高い成果を出せるチームの秘訣は何か。元キーエンス社員でExgrowth代表取締役の岩田圭弘さんは「部下に売上を上げろと言っても、なかなか上がらないという悩みを抱える上司は、部下に『結果だけを求める』指示を出していることが多い」という――。

※本稿は、岩田圭弘『ひたすらKPI』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■「結果」だけ求めても部下は動けない
多くのビジネスパーソンは、「結果がすべて」という言葉に縛られています。
確かに、ビジネスは結果を出すことが目的です。
売り上げを上げる、利益を出す、顧客満足度を高める。これらの結果なくして、ビジネスは成立しません。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。それは、「結果は直接コントロールできない」という事実です。
私がコンサルティングをしていると、経営者や管理職の方から「部下に売り上げを上げろと言っても、なかなか上がらない」という相談をよく受けます。
詳しく話を聞いてみると、その指示は「売り上げを20%上げてください」「新規顧客を10社獲得してください」といった、結果だけを求めるものがほとんどです。
これでは部下は動けません。なぜなら、これらはすべて「結果」であり、直接コントロールできないからです。
しかし、もし指示が「今日、新規顧客リストの中から50社に電話をかけてください」「今週、既存顧客を10社訪問してください」というものだったらどうでしょうか。

これなら誰でも実行できます。なぜなら、これらは「行動」であり、100%自分でコントロールできるからです。
■コントロールできるのは「行動」だけ
ビジネスにおいて、私たちがコントロールできるのは行動だけです。結果は、行動の積み重ねの先にあるものであり、直接コントロールすることはできません。
しかし、多くの人は結果ばかりを見て、行動を軽視します。「売り上げが上がらない」「新規案件が取れない」などと嘆きながら、具体的な行動を改めようとはしません。
これは、ゴールだけを見て、そこに至る道を歩かないのと同じです。どんなに素晴らしいゴールを設定しても、一歩も歩かなければ、永遠にたどり着けません。
では、どうすれば「結果」ではなく「行動」にフォーカスできるのでしょうか。具体的な方法をご紹介します。
ステップ1:結果を行動に分解する

例:新規顧客を1社獲得する(結果)→そのために必要な行動は?

・商談を3件実施する

・そのためにアポイントを10件取る

・そのために電話を200件かける
ステップ2:行動目標を設定する

結果目標:新規顧客5社→行動目標:架電1000件/月
ステップ3:日次の行動計画に落とし込む

月間1000件÷20営業日=1日50件

これなら、毎日何をすればいいかが明確です。
ステップ4:行動を記録する

実際に何件電話したか、何件訪問したかを記録します。
Excelでも、手帳でも構いません。大切なのは、自分の行動を可視化することです。
ステップ5:振り返りと改善

週次で振り返りを行います。

・計画通り行動できたか?

・できなかった場合、何が障害だったか?

・来週はどう改善するか?
■行動にフォーカスするメリット
行動にフォーカスすることで、以下のメリットがあります。
1.毎日やるべきことが明確になる

2.進捗が可視化できる

3.改善ポイントが具体的にわかる

4.成功体験を積み重ねられる

5.自信がつく
行動にフォーカスする方法については著書『数値化の魔力』で詳しく解説しておりますので、深掘りしたい場合は手に取っていただけると幸いです。
そして、これらの行動を可視化し、管理するための最強のツールが「KPI」なのです。続いて、このKPIについて、具体的に解説していきます。
■KPIの根本は極めてシンプル
ここまで、信頼を得るためには「コントロールできること」つまり「行動」にフォーカスすべきだという話をしてきました。しかし、「行動が大事」と言われても、具体的にどう管理すればいいのか、どう上司に伝えればいいのかわからないという方も多いでしょう。
その答えが「KPI」です。多くの人は、KPIを難しく考えすぎています。「複雑な指標を作らなければいけない」「高度な分析が必要だ」と思い込んでいるのです。

しかし、根本はとてもシンプルです。
【KPIの根本】

・何を(What)

・どれだけ(How many/How much)

・いつまでに(When)
これを数字で表したものがKPIです。あえて、ここまではKPIという言葉を積極的には使いませんでしたが、営業での架電や商談化の件数などはすべて、このKPIなのです。
■なぜ行動を「見える化」する必要があるのか
「行動すればいいのはわかった。でも、なぜわざわざ見える化する必要があるの?」
と思う方もいるでしょう。理由は明確です。
見えないものは管理できないからです。そして、管理できないものは改善できません。
たとえば、ダイエットを考えてみてください。「痩せたい」と思っているだけでは痩せません。しかし、毎日体重を測り、記録し、グラフ化すれば、自分の体重の変化が「見える」ようになります。すると、「昨日は食べすぎたから今日は控えよう」といった具体的な行動につながります。

ビジネスも同じです。「頑張っている」「たくさん電話している」では、本当に十分な行動をしているのかわかりません。しかし、「今日は電話を50件かけた」と記録すれば、それが多いのか少ないのか、目標に対して十分なのかどうかまで明確になります。
ここで、上司の本音をお伝えしましょう。上司が部下に求めているのは、完璧な成果ではありません。
【上司が本当に知りたいこと】

