大学受験にはどれくらいのお金がかかるのか。大学受験塾代表の菅澤孝平さんは「文部科学省のデータによると、1校あたりの受験料は36年前(1989年)と比べて30%以上上がっている。
※本稿は、菅澤孝平『親の過干渉こそ最強の大学受験対策である。』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■受験料は親世代より30%以上値上がり
受験にかかるお金についても、以前と今では異なります。残念ながら、さらにお金がかかるようになっているのが今の大学受験。
まず、現在の受験料を確認しましょう。
○国公立大学の一般入試
共通テスト:3教科以上1万8000円 2教科以下1万2000円
2次試験:約1万7000円/校
○私立大学の一般入試
約3万5000円/校
対して、36年前(1989年)の受験料は、文部科学省の開示するデータによると、国立大学は約2万3000円/校、私立大学は約2万6600円/校とされており、いずれも30%以上上がっていることになります。
さらに、親が現役のころは受験するのは3~4校程度だったと思われますが、昨今の平均は12校です。
もちろん絞り方には個人差があり、例えば経営に進みたい子は経営に関する学部のみを受けることになりますが、少なくとも8校ほどは受けるのが通例。明治大学の経営学部に行きたいとしても、商学部と政治経済学部を併願するなど、受験科目が被っているところを中心に多数受けます。
■宿泊・交通費を含めると100万円以上飛ぶ
というのも、昔は希望する学部は全て受けなければなりませんでしたが、現在は同じ科目を対象にしているところは、一度受験するだけで希望する学部全ての判定が出る入試方式があるためです。
もちろん学部ごとに受験しなければならないところもありますので、2月の1カ月間は2日に1回は受験している状態になります。
下手な鉄砲も数打てば当たるというわけではありませんが、今は10校以上出願して勝ちにいこうというのが一般的な時代です。少子化が進んでいるため競争率が下がっていると思いがちですが、平均的な受験校数が増えたため、受験者数はほぼ横ばいで、倍率はむしろ上昇傾向にあります。
受験料は値上がりし、出願数も増えるということで、昨今は受験料だけで30万円ほど必要になります。加えて、前泊が必要な場合は宿泊費もかかりますので、交通費を含めると相当な金額を覚悟しておかなければなりません。
■合格を「キープ」するだけで10万円かかる
意外と算出しそびれやすいのが、結果的に入学しない大学への納付金。
厄介なことに、大学受験は偏差値の低い順に入試の日程が組まれているため、第1志望ではなくとも受かってキープしておきたいところは、受験日の10日後ぐらいには入学金を払わなければなりません。もちろん、入学金も国公立・私立大学ともに値上がりしていて、今では約10万円かかります。2つ押さえたいとなると、20万円支払わなければなりません。
国公立は日程の関係で前期・中期・後期それぞれ一校ずつしか受けられませんが、「国公立を第1志望にすれば無駄な入学金を払わなくて済むのでは」と思うのは大間違いです。
国公立の入試は2月末に行われるため、2月は私立大学のみの子と同じように滑り止め目的で私立大学を受験することになるのです。
国公立志望の子は、受験から解放されるのが最後となり、キープのために入学金を払うかどうか判断するシーンも必然的に増えるため、むしろ不要な負担が膨らむこともあるでしょう。
私立はマークシート、国公立は記述と対策が異なるため、国公立志望の子の中には私立を5つ程度しか受けず勉強のための時間の確保を優先する人もいます。
■必要な費用は国公立と私立で大差なくなっている
昔は、国公立のほうが授業料が低く、「お金をかけたくない家庭向け」とか「だからこそ高い学力を求められる」といったイメージがありました。確かに今も、授業料は国公立のほうが低く、「国公立しか行かせられない」と言われる子もいることにはいます。
しかし、実は必要な費用を合算すると、国公立と私立で大差なくなっているのが現状。
さまざまな科目を勉強するのが苦手な子の場合、国公立であれば偏差値55のところしか行けないかもしれませんが、私立であれば偏差値60を狙えます。
偏差値を5上げるために80万円を出せるか、あるいは渋るかということです。もちろん家庭それぞれで状況が異なりますし、80万円も決して少ない額でないことは私も理解しています。
ここでお伝えしたいのは、大学受験の変化を知り、まずは考えてほしいということ。
ただ闇雲に「私立はダメ」と決めつけるのではなく、少し立ち止まって試算してもいいのではないでしょうか。
費用面で言うなら、国公立か私立かよりも、大学の立地のほうが重要かもしれません。一人暮らしをさせるには、家賃も生活費も必要になります。
■受験生に「絶対に言ってはいけない」一言
実家から通えるところにするか一人暮らしを選択するかは、子どもの熱意も踏まえて判断するべきでしょう。
