※本稿は、尾形哲『肝臓から脂肪を落とす 脂肪燃焼スープ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■「痩せるために食事を減らす」は危険
「太る」とは「体に脂肪が増える」ことを指します。
私たちは、日々食事からエネルギーを摂っています。一方で、歩いたり、話したり、心臓が動いたり、体温を保つなど、終日、たとえ寝ていてもエネルギーを使っています。
食べたエネルギー量よりも使うエネルギー量が少なければ、余った分が脂肪となって体に蓄積していき、お腹や背中、二の腕などに脂肪が増えて、外見上でも目立ってくると「太った」と実感するわけです。
しかし、見た目に変化がなくても、じわじわと脂肪をため込んでいるのが「肝臓」です。肝細胞の一つひとつに脂肪がたまっていく「脂肪肝」にかかっている人は、成人の3分の1にのぼると推計されています。初期症状がほとんどないために、気付いてすらいない人が大半ですが、放置していればやがて肝炎に進んだり、さらに悪化すれば「肝硬変」や「肝がん」の原因になったりすることもある怖い病気です。
体に増えてしまった脂肪を落とし、脂肪肝を改善するにはどうしたらいいのでしょう。
決して“食事を減らせばいい”という単純な話ではありません。
減量というと、とかく食事を減らすことが注目されがちですが、栄養不足になるとかえって脂肪を増やす原因になるということを知っておいてほしいと思います。
■代謝が下がると脂肪がたまりやすくなる
20代の体と40代以降の体での大きな違いは、“代謝が下がる”ことです。代謝とは、体の中で起きているエネルギーのやりとり全体を指します。食事から得た栄養素を分解してエネルギーを取り出したり、分解された物質から体に必要な物質に合成したり、老廃物を排出したり――そのすべてが“代謝”です。
代謝が下がってしまうと、同じ量の食事をしたとしても体に脂肪がたまりやすくなってしまいます。
先ほどお伝えした、体温を保ったり、呼吸をしたりと、寝ているときにも行われているのが「基礎代謝」で、全体の6~7割を占めます。この基礎代謝をたくさん行う臓器が肝臓と筋肉。そして、40代以降の代謝ダウンに大きく影響するのが「筋肉量の減少」です。
40代を過ぎると、筋肉を合成する力が弱まることで筋肉量が減り、代謝が落ちるのです。
筋肉の主な材料はタンパク質。だから、若い頃以上にタンパク質を摂ることが大切になります。体重1kg当たり1~1.3gのタンパク質量を1日3回、毎食摂るのが理想です。
加えて、タンパク質だけでなく、低下気味の代謝機能を上げるのに重要な「ビタミン」をしっかり摂ることが、脂肪を落とす力を上げることにつながります。
こうした栄養をぎゅぎゅっと詰め、かつ脂肪燃焼力を高める食事として尾形式の「脂肪燃焼スープ」を推奨していますが、今回は、ビタミンが代謝のメカニズムとどう関わるのか解説していきましょう。
■ビタミンは「自力でほとんど作れない栄養素」
ビタミンとは何かを簡単に説明すれば、“体の中でほとんど作ることができない、でも生きるために必要な栄養素”といえます。微量で体の働きを助ける物質で、油脂に溶ける「脂溶性ビタミン(ビタミンA・D・E・K)」と、水に溶ける「水溶性ビタミン(ビタミンB群・C)」に分かれます。
このうち代謝を上げて、脂肪燃焼に大きく関わるビタミンは主に3つあります。
1つ目が「ビタミンB群」です。
ビタミンB群は、体内でエネルギーを生み出す代謝に欠かせない存在。糖質、脂質、タンパク質をエネルギーに変える過程で、酵素の働きをサポートする補酵素として活躍します。
「ビタミンB群」と呼ばれるように1つではなく、B1・B2・B3(別名:ナイアシン)・B5(別名:パントテン酸)・B6・B7・B9(別名:葉酸)・B12の8種類があります。
ビタミンB1は主に糖質の代謝を助け、ビタミンB2は脂質の分解を促進し、ビタミンB6はタンパク質代謝と脂肪燃焼に深く関係します。だから、ビタミンB群が不足すれば、摂取した栄養素を効率よく燃やすことができずに、脂肪がたまりやすい体になるわけです。
■最強食材「鶏むね肉」はスープで
では、ビタミンB群を豊富に含む食品とは何か。
鶏むね肉、豚肉、魚介類(さば・あさり)、卵、大豆食品(豆腐・油揚げ・みそ)、緑黄色野菜(ほうれん草、ブロッコリー、ニラ、ピーマン、さやいんげん、豆苗)、にんにくなどにビタミンB群は含まれます。
特におすすめしたいのが、鶏むね肉です。鶏むね肉にはバランスよくビタミンB群が含まれています。ビタミンB6とB3(ナイアシン)が豊富な上に、筋肉を維持・増加させるのに必要なタンパク質も豊富に含まれており、筋肉量の維持を通じて代謝を支える効果が期待できます。
鶏むね肉は豚肉よりも脂質が少ないので、余計なカロリー摂取を控えながら脂肪燃焼を促進することができ、筋肉量の維持や代謝を支える食品として注目されています。特にBCAA(ロイシン・イソロイシン・バリン)という筋肉を育てて守るアミノ酸が含まれていて、筋力トレーニングを行う人にも広く利用されています。
注意点としては、ビタミンB群は水溶性のため、ゆでると流失してしまいます。だから、溶け出した汁ごと摂取できるスープなら無駄なく摂取しやすくなります。
■究極の若返り栄養素「ビタミンE」
代謝アップに欠かせない2つ目のビタミンが「ビタミンE」です。
