※本稿は、岩田圭弘『ひたすらKPI』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■一度の成果は「たまたま」の可能性がある
成果を出したら誰でも嬉しいものです。しかし、ここで安心してはいけません。なぜならば、上司はたった一度の成果では、あなたのチームの成果を本当の意味で信頼していないからです。
これは決して上司が意地悪なわけではありません。私自身、マネジャーとして部下を評価する立場になって初めて理解できましたが、一度の成果は、実は「たまたま」の可能性が否定できないのです。
つまり、上司からの評価を得るためには、チームの成果が一度出た際に、それが再現可能であることを証明する必要があるのです。
本稿では、KPIを使って一度出た成果に再現性があることを伝える方法を説明していきます。
■「ホームラン」よりも「ヒット」の積み重ね
ビジネスの世界では、「ホームランよりもヒットの積み重ね」が重要だと私は考えています。野球に例えるとわかりやすいでしょう。
ホームランバッターは確かに華やかです。満塁ホームラン一発で4点も入ります。観客も沸きます。人気も出ます。しかし、いつもホームランばかり狙って、「ホームランか三振か」という打者より、コンスタントにヒットを打てる打者の方がチームとしては計算が立ちます。
ビジネスで考えてみればさらに明白です。
ある営業担当者が、通常の月間売上は500万円程度なのに、ある月だけ2000万円を売り上げたとします。本人は「大型案件を獲得しました!」と誇らしげです。
しかし、翌月はまた500万円に戻り、その次の月は300万円……。3カ月平均では約933万円ですが、この波の激しさは組織にとって大きな問題です。
一方、毎月コンスタントに800万円前後を売り上げる営業担当者がいたとします。派手さはありませんが、3カ月平均は800万円。
なぜでしょうか。それは「予測可能性」の違いです。企業経営において最も恐ろしいのは不確実性、つまり「予測できないこと」です。来月の売り上げが500万円なのか2000万円なのかわからない状況では、人員配置も、投資計画も、在庫管理も、すべてが立てられません。
■「一発屋」という不安定な存在
営業の世界でよく見かける光景があります。
ある月だけ突出して成績が良かった営業担当者がいて、翌月以降はまた元の成績に戻ってしまう。いわゆる「一発屋」と呼ばれる人たちです。
こういう人を見ていると、上司としては「次の仕事を任せて大丈夫だろうか」と不安になってしまいます。
これは芸能界を見ても同じことが言えます。
一発屋芸人と呼ばれる人たちがいます。
ある時期、特定のギャグで大ブレイクする。
なぜこうなってしまうのでしょうか。それは、「なぜウケたのか」を分析せず、同じネタに頼り続けるからです。最初のブレイクが「たまたま」だったのか、それとも確かな理由があったのか。それを検証せずに、同じことを繰り返しているだけでは、時代の変化についていけません。
一方、長く活躍し続ける芸人を見てみましょう。
彼らは常に新しいネタを開発し、時代に合わせて芸風を微調整しています。データを取り、観客の反応を分析し、PDCAを回している。まさにビジネスと同じアプローチなのです。
■成功の理由を説明できない人は信頼できない
「なぜ成功したかを説明できない」ことはチームにおいても問題です。「たまたまいいお客様に出会えた」「運が良かった」では、組織として学びがありません。
一度の成功を言語化できないということは、部下に教えることもできないということです。マネジャーとして昇進していくためには、自分が成果を出すだけでなく、チームメンバーにも成果を出させる必要があります。しかし、「なんとなくうまくいった」では、何も伝えられません。
私自身の経験でも、部下に新しいプロジェクトを任せるとき、最も重視するのは「過去の実績の安定性」でした。1回大成功した人より、3回連続で及第点を取った人の方が安心して任せられます。後者の方が「最低限これくらいはやってくれる」という期待値が持てるからです。
■信頼は「積み重ね」で築かれる
考えてみてください。これはビジネスに限りません。普通の人間関係でも同じです。みなさんは、1回だけ約束を守った人と、10回連続で約束を守った人のどちらを信頼しますか? 答えは明白です。信頼は、積み重ねです。
1回守っただけでは、まだ信頼関係の土台すらできたとは言えません。