1.今、何が起きているのか

・順調なのか、苦戦しているのか

・苦戦しているなら、何が原因なのか
2.このままで大丈夫なのか

・月末の着地見込みはどうか

・リカバリーが必要なら、いつまでに何をすべきか
3.サポートが必要か

・自力で解決できるのか

・上司の介入が必要なのか
KPIによって行動を「見える化」することで、上司はこれらを明確に把握できるようになります。よって、上司も的確な判断ができるようになるのです。詳細については著書『数値化の魔力』で触れておりますので、深掘りしたい場合はご参照ください。
■営業プロセスを例に見ると…
では、具体的にKPIとはどのようなものか、前節までで少し触れた営業プロセスを例に詳しく見ていきましょう。
多くの企業では、営業の最終目標として「売り上げ」や「受注件数」を設定します。これはKGIと呼びます。たとえば、「月間受注5件」というのがKGIです。

しかし、「5件受注しろ」と言われても、どうすればいいかわかりません。
そこで、受注に至るまでのプロセスを分解し、各段階での行動を数値化します。これがKPIです。
■営業プロセスは「6段階」に分解できる
【営業プロセスの分解例】

1.架電(電話をかける)

・定義:顧客リストに基づいて電話をかける行為

・測定方法:ダイヤルした回数をカウント

・特徴:100%自分でコントロール可能
2.コンタクト(実際に相手と話す)

・定義:電話に出た相手と実際に会話ができた状態

・測定方法:会話ができた件数をカウント

・特徴:相手が電話に出るかどうかは運もあるが、時間帯の工夫などである程度コントロール可能
3.アポイント(面談の約束)

・定義:実際に会って話をする約束を取り付けた状態

・測定方法:アポイントが確定した件数

・特徴:相手の都合もあるが、提案の仕方で確率は変わる
4.面談(実際に会って説明)

・定義:顧客と対面して、商品・サービスの説明を行った状態

・測定方法:実施した面談数

・特徴:キャンセル率10%を除いて面談が可能
5.商談化(具体的な検討段階)

・定義:顧客が前向きに検討を開始し、見積もり依頼などがあった状態

・測定方法:商談ステータスが「検討中」になった件数

・特徴:面談の質によって大きく変わる
6.受注(契約成立)

・定義:実際に契約が成立した状態

・測定方法:契約件数

・特徴:最終的な意思決定は顧客次第
■「毎日61件電話をかける」という行動目標がわかる
では、実際の数値を使って、KPIがどのように機能するか見てみましょう。
【前提条件】

・月間目標:新規受注5件

・営業日数:20日
【各プロセスの成功確率(業界平均的な数値)】

・架電→コンタクト:30%

・コンタクト→アポイント:15%

・アポイント→面談:90%

・面談→商談化:30%

・商談化→受注:33%
【逆算による必要行動量】

受注5件を達成するために必要な各段階の数値を逆算すると、

・受注:5件

・商談化:15件(5件÷0.33)

・面談:50件(15件÷0.30)

・アポイント:55件(50件÷0.90)

・コンタクト:366件(55件÷0.15)

・架電:1220件(366件÷0.30)
つまり、月間5件の受注を得るためには、1220件の電話をかける必要があることがわかります。
日次の行動目標:1220件÷20営業日=61件/日
これで、「毎日61件電話をかける」という明確な行動目標ができました。
■5人のチームの場合に当てはめると…
あなたが5人のチームを率いるマネジャーだとしましょう。チーム全体の目標は月間25件の受注です。
【チーム全体のKPI】

架電:6100件/月(1220件×5人)

コンタクト:1830件/月(366件×5人)

アポイント:275件/月(55件×5人)

面談:250件/月(50件×5人)

商談化:75件/月(15件×5人)

受注:25件/月(5件×5人)
これをさらに週次、日次に分解し、各メンバーの進捗を管理します。
【週次管理の例】

第1週終了時点:

Aさん:架電329件、コンタクト93件、アポイント14件

Bさん:架電277件、コンタクト81件、アポイント11件

Cさん:架電312件、コンタクト101件、アポイント16件

Dさん:架電244件、コンタクト61件、アポイント7件

Eさん:架電348件、コンタクト104件、アポイント15件
この数字を見れば、Dさんが苦戦していることが一目瞭然です。架電数も少なく、コンタクト率も低い。ここで初めて、「なぜ架電数が少ないのか」「コンタクト率を上げるにはどうすればいいか」という具体的な議論ができます。


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岩田 圭弘(いわた・よしひろ)

Exgrowth代表取締役

慶應義塾大学経済学部卒業後、2009年にキーエンスに新卒入社。マイクロスコープ事業部の営業を担当。2010年新人ランキング1位を獲得。その後、2012年下期から3期連続で事業部営業ランキング1位を獲得し、マネージャーに就任。その後、本社販売促進グループへ異動、営業戦略立案・販売促進業務を担当。2015年キーエンスを退職し、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに転職。小売、医薬、建設業界の戦略策定、新規事業戦略策定に従事。2016年にキーエンスに戻り新規事業の立ち上げに携わる。2020年アスエネに参画。2025年、Exgrowthを創業。スタートアップのグロース支援に係るアドバイザリーを提供。著書『仕組み化がすべて』『数値化の魔力』『入社1年目の戦略

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(Exgrowth代表取締役 岩田 圭弘)
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