子どもの身長を伸ばしたい、大きく育ててあげたいという保護者は多い。小児科医の森戸やすみさんは「食事でしっかりカルシウムやビタミンD、タンパク質などの栄養を摂ることが大切。
背が伸びるというサプリメントは効果の裏付けはないのに、過剰症のリスクがあるので推奨できない」という――。
■年齢ごとに成長曲線をチェック
子どもを大きく育ててあげたいという親御さんは多く、健診をしていても「うちの子は小さくないですか? 身長はどうですか?」とよく尋ねられます。
まずは成長曲線で、その年齢において、お子さんが小さいのか大きいのかチェックしましょう。母子手帳にもありますが、7歳以上は日本小児内分泌学会のウェブサイトにある成長曲線に、身長と体重を書き入れてみるのがいいですね。成長曲線には幅があり、基準範囲(標準範囲)とされる下限の「-2.0SD」から上限の「+2.0SD」の間に約95%の子どもが含まれ、この内側なら標準です。「-2.0SD」より小さいと低身長ということになります。
ちなみに成長曲線は、現在も2000年版が使われています。以前、監修をした記事や本で「最新のものにしなくていいんですか?」と確認されたことがありました。じつは1990年代の大規模調査の結果、日本人の身長は時代とともに大きくなってきたものの、すでに頭打ちになったことがわかりました。そのため、日本成長学会は、成長曲線は2000年度に厚生労働省が発表したものを使うこととしているのです。
■子どもの推定身長がわかる計算式
お子さんが「-2.0SD」以下の低身長だったり、今まで標準的だったのに急に伸びが悪くなったりしたら、原因を調べる必要がありますので、小児科を受診しましょう。
身長があまり伸びない理由で、もっとも多いのは両親とも背が低い、遺伝、体質によるものです。
両親の身長から、子どもの身長を推定する計算式があります。どちらもプラスマイナス9cmが予測範囲です。子どもの最終的な身長は、70~80%がこの中に入り、20~30%は両親の身長だけでは説明できないという場合があります。
男児 (父親の身長+母親の身長+13cm)÷2

女児 (父親の身長+母親の身長-13cm)÷2
とはいえ、①成長ホルモンが少ない病気、②骨が伸びない病気、③栄養の不足や欠乏という原因も考えられます。身長が伸びる時期は限られていますから、心配なときにはなるべく早く対応したほうがいいですね。小児科を受診すると、より詳しい検査や治療が必要な際には、小児の内分泌に詳しい医師のいる専門的な医療機関を紹介してくれます。治療が必要であれば、ビタミンやカルシウムの内服、ホルモン補充療法の注射などが保険で行えます。
■どうしたら大きく育てられるのか
では、どうしたら子どもをできるだけ大きく育ててあげられるでしょうか。やはり、子どもの成長と発達には、栄養の量とバランスが何より大切です。乳児の場合、母乳や育児用ミルクを本人が欲しがるだけ与えましょう。水やスポーツドリンクなどは必要ありません。そして、生後5~6カ月以降は、母乳と育児用ミルクだけでは必要な栄養素が不足するため、必ず離乳食を始めてください。

