詐欺師は人の心をどのように操っているのか。犯罪ジャーナリストの多田文明さんは「旧統一教会の勧誘テクニックの一つに『知的ですね』『いいセンスしてますね』などの言葉を話す『賛美のシャワー』というものがある。
※本稿は、多田文明『人の心を操る 悪の心理テクニック』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■高齢者に自分で行動を起こさせる詐欺グループの手口
使命感を持たせ自ら行動を起こさせる×「○○しなさい」と強制する
○使命感を持たせ、「どうしますか?」と尋ねる
近年、海外を拠点にした日本人詐欺グループによる被害が深刻化しています。すでにカンボジアから詐欺の電話をかけていた「かけ子」らは日本に移送されて逮捕されており、その数は30人以上にのぼります。
このグループが行っていたのが、老人ホームの入居権詐欺です。この詐欺では、高齢者に自分で行動を起こさせる手口が使われています。
まず詐欺師は大手の住宅会社を名乗り「あなたの家の近くに老人ホームができます。あなたは優先的に入居できる権利を得られるのですが、希望されますか?」と電話をかけてきます。
しかし、一軒家に住んでいる高齢者の女性は「希望しません」と答え電話を切ります。詐欺師はすでに入手しているリストや情報から、このように断られることは想定しています。
次に詐欺師たちは、数日後に別の業者をかたり「近隣にできる老人ホームへ、優先的に入居できる権利を持っている人を探しています」という電話をかけてきます。
女性が「先日、電話がかかってきました」と答えると、業者は「本当ですか?」と驚くような声をあげながら「当社には、老人ホームに入居したい人がいるのですが、優先権がないために困っています。
これを聞いた女性は「困っている誰かの助けになるのなら」と「はい」と答えます。
さらに業者は「権利を持っている人しか、老人ホームに入居できないので、名前を貸してもらえませんか?」と畳みかけてきます。これに対して「わかりました」と答えてしまうと、詐欺師の巧みな罠にかかってしまうのです。
■「人助けをしてあげたい」という心理を悪用
その後、老人ホームの業者から「あなたの名前で申し込みがあったが、本人確認をしたら別人であることがわかりました。これは名義貸しという犯罪行為になりますので、訴えさせてもらいます」などといいがかりをつけられます。そして、偽の弁護士なども登場し、示談金などの名目で金銭を要求されて、多額のお金をだまし取られてしまうのです。
この手口では「人助けをしてあげたい」という心理を悪用し、同意の言葉を引き出しています。このように、詐欺グループは、自ら動きたくなる気持ちをつくり出し、うなずかせることが得意なのです。
同じような手口が、旧統一教会の高額献金でも行われていました。
まず、多額の貯蓄があると見込んだ信者を「家系図を取りましょう」と呼び出し、父、母、子どもだけでなく、親族すべての名前をあげさせ、鑑定士役が家系図を作成します。そして家系図を見ながら「親族をみると多くの人が病気や事故で亡くなり、悲惨な人生を歩んでいます。
さらに「その原因は、お金の恨みであり、強欲に人々からお金を奪い取った報いが因縁となっています。このままでは、もっと多くの方が亡くなります」と不幸な目にあうことを告げられ、不安になっているところに「これまでのお金は悪のために使われてきたので、これからは善のために使わなければなりません。わかりますね」と告げます。
信者はうなずき、鑑定士役は「あなたには親、子ども、親族を救う使命があります」とさらにダメを押します。
■「○○しなさい」とは直接いわない
旧統一教会の教義では、神(統一教会)のためにお金を使うことは「善」と教えられているので、この話を聞いた信者は「自分には悪因縁を解いて多くの親、兄弟、親族を幸せに導く使命がある。そのためにも、お金を捧げなければならない」と思い込むようになるのです。
そのとき、鑑定士役は「○百万円の献金をしなさい」と直接には、いいません。「どうしますか?」と尋ね、本人の口から「○○百万円献金します」といわせるのです。
