日本人とニューヨーカーのファッションの違いは何か。ストリートブランド「Supreme」(シュプリーム)テクニカルデザイナーのあっちさんは「日本人はコスパからユニクロに頼りがちだが、ニューヨーカーはコスパ以上に自分らしいコーディネートに誇りを持っている」という――。

※本稿は、あっち『ニューヨークとファッションの世界で学んだ 「ありのままを好きになる」自信の磨き方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■Supremeが世界的ブランドに成長した理由
「Supremeって、米国のブランドなの?」
これは、友人たちからしばしば聞かれる質問です。日本ではSupremeの人気が高く、まるで国内発のブランドのように思われているのかもしれませんね。
たしかに、コムデギャルソンやジュンヤワタナベなどとのコラボレーションは日本でも人気が高く、ボックスロゴのフーディー(フード付きのスウェットシャツ)はリリースされれば即完売。「裏原系」と呼ばれるカルチャーを経て、いまやSupremeはストリートの枠を超えて支持される世界的なブランドです。
ブランド戦略もさることながら、実際に働いていて思うのは、Supremeの魅力はより内面的な――「リアル」を追求し続ける姿勢にもあるように思えます。
■プロのモデルやデザイナーばかりではない
Supremeは、創業者のジェームス・ジェビアが営むニューヨークの小さなセレクトショップから始まりました。グッチのベルトやポロのシャツ……いわゆるハイブランドとストリートアイテムを「自分らしく」着こなすスケーターたちのスタイルを、ファッションブランドとして昇華させたのが、Supremeの始まりです。
今もなお、その精神は変わりません。モデルに起用されるのはいわゆる「プロ」のモデルではなく、現場のショップスタッフやスケーターたち。デザインチームも、ファッション業界出身者である必要はありません。
大切なのは、Supremeというブランドの世界観を理解し、共感できるかどうかです。

とはいえ、その世界観を体現させるテクニカルデザイナーは、ファッションへの深い理解と体系的な知識、そして高い実務能力が求められます。
■上下関係が希薄な職場で「本当に着たいか」を追求する
Supremeは働き方もかなり「ユニーク」です。
基本的に残業はありませんし、週末出勤もなし。定時で終わらない場合は、「気合が足りない」と個人の責任を追求するのではなく、スタッフや予算を増やして問題解決を試みます。前職と比べても、これは大きなカルチャーショックでした。
社内の空気もいい意味で「独特」です。いわゆる上下関係は希薄ですし、パワハラや上司からのプレッシャーは皆無です。いわゆる「Fワード」はたまに飛び交いますが(笑)、差別的な発言がなければ問題視されません。
創業者のジェームス・ジェビア自身は、今でもデザインチームと定期的にミーティングをして、ロゴのついたタグの種類や位置、フィット感まで細かくチェックしています。
また、「本当にリアルなストリートでその服を着たい人がいるのか」を確認するためにも、入ったばかりのスタッフに「このデザインについて、どう思う?」と聞くなど、さまざまな角度から意見を求めてきます。意見を聞かれたほうも忖度をせず、思ったままの意見を伝える。そんなフラットで風通しの良さを感じます。

アートやカルチャーなど自分たちが「かっこいい」と思ったものを引用し、再定義するサンプリングの手法を含めて、自分たちが本当に「かっこいい」と思えるものを追求する。その哲学がSupremeの大きな魅力だとも思います。
創業当初から変わらない「リアル」へのこだわりと、それを支える組織としての成熟度。働く環境としても、クリエイティブな環境としても、ここまで一貫したブランドは、世界でも珍しいと思います。
■服への気配りは日本人のほうが上
世界的なファッション都市、ニューヨークに暮らして23年が経とうとしています。
「ニューヨーカー=オシャレ」というイメージが強いと思いますが、実は多くの日本人、特に東京に住んでいる方のほうがファッションや外見に対して、細やかな気配りをしているように思えます。
日本では冠婚葬祭のみならず、「通勤コーデ」「ママ友コーデ」「婚活ファッション」など、TPOに応じたファッションがこと細かに存在しています。さらに最近は「パーソナルカラー診断」や「骨格診断」といった自分の外見の特性を客観視した上で、似合う色や素材、洋服のシルエットを導き出す手法も人気です。
■アメリカは服装のカテゴライズをしない
しかし、米国では、こういった「診断」をあまり見かけません。大柄な人もいれば華奢な人もいる。足が長い人がいれば、短い人もいる……肌の色も体型も、みんな違って、当たり前。そのため、「パーソナルカラーが『イエベ秋(*)』ならこの色」「『骨格ストレート』ならこの服!」とカテゴライズすること自体、物理的に不可能です。

