Z世代を対象とした博報堂生活総合研究所の調査で、「異性と同性どちらの目を意識するか」という質問に、67.1%の女性が同性の目を意識すると回答。異性が意識する女性が3割程度にとどまることがわかった。
『』(光文社新書)から、その実像を紹介する――。
■SNS上の縁をリアルに深めるZ世代
子どものころにインターネットがまだ人口に膾炙(かいしゃ)していなかった大人たちは、どうしても「インターネット(SNS)上の友達はつながりが薄い」「表面上の関係にすぎない」といったイメージを抱きがちです。
しかし、それは実態と合っているのでしょうか?
答えは、「否」です。今の若者はむしろ、さまざまなアプリを使いこなしながら、自分にフィットする友人を丁寧に選び取るというアプローチをとっています。
あるアーティストのファンである男子大学生は、深く共感できる相手を求めて数百人規模のファンが集う、チャットアプリのオープンチャットに参加しました。その巨大な空間でのやりとりのなかで、「この人とは好き度合いが近いかも」「住んでいるエリアが近そう」「価値観も合いそう」と感じるメンバーが徐々に見えてきたタイミングで、15人ほどの小グループに移動。そこでさらに1年間ほどオンライン上で交流を重ね、あるひとりの女性と実際に会ってみて、そのまま異性としてのお付き合いが始まったそうです。
たとえば、ライブ会場で隣にいる人も同じアーティストを好きという共通点はありますが、深い価値観までは分かりません。気が合わない可能性もあるし、ライブが終わるまでフェードアウトすることもできない気まずさもあります。あるいは同じ「電車好き」の集まるイベント会場でも撮り鉄なのか乗り鉄なのかは話してみないと分からないし、初手(しょて)でコミュニケーションを間違えると事故になるでしょう。
■「ガチ勢」との友情はネットならでは
けれどインターネットなら、自分のペースで相手を判断することができます。「好き」の方向性や強度、向き合い方をじっくり吟味(ぎんみ)できる。

要はリスクをとらずに「合わない人」を除いていけるという、大きなメリットがあります。開かれた入り口から自分に合う関係性へ、若者たちはアプリ上のコミュニティ機能を器用に使いこなしているのです。
ネット(SNS)上にいる気が合う「ガチ勢」を見つけ、つながり、趣味や好きなことについてとことん深く話す。そのジャンルに関しては何の忖度(そんたく)もいらないし自分をさらけ出せる。そんな新しい友達の作り方が確かに生まれています。リアルの友達とは違って進路の相談やなにげない雑談をするわけではなく、あくまで特定トピックについての興味・関心だけを共有する、機能分化の先にある関係です。
このように友達を使い分けているZ世代にとっては、友人関係はもはや「濃いか、薄いか」という二元論ではなくなってきている面もあります。
たとえば、オープンチャットで出会う「ガチ勢」の友達がこれまで歩んできた人生は、正直よく分かりません。話題が多岐にわたるわけではないし、もちろん相手の親御さんやリアルな友達に会ったこともないので、あっさり薄い関係を築いているようにも見えます。
けれど、趣味の分野ではどのリアルの友達よりも深く共感し、局所的には特濃のコミュニケーションが取れるのも事実。Z世代にはそんなスペシャリスト型の友人が出現しているのです。
■大学の友人は情報戦を生き抜く「戦友」
高校~大学以降になると交友関係がどんどん機能分化していくのも今の若者の特徴です。