例えば宇宙工学を学びたい場合は、国公立であれば筑波大学や東京大学、私立であれば早稲田大学の先進理工学部を目指したくなるでしょうから、必然的に立地をコントロールして費用を抑えることは難しくなります。
親が絶対にしてはいけないのは、受験校について制約があることを途中で子どもに告げること。
高校3年生の12月など、いざ出願というタイミングになって「お金がないので10校も受けられない」と親から言われて焦ったり、早稲田大学か慶應義塾大学に行くために頑張っていたのに「博打はできないので絶対に受かる大学だけ受けるように」と言われて実際の学力よりもレベルの低い大学だけを受ける羽目になったりする子がいるのです。
子どものモチベーションが下がって万一全落ちでもしたら、浪人となる可能性だってあります。
浪人となったら予備校や塾代だけでも年間100万円ほどかかりますので親にとっても大きな痛手でしょう。さらには、大学受験の費用も現役時代と同じようにかかります。
受験の準備は子どもだけでなく親もするもの。それに気づき、早いタイミングから少しずつ準備を進めるのが一番です。
■「高3から本気を出す」では手遅れ
「私が現役のころは、高校3年生の夏に部活が終わってから塾に入って本格的に勉強した」そんな経験のある方は多いだろうと思います。
しかし、はっきり言ってそれでは手遅れです。
大学受験対策は明らかに早期化していて、中には高校入試の前から大学受験を意識している人、高校入学と同時に準備を始める人もいます。遅くとも、高校3年生になるタイミングでは、大学受験対策を始めてください。
大学受験対策の早期化が進んでいるのは、就職活動の早期化と相関しています。昨今は、大学に入学した時点で新入生向けの就活セミナーが開催されます。2024年には2026年・2027年卒の就職活動が行われていますし、大学1年生のときにサマーインターンに行き、3年生の初めには内定を取っているような人もゴロゴロいる状況。
4年生になっても就職活動をしている人は、ごくまれだと思ってください。「デベロッパーの内定が取れたから商社にもチャレンジしようかな」と、内定のある状態で高みを目指すパターンはそれなりに存在しますが、4年生の春から就職活動を始めるようでは、「それまでやらなかった人」「就職への意識が低い人」といったレッテルを貼られる時代です。
大学1年生から就職活動をし出すという事実は、高校生にも伝わります。その事実を知ると、高校生は就職しやすい大学に行こうと考えます。
就活しやすい大学というのは、基本的には偏差値の高い大学と同義。よって、偏差値の高い大学に入るにはどうすればいいかと、より早いタイミングで考える人が増えていて、結果的に大学受験対策の早期化が加速しているのです。
■「中学受験ブーム」の背景事情
しかし、よくよく考えると、いいところに就職するということをゴールとして学校を選ぶ発想になっているのは、なにも子どもだけではないと思うのです。
中学受験(ないし幼稚園・小学校受験)はほとんどの場合、親が考え親が決めるものですが、ほとんどの方が「いいところに就職してほしいから」と願ってのことなのではないでしょうか。
「私立中学校に通う子どもを持つ世帯の約6割は、年収1000万円以上」というニュースも出ていましたが、子どもに裕福な生活のできる大人になってほしいと思うと、年収の高いところ、つまりは上場企業に就職するのがいいと考える人が大半だろうと思います。
では上場企業がどのような人材を求めているかというと、専門性を求められる場合もありますが、基本的には優秀な人材こそほしいと考えるのが普通です。
そのレールに我が子を乗せるにはどうしたらいいか、そう考えると「本人の意志がそこまで強くないタイミングで受験させてしまうのが得策だ」「早くレールに乗せてしまえば安心」と、対策は早ければ早いほうがいいという意図で、中学受験も沸いているのでしょう。
おそらく世の中全体が、就職活動に向けた対策に早期から着手する風潮になっていて、何でも先手先手で仕掛けなければ負けてしまう時代なのだと思います。
少なくとも、今、置いていかれていると感じるのなら、少しでも早く着手し追いつき追い越そうと努めなければ、挽回は不可能でしょう。
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菅澤 孝平(すがさわ・こうへい)
シンゲキ代表取締役社長
千葉県鎌ケ谷市出身。高校時代に偏差値32を経験。担任の先生と二人三脚で受験勉強をし、明治大学に逆転合格。その時の経験をもとに、誰かの挑戦に「伴走」したいという思いから、明治大学政治経済学部在学中にオンライン塾事業を始める。2021年シンゲキを創業。著書に『3カ月で志望大学に合格できる鬼管理』(幻冬舎)がある。
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(シンゲキ代表取締役社長 菅澤 孝平)
さらに親世代が高校生の頃に受験したのは3~4校程度だったが、今は10校以上出願して勝ちにいくのが一般的な時代だ」という――。
