日の生活で確実に消費する返礼品を選べば、支出の先払い効果があります。仮に返礼率が20%とすれば、年間5万円の寄付をする場合、最大で1万円相当の返礼品が届き、物価上昇分の約2割を相殺できます。生活の中で日常的に使うものを選ぶことで、物価上昇のインパクトを軽減し、支出抑制に役立てることができます。
また、前述の通り、ストックしやすいものを選ぶといいでしょう。返礼品は、あくまで寄付に対するお礼の品です。基本的に受け取りの時期は指定できません。日常的に活用するためにはストックできるものであることがカギとなります。日持ちするものを選べば災害時の備蓄にもなります。
冷凍の肉や魚も支出抑制につかえますが、届く時期を選べないケースが多いのです。どうしても欲しい場合は、注文時期を調整する工夫が必要になってしまいます。

■「お食事券」は外食費を先取りできる
【2 外食費の値上げに先手を打つ お食事券の活用】
次におすすめしたいのは、飲食店で使えるお食事券や利用券です。こちらもふるさと納税ポータルサイトから、該当の返礼品をピックアップしました(図表2参照、代表的なものを抜粋)
もし今後物価上昇が続いていくなら、支出は膨らみ、お金を貯めるハードルは上がっていくことが考えられます。「節約」と言えば真っ先に外食費や食費を削る、という方は多いのではないでしょうか。確かに、多くの家庭で外食費は「絶対に必要」というお金ではありませんが、それでも削り過ぎ、には要注意です。
日常に楽しみがないと、節約は苦痛になってしまいます。お金を貯めることは将来のために大切ですが、せっかくなら今も楽しみたい、そんな方も多いのではないでしょうか。
お食事券や利用券を今から返礼品として入手しておくことで、物価上昇で家計が苦しい局面でも、外食費予算を増やさなくてすむため、罪悪感なく外食を楽しむことができます。物価上昇局面での生活の質の確保に、先手を打っておくことができるのです。
ただし、寄付先と使用期限には注意しましょう。お食事券の場合、使用期限が設けられているのが一般的で、6カ月もしくは1年を期限とするものが多いです。期限を越えては利用できない点に注意が必要です。
また基本的には、住んでいる地域に寄付をしても返礼品の贈呈はありません。
お食事券を探す時は帰省や旅行の計画と組み合わせたり、足をのばしやすい近隣の自治体で探したりするようにすることを心がけてもいいと思います。
■「旅行クーポン」は有効期限が長い
【3 旅行費高騰に備える 旅行券の活用】
毎年帰省や旅行をするというかたであれば、旅行クーポンや宿泊券もおすすめです。こちらも該当の返礼品をピックアップしました(図表3参照、代表的なものを抜粋)。
特に、旅行関連の支出は物価上昇の影響を受けやすい分野です。2024年の消費支出は前年比名目7%増であったのに対し、一人あたり宿泊旅行費用は9.7%増と、特に支出額の増加が顕著です。
(参考:総務省「2024年家計調査報告」、観光庁「2024年旅行・観光消費動向調査(速報値)」)
物価上昇の影響をふまえると、今後旅行費用の予算は大きく増える可能性があります。旅行費用などは外食費同様に「あったらいいな」という支出ですので、将来のために、場合によっては「今年は我慢しようか」という選択も大切ですが、急に削減してしまうと生活の質の低下につながります。
その点、旅行クーポンや宿泊券であれば、お食事券と同様に、事前の確保で将来の物価上昇分をカバーすることに使えますから、支出を抑制しつつ生活の質を確保しやすくなります。また、有効期限もありますが、2年もしくは3年とするものが多いようなので、使い道をゆっくり決められて、急いで消費する必要もない点も優れているポイントです。
■“高級肉”や“シャインマスカット”は支出を増やすだけ
一方で、生活防衛の観点からは、高級な肉やシャインマスカットのようなフルーツ、魚介類などの嗜好品はおすすめできません。物価上昇局面は生活水準を維持するためのコストが増えるフェーズだからです。理由は大きく2つあります。