*パーソナルカラー診断における4シーズン分類のひとつで、「イエローベース×秋タイプ」の人のこと。黄みがかったあたたかみのある肌色で、カーキなど深みのある落ち着いた色が似合うといわれている。
もちろん、日本と米国、どちらが良い悪いというわけではありませんし、診断でファッションをより楽しめるようになるなら、利用しない手はありません。
私が見る限り、米国人のファッションはとてもカジュアルで、「着たいものを着たいときに着る」が大前提に思えます。今、私が働いているSupremeのオフィスでは、ミニスカートやレースのスカートとSupremeのアイテムを合わせる人、腕と脚のタトゥー全開でTシャツとハーフパンツを着ている人、古着とハイブランドを組み合わせてコーディネートをしている人……など実にさまざまです。
アパレル企業ということで服装の自由度が高いこともありますが、「自分が着たいものを着ている」という空気は、街の至るところで感じます。
■ニューヨーカーは「ユニクロ頼り」にならない
また、日本では「私、太っているから……」とビキニを着たがらない人もいますが、こちらでは、体型を気にしている人(*)はとても少ない印象です。ビーチではどんな体型の人でも人目を気にせず大胆な水着を着ています。渡米したばかりの頃は、そんな人々の佇まいに衝撃を受けることもしばしばありました。

*もちろん米国にも体型を気にする人はいます。そういった方に向けたエステ施術の副業を行っていました。
長引く不況や物価高、円安の影響もあり、日本ではユニクロをはじめとした「コスパ重視」なファッションが人気だと耳にします。

もちろんユニクロは米国でも人気で、ニューヨークの五番街には大きなフラッグシップストア(旗艦店)があります。私自身も「ウルトラライトダウン」を重宝していますが、それでもニューヨーカーは日本人ほど「ユニクロ頼り」になっていないように思えます。
というのもニューヨークでは、コスパの良さ以上に「個性的」であることを重んじる人が多く、皆、自分らしいコーディネートに誇りを持っています。洋服のコストを抑えたい場合も、没個性になりがちな「ユニクロコーデ」ではなく、リーズナブルなヴィンテージショップや古着屋で一点ものを探す人のほうが多い印象です。
■他人の目を気にせず、自分らしい着こなしを楽しむ
振り返れば、私自身、「自分らしい着こなし方」を考えるようになったのは、渡米してからでした。
留学時代、大学があったジョージア州サバンナは、ひと言でいうと田舎町。洋服を買うにも、当時はGAPやバナナ・リパブリックのような量販店しかありませんでした。そもそも自己表現の手段としてファッションに惹かれて留学したのに、これでは個性を出すどころか「皆と一緒」になってしまう。
そんな私が見つけたのが「グッドウィル」でした。洋服だけでなく本やDVD、電化製品、家具や玩具まで店頭に並び、思わぬ掘り出し物とも出会えるスリフトショップ(*)です。

*古着や家具、雑貨などの中古品を扱うリサイクルショップ。米国では寄付された物を安価で販売する形が多い。


お世辞にも「洗練されている」とはいえない場所ですが、だからこそ「可能性がある」とも感じました。おもちゃの宝石がついた派手なTシャツに、おじさんが履いているようなストライプ柄のウールのスラックス、足元は素足にピンクのサテンのヒール……。ミスマッチなアイテムをいかに組み合わせて、自分らしい着こなしをするか。
そんなクリエイティブなスタイリングにハマっていきました。
私のことを誰も知らない土地なら、どう思われても大した問題ではない。そんな思いもあったと思います。やがて学校内でも「そのコーディネート、いいね」「どこで買ったの?」など声をかけられる機会が増え、密かな手応えも感じていました。
今思えば、他人の目を気にせず、自分らしい着こなしを楽しむ土台は、この時期に培われたのかもしれません。

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あっち
ファッションデザイナー、テクニカルデザイナー

Catherine Malandrino、Club Monaco、Donna Karan、DVF、自社ブランドIDeeeN NEW YORKを経て現在、Supreme勤務。YouTube【NEW YORK STYLE/ニューヨークのリアルな声】ではニューヨークの日常、ニュース、経済関連など現地民ならではの情報を発信。アメリカ経済の問題がわかりやすく解説されていると好評で、チャンネル登録者数9万人超(2025年9月現在)。ブルックリン在住。


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(ファッションデザイナー、テクニカルデザイナー あっち)
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