※本稿は、菅澤孝平『親の過干渉こそ最強の大学受験対策である。』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
■受験料は親世代より30%以上値上がり
受験にかかるお金についても、以前と今では異なります。残念ながら、さらにお金がかかるようになっているのが今の大学受験。
まず、現在の受験料を確認しましょう。
○国公立大学の一般入試
共通テスト:3教科以上1万8000円 2教科以下1万2000円
2次試験:約1万7000円/校
○私立大学の一般入試
約3万5000円/校
対して、36年前(1989年)の受験料は、文部科学省の開示するデータによると、国立大学は約2万3000円/校、私立大学は約2万6600円/校とされており、いずれも30%以上上がっていることになります。
さらに、親が現役のころは受験するのは3~4校程度だったと思われますが、昨今の平均は12校です。
もちろん絞り方には個人差があり、例えば経営に進みたい子は経営に関する学部のみを受けることになりますが、少なくとも8校ほどは受けるのが通例。明治大学の経営学部に行きたいとしても、商学部と政治経済学部を併願するなど、受験科目が被っているところを中心に多数受けます。
■宿泊・交通費を含めると100万円以上飛ぶ
というのも、昔は希望する学部は全て受けなければなりませんでしたが、現在は同じ科目を対象にしているところは、一度受験するだけで希望する学部全ての判定が出る入試方式があるためです。
もちろん学部ごとに受験しなければならないところもありますので、2月の1カ月間は2日に1回は受験している状態になります。
下手な鉄砲も数打てば当たるというわけではありませんが、今は10校以上出願して勝ちにいこうというのが一般的な時代です。少子化が進んでいるため競争率が下がっていると思いがちですが、平均的な受験校数が増えたため、受験者数はほぼ横ばいで、倍率はむしろ上昇傾向にあります。
受験料は値上がりし、出願数も増えるということで、昨今は受験料だけで30万円ほど必要になります。加えて、前泊が必要な場合は宿泊費もかかりますので、交通費を含めると相当な金額を覚悟しておかなければなりません。
■合格を「キープ」するだけで10万円かかる
意外と算出しそびれやすいのが、結果的に入学しない大学への納付金。
厄介なことに、大学受験は偏差値の低い順に入試の日程が組まれているため、第1志望ではなくとも受かってキープしておきたいところは、受験日の10日後ぐらいには入学金を払わなければなりません。もちろん、入学金も国公立・私立大学ともに値上がりしていて、今では約10万円かかります。2つ押さえたいとなると、20万円支払わなければなりません。
国公立は日程の関係で前期・中期・後期それぞれ一校ずつしか受けられませんが、「国公立を第1志望にすれば無駄な入学金を払わなくて済むのでは」と思うのは大間違いです。
国公立の入試は2月末に行われるため、2月は私立大学のみの子と同じように滑り止め目的で私立大学を受験することになるのです。
国公立志望の子は、受験から解放されるのが最後となり、キープのために入学金を払うかどうか判断するシーンも必然的に増えるため、むしろ不要な負担が膨らむこともあるでしょう。
私立はマークシート、国公立は記述と対策が異なるため、国公立志望の子の中には私立を5つ程度しか受けず勉強のための時間の確保を優先する人もいます。
作戦はそれぞれあっていいと思いますが、受験校が少ないほど選択肢が少なくなるのは当然です。浪人の道しか残されない、といったリスクをはらんでいることはあらかじめ知っておかなければなりません。
■必要な費用は国公立と私立で大差なくなっている
昔は、国公立のほうが授業料が低く、「お金をかけたくない家庭向け」とか「だからこそ高い学力を求められる」といったイメージがありました。確かに今も、授業料は国公立のほうが低く、「国公立しか行かせられない」と言われる子もいることにはいます。
しかし、実は必要な費用を合算すると、国公立と私立で大差なくなっているのが現状。
さまざまな科目を勉強するのが苦手な子の場合、国公立であれば偏差値55のところしか行けないかもしれませんが、私立であれば偏差値60を狙えます。
偏差値を5上げるために80万円を出せるか、あるいは渋るかということです。もちろん家庭それぞれで状況が異なりますし、80万円も決して少ない額でないことは私も理解しています。
ここでお伝えしたいのは、大学受験の変化を知り、まずは考えてほしいということ。
ただ闇雲に「私立はダメ」と決めつけるのではなく、少し立ち止まって試算してもいいのではないでしょうか。
費用面で言うなら、国公立か私立かよりも、大学の立地のほうが重要かもしれません。一人暮らしをさせるには、家賃も生活費も必要になります。
下宿の場合も、大学の近くに住めることばかりではないため、交通費もそれなりの額を覚悟しておく必要があるでしょう。
■受験生に「絶対に言ってはいけない」一言
実家から通えるところにするか一人暮らしを選択するかは、子どもの熱意も踏まえて判断するべきでしょう。