(1)恒常的支出ではないため、支出抑制につながりにくい
米や日用品のように毎日の生活で必ず消費するものとは異なり、嗜好品は「あると嬉しいがなくても困らない」ものです。また賞味期限も短く、長期保存もできません。つまり、日常の家計支出を置き換える効果が薄くなってしまい、結果的に「プラスの消費」を増やす形になりがちなのです。
(2)再現性が低く、家計に安定的な効果をもたらさない
嗜好品は利用頻度が低いため、返礼品として受け取っても一時的な満足にとどまり、毎年の物価上昇に対抗する“再現性のある対策”にはなりません。
つまり、嗜好品は「生活水準を上げる」方向には寄与しても、「物価上昇局面で家計を守る」という生活防衛の観点からは効果が限定的になってしまいます。外食費の支出調整に役立つケースもありますが、受け取り時期はコントロールしづらく、物価上昇による家計収支の悪化を助長するリスクがあります。
■“寄付額のシミュレーション”は抜かりなく行う
最後に、ふるさと納税のコスパを高めるための鉄則も抑えておきます。
既に何度もふるさと納税を利用している方には当たり前かもしれませんが、「寄付上限を超えないこと」は鉄則です。寄付額の上限を超える部分は純粋な寄付になるため、寄付額を税金から取り戻すことはできません。つまりこれでコスパはゼロになってしまいます。還元を最大化するには、詳細なシミュレーションは必須です。
また、今年は税制改正もありました。
寄付額の上限は手計算でも出せますが、税制に関する正しい知識を持ち合わせている方でなければ、非常に難しいことだと思います。詳細なシミュレーションは各種ポータルサイトでも可能ですが、不安な方は総務省のシミュレーションシート(総務省「ふるさと納税のしくみ」)でも試算を行ってみてください。
次に、控除額の変動にも注意してください。寄付上限額を適切に把握するためには、所得控除を先読みすることが必須です。所得控除額は家庭の状況によって都度変わります。特に、以下のような方は注意しましょう。
【年収に変動がある人】

・歩合やインセンティブで年収が大きく減った

・退職した/休職した
【扶養家族に変更がある人】

・子どもが16歳になった/18歳になった

・親を扶養に入れた

・育休を取った妻を扶養に入れた
【医療費がかかる人】

・医療費が10万円を超えた

・1万2000円を超えるスイッチOTC医薬品を買った

・出産費用や不妊治療費を払った
【iDeCo/DCの掛金を変更した人】

・iDeCoや企業型確定拠出年金のマッチング拠出の掛金を増額した
【家を買った人】

・住宅ローン控除を受ける予定

■「上限」が変わっているかもしれない
“ポイント還元が改悪される”ということで、寄付額の増額を考えている方も注意してください。特に、夫婦世帯で「普段は主に夫だけがふるさと納税をやっているけれど、今年は自分のほうでもやってみようかな」と思っているかたは黄色信号です。
税制改正により、今年から給与所得控除の最低保証額が引き上げとなった影響で、給与収入が190万円以下の場合、所得税と一緒に住民税が減税になっています。住民税額が減ればふるさと納税の寄付額上限は下がります。住民税額が減って、いつもはできるはずの寄付額上限が変わっている可能性があります。必ず、詳細シミュレーションをして臨みましょう。

ふるさと納税は返礼品次第で、納税の対価をダイレクトに生活に組み入れることができます。昨今の物価上昇圧力は強いので、ふるさと納税は生活防衛のために活用すべきでしょう。
ただ、ふるさと納税は、節税のスキームではありません。言うなれば納税先をスイッチできるしくみですから、手取り所得は増やせません。最大で寄付額の3割相当の返礼品が届く仕組みを活かして、物価上昇による負担を一部相殺する。そのためにも、返礼品の選び方がとても重要になってきます。
■“生活防衛”の観点で、焦らずに選んでほしい
返礼品の価格はポータルサイトによって価格が違う場合もありますので、ぜひ複数のポータルサイトを比較してみてください。各サイトによって価格が異なるケースがいくつか確認できました。特に「ポイントセールの日にあわせてふるさと納税しよう」と思っている方は要注意です。他のサイトよりも価格が高くなっている可能性もあります。
物価上昇は今後も続くと予想されます。生活必需品やスケジュールされた支出に寄付を振り向ければ、年間数万円分の支出を先取りできるため、インフレ局面でも家計を安定させる「支出抑制の仕組み」として機能します。
小さな工夫でも、未来の安心につながります。ポイント還元が9月で終わってしまうからと一つのポータルサイトだけで焦って好きなものや嗜好品ばかりを選ばず、現在の年収状況をしっかり把握し、“生活防衛にとっては何がいいのか”という視点をもって検討してはいかがでしょうか。

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内田 英子(うちだ・えいこ)

CFP、FPオフィスツクル代表

愛媛県在住。証券会社・保険ショップ勤務、専業主婦を経てひとり起業。現在、FPオフィスツクル(愛媛県松山市)代表。教育費から保険、住宅、資産形成、キャリア、相続まで幅広い視点で家計を診る家計の総合医として、ライフプランシミュレーションを駆使したファイナンシャルプランニングが強み。自治体や学校、団体・企業における金融教育講座も行う。

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(CFP、FPオフィスツクル代表 内田 英子)
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