こども家庭庁が出している「授乳・離乳の支援ガイド」では、離乳食はつぶし粥から始めると書かれていて、WHOやユニセフの「Guiding Principles for Complementary Feeding」では水っぽくなく、スプーンからすぐに落ちてしまわない程度の濃さが必要とあります。それなのに多くの育児雑誌や育児サイトなどではもっと薄い十倍粥をごく少量から始め、かなり長く続けるように書いてあるものがあります。薄すぎるお粥だとエネルギーが不足し、体重や身長が増えづらくなりますから、つぶし粥から始めてください。そして、主食であるお粥だけでなく、タンパク質や野菜も与えます。
子どもの成長には十分なエネルギーとさまざまな栄養素が必要ですから、離乳食開始後はさまざまな食品をできるだけバランスよくしっかり食べさせましょう。
■しっかりエネルギーを摂ることも重要
というのも、じつは子どもは、体重あたりの必要エネルギーが大人の約2倍です。以前、他院の小児科医から「将来子どもをモデルにしたいので、脂肪を増やさないよう食事制限をしています」と話す親御さんがいたと聞いたことがあります。が、これはとんでもないことです。ただ身長や体重が増えるだけでなく、身体機能も発達していく時期ですし、食事量が減ると栄養も不足します。何よりも十分な量を食べさせることが大切です。
なお、子どもがスポーツをしている場合、必要なエネルギーがより多くなります。例えば、特に運動をしていない中学生男子には1日2584kcalが必要ですが、部活動などで強度の高い運動をしていると、それに加えて1日300kcalは多く摂取する必要があります。
子どもの年齢や活動強度によって必要なエネルギーは変わるのです(※1)。
エネルギーだけでなく内容も大事です。筋肉と骨の需要が増えるため、タンパク質やカルシウム、ビタミンDの需要も増え、発汗で失われるミネラルも補給しなくてはいけません。ただし、こうした栄養は摂れば摂るだけ身長が高くなるわけではありません。栄養が不足しているときに充足するまで摂れば身長は伸びますが、すでに足りている子にたくさん与えても伸びません。エネルギーを摂取しすぎたら太るのは大人と同じです。
※1 日本医師会「1日に必要なカロリー 推定エネルギー必要量
■思春期の「成長スパート」を逃さない
第二次成長期である思春期には、急速に身長が伸びる「成長スパート(加速)」が訪れます。成長軟骨である「骨端線」から新しい骨が作られ、骨の長さが増すことで身長が伸びるのです。そうして思春期の後半になると徐々に骨端線が閉じ、女子では16歳前後、男子では18歳前後で閉鎖し、身長の伸びはほぼ終了します。
女子は10~12歳頃に成長のピークが来て、初潮の少し前に最大の身長増加があります。年間で6~10cm前後、思春期全体で20~25cmくらい伸びます。よく「女の子は初潮が来ると背が伸びなくなる」といわれますが、これは誤解を招く表現です。
思春期に入ると、女性ホルモンの一種・エストロゲンの分泌量が増えますが、このホルモンには骨端線を閉じる作用があります。初潮が来るのは思春期の始まりから2~2.5年後なので、ちょうど骨端線が閉じる頃。初めての月経が来てからも身長は伸びますが、成長のスパートのピークは過ぎ、身長の伸びが終わりに近づきつつあります。だから月経が成長を止めるのではなく、月経が来るのが成長期が終わるというサインです。
一方、男子は12~14歳頃、声変わりや筋肉増加と同時に成長のピークを迎えます。年間8~12cm前後、思春期全体で約25~30cm伸びます。活動量が増え、必要なエネルギーは大人より多くなるので、年齢相当のカロリーを摂って、エネルギー変換に必要なビタミンBも不足しないようにしましょう。
■タンパク質とカルシウムとビタミンD
さて、成長期には、男女とも特にタンパク質、カルシウム、ビタミンDをよりしっかり摂る必要があります(※2)。タンパク質は、肉や魚、豆などで摂りましょう。カルシウムは、牛乳などの乳製品、小魚、青菜などで摂ってください。骨密度のピークは20歳前後で、以降は減っていきます。ピーク時の骨密度が低いと骨粗鬆症のリスクが高くなりますから、成長だけでなく将来のためにも重要です。

※2 厚生労働省「第6次改定日本人の栄養所要量について
「動物性食品である牛乳は血液を酸性に変え、それを中和するために骨からカルシウムが溶出するのでよくない」という説がありますが、大間違いです。牛乳を飲むと骨粗鬆症になるという研究結果はなく、むしろ継続的に牛乳を飲んでカルシウムを摂取していると骨折を防げるという研究結果は多数あります(※3)。
牛乳に限らず食物で血液のpHが酸性になったりしませんから、骨からカルシウムは溶出しません。牛乳のカルシウムは吸収率が40%と高く、小魚や野菜よりも高いのです。骨の成長に必要なタンパク質とカルシウムが同時に摂れるので、普段の食事に牛乳を加えるのは、成長期の子どもにとってとても効率のよい栄養の摂り方です。
ビタミンDは、魚やきのこ類に多く含まれています。近年、ビタミンD不足から「低カルシウム血症」となり、低身長になったり、骨が弱くなる「くる病」になったりする子がいて、小児科では気をつけて診ています。また、ビタミンDは日光を浴びることで体内で作ることもできるので、屋外活動もおすすめです。
※3 一般社団法人Jミルク「牛乳の気になるウワサをスッキリ解決!
■適度な運動と十分な睡眠も必須
身長を伸ばすには、栄養をバランスよくしっかり摂ることのほかに、適度な運動も欠かせません。運動をすることで骨に荷重や引っ張る力がかかると、骨芽細胞が活性化されます。さらに成長ホルモンの分泌も増が増え、IGF-1(インスリン様成長因子1)を介して、やはり骨芽細胞の働きが促進されて骨が作られるのです。そして腸管でのカルシウム吸収率が高まり、骨への沈着がよくなることで強い骨が形成されます。

