※本稿は、阿部恵『きちんと伝わる説明の「型」と「コツ」』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■相手が外資やIT系でないのにカタカナ語はNG
説明上手は「専門用語を変換」し、
説明下手は「専門用語だらけ」で話す
外資系企業で研修を担当したときのこと。若手社員の口からこんな言葉が出ました。
「コーポレートガバナンス強化を目的に、ステークホルダーとのエンゲージメントを最適化し、サステナビリティ視点でイノベーションをドライブします」
このカタカナ語、あなたはパッと意味がわかりますか? 私には、さっぱりでした。
こういうとき、私は必ず「あなたが説明する相手も外資系、またはIT企業ですか?」と尋ねます。外資やIT系であれば、カタカナ語を多用しても問題ないからです。
しかし、このとき返ってきた答えは「いいえ、日本の中小企業に説明する機会がほとんどです」でした。
日本企業で、日常的に英語を使っていない相手に対しては、下記のような“カタカナ語交じり文”は、ほとんど意味が伝わっていない、と断言できます。
こうしたケースではまず、カタカナ語を一つひとつ取り出して、意味を問います。
・コーポレートガバナンスを日本語で言うと?→企業統治
・ステークホルダーは?→利害関係者
・エンゲージメントは?→関係性
・サステナビリティは?→持続可能性
・イノベーションは?→革新
・ドライブは?→推進
さすがに、役員クラスはすぐに日本語に変換ができました。しかし、若手になればなるほど「え~っと……」と言葉に詰まってしまうのです。
カタカナ語の使用がすべて悪いというわけではありません。しかし、説明とは、相手に届けるもの。相手が意味を理解できなければ、説明は成立していないのです。
■カタカナ語のほうが便利な言葉の種類
これは、私が国会議員秘書をしていたときのことです。
小泉純一郎元総理が、霞が関の省庁の文書にやたらとカタカナ語が多いことについて「なぜ日本語で言わないのだ!」と苦言を呈されたことがありました。
私は、予算委員会や本会議で、小泉元総理が発言されるのを直に聞いたことがあります。確かに総理は極力カタカナ語を使わず、誰が聞いてもわかる日本語で話すので、とても理解しやすかったのを覚えています。
一方、カタカナ語のほうが便利な場合もあります。
「リーダー」「ビジネス」「ミーティング」「プレゼン」「クレーム」「トラブル」などは、もはや一般用語といってもよいレベルでしょう。これらをいちいち日本語訳すると、かえって大変かもしれません。
それでも、日ごろから「この言葉で相手に通じるかな?」と考える習慣を身につけることは大切です。
■パワポのプレゼンで陥りがちな説明
説明上手は「相手の視線を誘導」し、
説明下手は「ランダム」に話す
仕事柄、企業のイベントやセミナーで登壇する方に、プレゼンテーション研修をすることがあります。実際のパワーポイントの画面を使って、私にプレゼンをしてもらうのですが、時々「ん? 今どこの説明?」と、わからなくなることがあります。
「すみません、今、どこの説明ですか?」と質問を挟むと、慌てた様子で「『顧客管理』です」などと、答えてくれます。ところが、外部の人間である私には、そもそも『コキャクカンリ』が、パワーポイントのどこにあるのかがわからないのです。
自分で説明していると「相手もどこを説明しているか、わかっているはず!」との錯覚に陥りがちです。これは、説明下手な人によく見られる傾向です。
パワーポイントの資料に一番詳しいのは、作成した説明者本人です。相手は、資料を見るも、聞くのも初めて。「今の説明はどこ?」と、辿り着くのに時間がかかります。
にもかかわらず、作成者本人のテンポで説明を進めてしまうと、聞くほうは追いつけませんよね。どこを話しているかわからない説明は、聞き手にとっては単なる「ランダム情報」でしかありません。
■右から2番目、色分けで導線をつくる
例えば下のようなシートで、
Aさん:「管理設定に関しては3つの設定方法があって、そのうちの1つに関しては……」
と、説明されて、あなたはどこの画面説明かすぐにわかるでしょうか?
説明上手のBさんは、同じ画面説明でも言葉を補って相手にわかるよう説明します。
Bさん:「今、5つの四角がご覧いただけると思います。右から2番目に『管理設定』と書かれたものがあります。おわかりになりますか?
それでは『管理設定』についてご説明しましょう」
このように「右から2番目」と示すだけで、楽に「管理設定」に辿り着けます。
または、パワーポイントに色分けをして、
「黄色い枠の『管理設定』をご覧ください」
と、説明してもわかりやすいでしょう。楽に相手の視線を誘導することができます。
パワーポイントのスライドを1枚めくって、画面が変わったときも同様です。
いきなり説明に入るのではなく、パワーポイントの上部の「『今日の流れ』です」とか「『昨年度の売り上げ』についてです」と、タイトルをまず読みます。
これだけで、相手は「このページに入ったんだ!」と、理解しやすくなります。
■最初に見せるべきは「結論」と「ポイント」
説明上手は「話の地図」を描くが、
説明下手は「話のメモ」を広げる
あなたは、次のようなプレゼンを聞いたことがありませんか?
「えーと、今回の資料はですね、ちょっと時間がなくて簡単に作ったんですが。
まず、先月の売り上げが少し落ちていて、その要因としていくつか考えられるのが、プロモーションの反応率が悪かったこととか、在庫の問題とかがあって。
あ、ちなみに先々月は好調でした。
この説明は、典型的な「メモ型」です。情報量はあるのに「何が言いたいのか」が見えてこない。理由は、話し手が思いついた順に、メモを広げるかのように話すからです。そのため聞き手は結論も流れもわからず、迷子になってしまうのです。
一方、説明上手はこれを次のように「地図型」で、整理して話します。
「今日は、『売り上げ回復のために行うべき3つの施策提案』についてお話しします。
まずは結論から申し上げます。最も効果が高いのは、SNS施策の再設計です。
次に、その理由を具体的に3つのポイントに分けてご説明します。
①売り上げ低下要因の整理 ②取り組むべき課題の優先順位 ③SNS施策の具体案
まず①の要因ですが、プロモーション反応率の低下と、在庫の偏りが主な原因と見られます……(続く)」
このように、「話の目的地=結論」「経由地=ポイント」を最初に見せることで、聞き手は安心して話の全体像を追えるようになります。
これは、アクション映画の結末がハッピーエンドだとわかると、ハラハラせずに物語の細部を楽しめるのと同じで、結論がわかっているだけで、落ち着いて相手の説明に耳を傾けられるのです。
以下に、地図型とメモ型の話し方の違いをまとめておきましょう。
----------
阿部 恵(あべ・めぐみ)
スピーチコンサルタント
元TBS系列中部日本放送アナウンサー、元国会議員政策担当秘書。神奈川県川崎市出身。中部日本放送(CBC)にアナウンサーとして入社。CBC「サンデードラゴンズ」キャスター、TBS「おはようクジラ」中継キャスター等を歴任。TBS系列28局の中で最も優れたアナウンサーに与えられる「アノンシスト賞・最優秀賞」ほか、数々の賞を受賞。その後、フリーアナウンサーとして活動したのち、出産を経て、キャリアチェンジ。国会議員政策担当秘書資格を取得し、政財界のトップリーダー、官僚らとやりとりしながら政策立案、国会質問原稿作成、選挙戦略策定等に従事。有権者にきちんと伝わる説明や話し方指導を行う。政治家や元総理夫人、上場企業の社長・役員、弁護士等のトップリーダーから企業研修まで、これまで6000人以上にスピーチ指導を実施。
----------
(スピーチコンサルタント 阿部 恵)