心理学的に見ても、人間の信頼形成には「一貫性」が重要だと言われています。行動が予測可能で、期待を裏切らない。これが信頼の基本です。
私の知人で、人事部門で働いている方がこんな話をしてくれました。
「転職してきた人の評価で最も重要なのは、最初の1年間の安定性だ」
最初の3カ月で大きな成果を出しても、その後失速する人は意外と多いそうです。逆に、最初は目立たなくても、1年間安定して成果を出し続ける人の方が、最終的には高く評価されます。
この話は、キーエンス出身者がなぜ各所で活躍できるのかという本書の冒頭でお伝えした話にも通じます。
キーエンスでは、日々の行動をKPIで管理し、継続的に成果を出すことが当たり前の文化として根付いています。そのため、転職先でも最初から安定した成果を出し続けることができ、早期に信頼を獲得できるのです。
■自分という「ブランド」への信頼を作れるか
サイバーエージェントの藤田晋社長が、あるインタビューでこう語っていました。
信用があれば、人は商品やサービスを買ってくれます。信用があれば、仕事を任せてもらえます。信用があれば、困ったときに助けてもらえます。逆に、信用がなければ、どんなに良い商品やサービスを持っていても、誰も相手にしてくれません。
これは社外だけでなく、社内でも同じです。上司や同僚からの信用があってこそ、重要なプロジェクトを任せてもらえ、昇進のチャンスも巡ってきます。
たとえば、iPhoneを考えてみてください。なぜ多くの人が、新製品が出るたびに買い替えるのでしょうか。それは、Appleというブランドへの信頼があるからです。「今度の製品も、きっと期待を裏切らない」という確信があるから、高額でも購入するのです。
同じように、あなたという「ブランド」に対する信頼があれば、上司は安心して仕事を任せられます。「この人なら、きっと期待に応えてくれる」という確信があれば、より大きな責任、より重要な役割を与えてくれるでしょう。そこで重要なのが「継続性」と「再現性」なのです。
■KPIで「継続性」と「再現性」を証明できる
「継続性」と「再現性」を示すにはKPIが有効です。
まず、KPIがあることで「継続性」が担保されます。KPIを達成していくことで、安定して成果を出し続けられるからです。
そして、この「継続性」こそが、上司が部下に最も求めるものの一つです。
なぜならば、上司も人間だからです。部下の成果は上司の成果でもあります。部下が安定して成果を出してくれれば、上司も安心して自分の仕事に集中できます。そのためには「継続性」が欠かせません。
逆に、部下の成果が不安定だと、上司は常に気を揉むことになります。「今月は大丈夫だろうか」「また急に落ち込むのではないか」という不安を抱えながら仕事をすることになります。これは、上司にとって大きなストレスです。
だからこそ、一度の成果で満足してはいけません。むしろ、一度成果が出たときこそ、「なぜ成功したのか」を徹底的に分析し、「次も同じように成功できる」ことを証明する必要があります。
では、どうすれば「この成功は再現可能です」と上司に証明できるのでしょうか。その答えが、KPIの蓄積と分析です。KPIを使えば、成功を「運」や「たまたま」ではなく、「必然」として説明できるようになるのです。
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岩田 圭弘(いわた・よしひろ)
Exgrowth代表取締役
慶應義塾大学経済学部卒業後、2009年にキーエンスに新卒入社。マイクロスコープ事業部の営業を担当。2010年新人ランキング1位を獲得。その後、2012年下期から3期連続で事業部営業ランキング1位を獲得し、マネージャーに就任。その後、本社販売促進グループへ異動、営業戦略立案・販売促進業務を担当。2015年キーエンスを退職し、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに転職。小売、医薬、建設業界の戦略策定、新規事業戦略策定に従事。2016年にキーエンスに戻り新規事業の立ち上げに携わる。2020年アスエネに参画。2025年、Exgrowthを創業。スタートアップのグロース支援に係るアドバイザリーを提供。著書『仕組み化がすべて』『数値化の魔力』『入社1年目の戦略』
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(Exgrowth代表取締役 岩田 圭弘)