「話題によって話す相手(友達)を選ぶことが多い」という質問に「はい」と答える人の割合も、この30年間で68.4%→81.0%へとはっきり増加しています。
身の回りのことなど一般的な話題は学校の友達、マニアックなゲームの話をするのはSNS上の「ガチ勢」、恋バナをするのはまた別グループ……と、話題や目的ごとに付き合う相手を変えるわけです。
これは、ある程度成長してからだと何でも話せる親友を作るのは難しくなっていることの表れでもあるでしょう。機能分化した交友関係のなかでは、大学や専門学校の友達は情報戦を生き抜く「戦友」としての側面が強いようです。調査のなかでは、自分の成長や学びに特化した関係性を築いているケースがよく見られました。
前提として、現在の学生は一様に「忙しい」と語ります。バブル期には「大学のレジャーランド化」という言葉も生まれましたが、モラトリアム期間を過ごす場所としての大学のあり方は今や遠い昔の話です。文部科学省の方針によって単位の取得が難しくなり、出席も必須。アルバイトにインターンにと課外活動も多く、多くの学生は時間をやりくりして過ごしています。
■「友人もメリットがあるかどうかで選んでしまう」
資格試験や実習のある分野の学生はより大変で、看護を学んでいる新潟在住の21歳の女性によると「実習期間は3時間睡眠が続いたりする。毎日徹夜をしている人もいる」のだそうです。
こうした環境下において、大学の友達は単位取得を共に目指したり、将来につながるスキルを磨いたりする「戦友」として機能するようになっています。
ひたすら馬鹿話をしたりコンパに行ったり「代返」をしてもらったりしていた世代とは、まさに隔世の感があるわけです。
たとえば、デザインコンペの常連で入賞経験もある、21歳の男子大学生コンビ。学生コンペを共に戦うこの二人の関係は、気の置けない友達というよりは会社の同僚に近い距離感で、彼らの会話の多くは進路や起業の話が中心です。
彼らのうちの一人はこう語っていました。「僕は、自分にとって価値があるかないか損得勘定で動くことが多い。自分でもやめたいなとは思っているんですけど、友人もメリットがあるかどうかで選んでしまうんです」
■落ち込んだ時にそばにいてほしいのも同性の友人
の第2章で「異性の友達の数は減っているが、同性の友達の数は減っていない」というデータをご紹介しました。それに関連して、「異性の友達より、同性の友達が大事」という傾向も明確に表れています。
「同性の友人といる方が楽しい」と答える人が増え、逆に、30年前は35.4%を占めていた「異性の友人といる方が楽しい」という回答は11.7%にまで減少しています。
同じく第2章で紹介した「落ち込んだ時、一番そばにいてほしい相手」も、「同性の一番の友達」を選ぶ人が36.0%→55.6%に、以前は55.9%だった「異性の一番の友達」は16.0%まで減っています。恋愛の存在感が相対的に下がる一方で、同性の友人との関係がより大切にされる傾向が見て取れます。
「異性と同性どちらの目を意識するか」という設問にも変化が表れています。
恋愛至上主義時代の30年前は7対3で異性の目を意識していたのが、現在では「異性」51.5%、「同性」48.5%とほぼ拮抗(きっこう)。
特に「恋愛離れ」が進んでいる女性では、「同性の目を意識する」との回答が46.3%→67.1%にまで上昇しています。
■異性関係が築きづらい時代の若者たち
「自分にとって居心地のいい組み合わせ」も、同性同士にシフトしています。1994年は「異性との二人」が38.1%、「男女二人ずつ」が3割弱で、異性を含む組み合わせを選んだ人が全体の約75%を占めていました。
しかし2024年の調査では、「同性同士の二人」が64.8%と、当時の25.5%から約2.5倍に増加。3人に2人が「同性同士だけの方が居心地がいい」と感じているのです。
これらの変化については、同性との関係がより心地よくなっている以上に「異性と気の置けない関係を築きづらくなっている」と読む方が自然かもしれません。なぜかというと、今の若者は「コンプラ時代」を生きているからです。
「コンプライアンス(法令遵守)」という言葉自体は1990年代後半に日本に導入され、2000年代後半には一般にも浸透しました。当初は企業の不祥事や偽装問題などの場面で使われていましたが、2010年代に入ると、セクハラやパワハラといったハラスメントの文脈でも広く用いられるようになりました。
生活総研の若者研究チームの一員である伊藤耕太は関西の大学で講座を持っていますが、「教えている大学でも、セクハラを始めアルハラ、アカハラ防止などの啓発が進み、学生同士の関係でも一定の緊張感が求められるようになってきている」ようです。

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博報堂生活総合研究所(はくほうどうせいかつそうごうけんきゅうじょ)

広告会社博報堂の企業哲学「生活者発想」を具現化するために、1981 年に設立されたシンクタンク。人間を単なる消費者ではなく「生活する主体」として捉え、その意識と行動を継続的に研究している。
1992 年からの長期時系列調査「生活定点」のほか、さまざまなテーマで独自の調査を行い、生活者視点に立った提言活動を展開。本書は、若者研究チーム(酒井崇匡、髙橋真、伊藤耕太、佐藤るみこ、加藤あおい)による調査・分析をもとに構成されている。

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(博報堂生活総合研究所)
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