もし、そのときの金額が目標額より少なかった場合には、聖書における次のような話をすることもあります。
「聖書では、お金持ちと貧しい人が献金箱にお金を投げ入れたお話があります。お金持ちは多額の献金をしました。
わからない様子で首を傾げる相手に「イエス様は『この貧しい人は、どの人よりもたくさん投げ入れた』といいました。それに対して『お金持ちは、自分の持っている有り余るなかから、お金を投げ入れましたが、この貧しい人は、持っていた生活費すべてを投げ入れた』といっています」というのです。
これを聞いた信者は自分の貯金の一部しか献金しないことを恥じて、全財産に近い金額を申し出るようになります。
巧みな話術を使う者たちは「○○しなさい」とは直接いわずに「どうしますか?」と尋ね、自ら行動を起こさせるように仕向けてきます。そのきっかけとして、人の良心や使命感をうまくコントロールし、誘導してくるのです。
POINT:人の使命感をうまくコントロールし、「どうしますか? 」と尋ねて自ら行動を起こさせる
■「賛美のシャワー」という旧統一教会の勧誘テクニック
賛美の言葉で相手の気持ちを高揚させる×
「この化粧品はいかがですか?」
○
「とてもお似合いです」
「若返りますね!」
近年話題となった旧統一教会では、1990年代に膨大な数の信者を勧誘しました。それを可能にした勧誘テクニックの一つに「賛美のシャワー」というものがありました。
私が信者時代に持っていた、勧誘マニュアルの「賛美」の項目には「心が優しい方なんですね」「人から好かれるような感じですね」「輝いていますね」「なにかいいことあったんですか?」「スポーツマンタイプですね」「目がきれいですね」「知的ですね」「いいセンスしてますね」などの言葉を話すように推奨されていました。
相手を褒める手口で気分をよくさせながら、警戒心を解き、悩みなどの情報を引き出していくのです。このようにして多くの人たちが勧誘されていきました。
また、あるテレビ番組で、「褒め上げ商法」という高齢者の絵や詩などを褒め、展示会に出品する名目で高額な契約をさせる悪質な商法を行った業者が行政処分を受けたニュースを取り上げました。
そのとき、専門家として出演していた私は、コメンテーターから「褒めてなにが悪いのか?」と質問をされたことがあります。司会者からも「私も化粧品のお店に行って、店員から褒められて商品を買ってしまうことがあります。これは悪いことだと思いませんが、どうなのでしょうか?」と尋ねられました。
とても重要な指摘です。たしかにちゃんとしたお店で褒められて化粧品を買うことと、絵を褒められて契約することは、一見同じようにみえます。
■相手の気持ちが高ぶって断れない状況まで誘導する
問題の褒め上げ商法は、褒めること自体に問題があるわけではありません。大事な違いは、「目的を告げているどうか」なのです。
この商法では、突然、高齢者に電話をかけてきて「素晴らしい作品ですね」などと褒めてきます。そして相手の心が高ぶったところで「展示会に出品してみませんか?」と誘い、高額な契約をすすめてきます。最初に電話をかけてきた際に、契約させるという目的を話しておらず、相手の気持ちが高ぶって断れない状況まで誘導し、高額な契約をさせるのが問題なのです。
それに対して、化粧品店であれば、商品を購入するという目的が明確ななかで、褒められて商品購入を決定しているのです。
普段の生活のなかでは、人から面と向かって褒められることは少ないものです。
POINT:相手を褒めて気持ちを高揚させ、警戒のガードを下げさせて誘導する
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多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
詐欺・悪質商法に詳しい犯罪ジャーナリスト、キャッチセールス評論家。1965年北海道生まれ、仙台市出身。日本大学法学部卒業。雑誌「ダ・カーポ」にて『誘われてフラフラ』の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。キャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。悪質商法や詐欺などの犯罪にも精通する。著書に『ワルに学ぶ黒すぎる交渉術』(プレジデント社)、『信じる者は、ダマされる。元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)などがある。