ビタミンEは強い抗酸化作用を持ち、体内の細胞を酸化ストレスから守るビタミンです。脂肪の代謝に直接関わるものではありませんが、代謝が行われる際に細胞が傷つけられるのを防ぎます。脂肪の代謝時には活性酸素が増えて、細胞を傷つける原因になります。細胞が傷つけば、代謝力がダウンしてしまいます。
しかし、体内にビタミンEが十分に供給されていれば、細胞のダメージを防いで代謝のスムーズな進行をサポートできます。ビタミンEはまさに“細胞を守る盾”というわけです。
ビタミンEを豊富に含む食材は、魚介類(さば・サーモン)、野菜(ブロッコリー・豆苗・玉ねぎ・アボカド)、アーモンドなどのナッツ類です。そのほか、植物油にビタミンEが多く含まれるため、日常的にオリーブオイルかごま油などを利用すると、摂取量をプラスしやすいでしょう。
なお、ビタミンEは脂肪肝炎の改善に有効なことが科学的に証明されています。血行や肌の新陳代謝も促すので、見た目を若く維持するためにも有効な“若返りビタミン”といってもよいでしょう。
■脂肪の蓄積を抑える「ビタミンD」
代謝アップに重要なビタミンの3つ目は「ビタミンD」です。その脂肪燃焼につながる主な働きは2つあります。
まず、“筋肉の働きや成長をサポートする働き”です。ビタミンDが不足すると筋肉の減少をさらに加速させて、代謝が大幅にダウン。脂肪を燃やしにくい体質になります。
次に、“脂肪の蓄積を抑える働き”です。
ビタミンDを豊富に含む食品はあまり多くはありません。代表的な食品は、魚ときのこ類、卵などです。
意識しないと不足しがちなビタミンでもあるので、こうした食品を日々の食事で選んでいく必要があります。
ビタミンDの摂取は、肝臓にもメリットがあります。脂肪肝や肝炎などの慢性的な炎症に対し、ビタミンDが炎症をやわらげるという研究報告が出ています。
なお、ビタミンDは日光浴によって体内で合成することもできます。食事からの摂取が基本ですが、出勤や買い物のついでに日光を浴びながら、散歩する時間を設けるとよいでしょう。ビタミンDには、カルシウムの吸収を助けて骨の健康を保つ働きもあるので、足腰の健康維持にもよい影響を与えてくれます。
■安易なサプリメント摂取は肝臓に負担をかける
脂肪を燃やす体づくりには「ビタミンB群」「ビタミンE」「ビタミンD」が重要だとご理解いただけたと思います。ただし、いくらビタミン補給が必要だからといって、安易にサプリメントに走るのはNGです。
私が担当するスマート外来に通う方々には、サプリメントの使用を一切やめてもらっています。理由はサプリメントが肝臓に負担をかける原因になりかねないからです。肝臓に負担がかかれば、せっかくビタミンを摂取しても代謝を上げるブレーキになりかねません。むしろサプリメントをやめてもらって、患者さんの8割以上が3カ月で5kg減を実現しています。
■鶏むねのひき肉で「食べるおかずスープ」
サプリの代わりに、肝臓に負担をかけずにビタミンをしっかり摂るには、“スープを食べる”ことをおすすめしています。ポイントとなるのは、ビタミンB群をバランスよく含む部位である鶏むねのひき肉でとるスープストックです。
鶏むねひき肉300gに水9カップ(1800ml)を注いでよく混ぜ合わせ、しょうがのスライス3枚と酒大さじ1、こしょう少々を加えてから火にかけ、沸騰したら弱火で15分ほど煮ると、6食分のスープストックができあがります。
鶏むね肉のスープストックに肉か魚介、卵、豆腐などの高タンパク食品1品と、2~3種類の野菜やきのこ、海藻を加えるのが基本。ここに少量のオイルとスパイスかレモンなどの酸味を加えれば、尾形式の「脂肪燃焼スープ」の完成です。汁ごと食べるので水溶性ビタミンも逃しません。
夕食をスープに置き換えれば、1~2週間で体が軽くなることに気づくはずです。“スープを食べる”と表現したのには意味があって、同じスープでもポタージュのように撹拌して流し込むものではなく、しっかり大きな具にして、「食べるおかずスープ」にすることが大切。噛んで、栄養がゆっくり吸収されていくことで代謝が促進され、脂肪燃焼効果が格段に高まります。
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尾形 哲(おがた・さとし)
肝臓外科医
長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」担当医。医学博士。一般社団法人日本NASH研究所代表理事。1995年神戸大学医学部医学科卒業、2003年医学部大学院博士課程修了。パリ、ソウルの病院で多くの肝移植手術を経験したのち、2009年から日本赤十字社医療センター肝胆膵・移植外科で生体肝移植チーフを務める。さらに東京女子医科大学消化器病センター勤務を経て、2016年より長野県に移住。2017年スタートの「スマート外来」は肥満解消と脂肪肝・糖尿病改善のための専門外来。著書に『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす7日間実践レシピ』『専門医が教える 1分で肝臓から脂肪が落ちる食べ方決定版』『専門医が教える肝臓から脂肪を落とす食事術【増補改訂版】』(いずれもKADOKAWA)などがある。
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(肝臓外科医 尾形 哲)