例えば宇宙工学を学びたい場合は、国公立であれば筑波大学や東京大学、私立であれば早稲田大学の先進理工学部を目指したくなるでしょうから、必然的に立地をコントロールして費用を抑えることは難しくなります。
親が絶対にしてはいけないのは、受験校について制約があることを途中で子どもに告げること。
高校3年生の12月など、いざ出願というタイミングになって「お金がないので10校も受けられない」と親から言われて焦ったり、早稲田大学か慶應義塾大学に行くために頑張っていたのに「博打はできないので絶対に受かる大学だけ受けるように」と言われて実際の学力よりもレベルの低い大学だけを受ける羽目になったりする子がいるのです。
子どものモチベーションが下がって万一全落ちでもしたら、浪人となる可能性だってあります。
浪人となったら予備校や塾代だけでも年間100万円ほどかかりますので親にとっても大きな痛手でしょう。さらには、大学受験の費用も現役時代と同じようにかかります。
受験の準備は子どもだけでなく親もするもの。それに気づき、早いタイミングから少しずつ準備を進めるのが一番です。
■「高3から本気を出す」では手遅れ
「私が現役のころは、高校3年生の夏に部活が終わってから塾に入って本格的に勉強した」そんな経験のある方は多いだろうと思います。
しかし、はっきり言ってそれでは手遅れです。
大学受験対策は明らかに早期化していて、中には高校入試の前から大学受験を意識している人、高校入学と同時に準備を始める人もいます。遅くとも、高校3年生になるタイミングでは、大学受験対策を始めてください。
大学受験対策の早期化が進んでいるのは、就職活動の早期化と相関しています。昨今は、大学に入学した時点で新入生向けの就活セミナーが開催されます。2024年には2026年・2027年卒の就職活動が行われていますし、大学1年生のときにサマーインターンに行き、3年生の初めには内定を取っているような人もゴロゴロいる状況。
4年生になっても就職活動をしている人は、ごくまれだと思ってください。「デベロッパーの内定が取れたから商社にもチャレンジしようかな」と、内定のある状態で高みを目指すパターンはそれなりに存在しますが、4年生の春から就職活動を始めるようでは、「それまでやらなかった人」「就職への意識が低い人」といったレッテルを貼られる時代です。
大学1年生から就職活動をし出すという事実は、高校生にも伝わります。その事実を知ると、高校生は就職しやすい大学に行こうと考えます。
就活しやすい大学というのは、基本的には偏差値の高い大学と同義。よって、偏差値の高い大学に入るにはどうすればいいかと、より早いタイミングで考える人が増えていて、結果的に大学受験対策の早期化が加速しているのです。
■「中学受験ブーム」の背景事情
しかし、よくよく考えると、いいところに就職するということをゴールとして学校を選ぶ発想になっているのは、なにも子どもだけではないと思うのです。
中学受験(ないし幼稚園・小学校受験)はほとんどの場合、親が考え親が決めるものですが、ほとんどの方が「いいところに就職してほしいから」と願ってのことなのではないでしょうか。
「私立中学校に通う子どもを持つ世帯の約6割は、年収1000万円以上」というニュースも出ていましたが、子どもに裕福な生活のできる大人になってほしいと思うと、年収の高いところ、つまりは上場企業に就職するのがいいと考える人が大半だろうと思います。
では上場企業がどのような人材を求めているかというと、専門性を求められる場合もありますが、基本的には優秀な人材こそほしいと考えるのが普通です。
そのレールに我が子を乗せるにはどうしたらいいか、そう考えると「本人の意志がそこまで強くないタイミングで受験させてしまうのが得策だ」「早くレールに乗せてしまえば安心」と、対策は早ければ早いほうがいいという意図で、中学受験も沸いているのでしょう。
おそらく世の中全体が、就職活動に向けた対策に早期から着手する風潮になっていて、何でも先手先手で仕掛けなければ負けてしまう時代なのだと思います。
少なくとも、今、置いていかれていると感じるのなら、少しでも早く着手し追いつき追い越そうと努めなければ、挽回は不可能でしょう。
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菅澤 孝平(すがさわ・こうへい)
シンゲキ代表取締役社長
千葉県鎌ケ谷市出身。高校時代に偏差値32を経験。担任の先生と二人三脚で受験勉強をし、明治大学に逆転合格。その時の経験をもとに、誰かの挑戦に「伴走」したいという思いから、明治大学政治経済学部在学中にオンライン塾事業を始める。2021年シンゲキを創業。著書に『3カ月で志望大学に合格できる鬼管理』(幻冬舎)がある。
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(シンゲキ代表取締役社長 菅澤 孝平)
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