また、運動は筋肉に微細な損傷を与え、その損傷を修復する際に筋肉は増えます。運動によって骨と筋肉は相互に発達を支え合うため、適度な運動や荷重刺激は、第二次成長を最大化したりするので欠かすことができないのです。
また、健やかな成長には睡眠も大切。骨を伸ばしたり、タンパク質を合成したり、脂肪を分解したりする成長ホルモンは眠りはじめにたくさん分泌されるからです。小学生は9~12時間、中学・高校生は8~10時間程度の睡眠をとることが推奨されています(※4)。しかし、何時までに寝ないといけないという決まりはありません。
以前、「午後10時~午前2時までが睡眠のゴールデンタイムで、その時間に眠っていないと成長ホルモンが出ない」という説がありましたが、これは噂に過ぎず、寝るたびに成長ホルモンは分泌されます。一日の中で何度分割して眠ってもです。確かに早寝早起きをして規則正しい生活をするのは、概日リズムができてよいことですが、ゴールデンタイムに寝かせないと背が伸びないということはありません。
※4 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023
■背を伸ばす特別な器具や運動はない
さて、子どもの身長に関しては親御さんの関心が高いので、さまざまな商品が発売されています。背を伸ばすとされているストレッチ器具、背を伸ばす運動法についての本や動画などが売られています。しかし、残念ながら効果はほぼないでしょう。ただ、姿勢がよくなったり、体の柔軟性が上がってケガをしにくくなったりするという効果は期待できそうです。
「ジャンプをすると背が伸びる」という説もありますが、全身運動ならジャンプに限らず、なんでも骨に対しての刺激になります。特にランニング、球技、水泳などは、全身の筋肉を使い骨に負荷をかけるので、骨密度をあげて骨を強くします。ですから、体育や部活などでそういった運動していれば、わざわざ頑張ってジャンプをする必要はありません。
そして、運動をすればするほどよいということではないことも見逃せないポイントです。運動のしすぎでエネルギーや栄養が不足すれば成長するどころかやせてしまいますし、貧血に陥ったり、女子なら無月経になったりすることもあります。また、疲労骨折や成長軟骨障害、野球肘、テニス肘といった骨や関節の障害が出ることがあるので、注意が必要です。
■効果の保証はなくリスクはあるサプリ
また、背を伸ばすとする商品の中でも、特にサプリメントは本当に多種類が売られています。しかし、前述したようにすでに足りている栄養を摂っても身長は伸びません。日本小児内分泌学会は「カルシウム、鉄、ビタミンD、亜鉛を含んだサプリメントで成長促進するという科学的なデータはありません。一方で、これらを多量に摂れば、健康を損なう恐れがあります」といっています(※5)。やはり、普段の食事で摂ったほうがいいですね。
他にサプリメントによく使われているのが、成長ホルモンの分泌を促すとされるアルギニンです。成長ホルモンの分泌を促す負荷試験では、体重1kgあたり0.5gのアルギニンを静脈内に直接投与します。30kgの子だったら15gです。一方、サプリメントのアルギニンは1回量が0.1~5gと少なく、しかも経口摂取ですから血中濃度は高くても内服量の3分の1であり、身長を伸ばす効果があるとは考えられません。かといって大量に摂取すると、さまざまなリスクがあるため、お勧めできません。成長ホルモンを含むスプレーというものも販売されていますが、舌下ではほぼ吸収されないうえ胃液で消化されるため、効果はないでしょう。
子どもが小柄だと、大人になっても小さいままではないかとか、将来的に背が低いことで苦労するのではないかとか、心配になる気持ちはとてもよくわかります。そういう場合は小児科で相談しましょう。病気だったら治療を試すことができますし、何もなければ安心材料になります。十分な量の栄養をバランスよく摂り、適度に運動して、睡眠不足にならないようにし、規則正しい生活をするのが一番です。
※5 日本小児内分泌学会「『身長を伸ばす効果がある』と宣伝されているサプリメント等に関する学会の見解(2013年3月29日公表)

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)

小児科専門医

1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)
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