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(ルポライター 多田 文明)
人はこうした言葉を受けて悪い気はしないので、気持ちが高揚し、警戒のガードが下がってしまい、簡単に誘導されやすくなる」という――。
※本稿は、多田文明『人の心を操る 悪の心理テクニック』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■高齢者に自分で行動を起こさせる詐欺グループの手口
使命感を持たせ自ら行動を起こさせる×「○○しなさい」と強制する
○使命感を持たせ、「どうしますか?」と尋ねる
近年、海外を拠点にした日本人詐欺グループによる被害が深刻化しています。すでにカンボジアから詐欺の電話をかけていた「かけ子」らは日本に移送されて逮捕されており、その数は30人以上にのぼります。
このグループが行っていたのが、老人ホームの入居権詐欺です。この詐欺では、高齢者に自分で行動を起こさせる手口が使われています。
まず詐欺師は大手の住宅会社を名乗り「あなたの家の近くに老人ホームができます。あなたは優先的に入居できる権利を得られるのですが、希望されますか?」と電話をかけてきます。
しかし、一軒家に住んでいる高齢者の女性は「希望しません」と答え電話を切ります。詐欺師はすでに入手しているリストや情報から、このように断られることは想定しています。
次に詐欺師たちは、数日後に別の業者をかたり「近隣にできる老人ホームへ、優先的に入居できる権利を持っている人を探しています」という電話をかけてきます。
女性が「先日、電話がかかってきました」と答えると、業者は「本当ですか?」と驚くような声をあげながら「当社には、老人ホームに入居したい人がいるのですが、優先権がないために困っています。
ぜひ、権利を譲ってただけませんか?」と尋ねてきます。
これを聞いた女性は「困っている誰かの助けになるのなら」と「はい」と答えます。
さらに業者は「権利を持っている人しか、老人ホームに入居できないので、名前を貸してもらえませんか?」と畳みかけてきます。これに対して「わかりました」と答えてしまうと、詐欺師の巧みな罠にかかってしまうのです。
■「人助けをしてあげたい」という心理を悪用
その後、老人ホームの業者から「あなたの名前で申し込みがあったが、本人確認をしたら別人であることがわかりました。これは名義貸しという犯罪行為になりますので、訴えさせてもらいます」などといいがかりをつけられます。そして、偽の弁護士なども登場し、示談金などの名目で金銭を要求されて、多額のお金をだまし取られてしまうのです。
この手口では「人助けをしてあげたい」という心理を悪用し、同意の言葉を引き出しています。このように、詐欺グループは、自ら動きたくなる気持ちをつくり出し、うなずかせることが得意なのです。
同じような手口が、旧統一教会の高額献金でも行われていました。
まず、多額の貯蓄があると見込んだ信者を「家系図を取りましょう」と呼び出し、父、母、子どもだけでなく、親族すべての名前をあげさせ、鑑定士役が家系図を作成します。そして家系図を見ながら「親族をみると多くの人が病気や事故で亡くなり、悲惨な人生を歩んでいます。
相当深い先祖の悪因縁があってこうなっています」と深刻な様子で話します。
さらに「その原因は、お金の恨みであり、強欲に人々からお金を奪い取った報いが因縁となっています。このままでは、もっと多くの方が亡くなります」と不幸な目にあうことを告げられ、不安になっているところに「これまでのお金は悪のために使われてきたので、これからは善のために使わなければなりません。わかりますね」と告げます。
信者はうなずき、鑑定士役は「あなたには親、子ども、親族を救う使命があります」とさらにダメを押します。
■「○○しなさい」とは直接いわない
旧統一教会の教義では、神(統一教会)のためにお金を使うことは「善」と教えられているので、この話を聞いた信者は「自分には悪因縁を解いて多くの親、兄弟、親族を幸せに導く使命がある。そのためにも、お金を捧げなければならない」と思い込むようになるのです。
そのとき、鑑定士役は「○百万円の献金をしなさい」と直接には、いいません。「どうしますか?」と尋ね、本人の口から「○○百万円献金します」といわせるのです。
もし、そのときの金額が目標額より少なかった場合には、聖書における次のような話をすることもあります。
「聖書では、お金持ちと貧しい人が献金箱にお金を投げ入れたお話があります。お金持ちは多額の献金をしました。
しかし、貧しい人は銅貨2枚しか献金しませんでした。しかし、これを見ていたイエス様はなんといったと思いますか?」
わからない様子で首を傾げる相手に「イエス様は『この貧しい人は、どの人よりもたくさん投げ入れた』といいました。それに対して『お金持ちは、自分の持っている有り余るなかから、お金を投げ入れましたが、この貧しい人は、持っていた生活費すべてを投げ入れた』といっています」というのです。
これを聞いた信者は自分の貯金の一部しか献金しないことを恥じて、全財産に近い金額を申し出るようになります。
巧みな話術を使う者たちは「○○しなさい」とは直接いわずに「どうしますか?」と尋ね、自ら行動を起こさせるように仕向けてきます。そのきっかけとして、人の良心や使命感をうまくコントロールし、誘導してくるのです。
POINT:人の使命感をうまくコントロールし、「どうしますか? 」と尋ねて自ら行動を起こさせる
■「賛美のシャワー」という旧統一教会の勧誘テクニック
賛美の言葉で相手の気持ちを高揚させる×
「この化粧品はいかがですか?」
○
「とてもお似合いです」
「若返りますね!」
近年話題となった旧統一教会では、1990年代に膨大な数の信者を勧誘しました。それを可能にした勧誘テクニックの一つに「賛美のシャワー」というものがありました。
私が信者時代に持っていた、勧誘マニュアルの「賛美」の項目には「心が優しい方なんですね」「人から好かれるような感じですね」「輝いていますね」「なにかいいことあったんですか?」「スポーツマンタイプですね」「目がきれいですね」「知的ですね」「いいセンスしてますね」などの言葉を話すように推奨されていました。
相手を褒める手口で気分をよくさせながら、警戒心を解き、悩みなどの情報を引き出していくのです。このようにして多くの人たちが勧誘されていきました。
また、あるテレビ番組で、「褒め上げ商法」という高齢者の絵や詩などを褒め、展示会に出品する名目で高額な契約をさせる悪質な商法を行った業者が行政処分を受けたニュースを取り上げました。
そのとき、専門家として出演していた私は、コメンテーターから「褒めてなにが悪いのか?」と質問をされたことがあります。司会者からも「私も化粧品のお店に行って、店員から褒められて商品を買ってしまうことがあります。これは悪いことだと思いませんが、どうなのでしょうか?」と尋ねられました。
とても重要な指摘です。たしかにちゃんとしたお店で褒められて化粧品を買うことと、絵を褒められて契約することは、一見同じようにみえます。
■相手の気持ちが高ぶって断れない状況まで誘導する
問題の褒め上げ商法は、褒めること自体に問題があるわけではありません。大事な違いは、「目的を告げているどうか」なのです。
この商法では、突然、高齢者に電話をかけてきて「素晴らしい作品ですね」などと褒めてきます。そして相手の心が高ぶったところで「展示会に出品してみませんか?」と誘い、高額な契約をすすめてきます。最初に電話をかけてきた際に、契約させるという目的を話しておらず、相手の気持ちが高ぶって断れない状況まで誘導し、高額な契約をさせるのが問題なのです。
それに対して、化粧品店であれば、商品を購入するという目的が明確ななかで、褒められて商品購入を決定しているのです。
普段の生活のなかでは、人から面と向かって褒められることは少ないものです。
そこをついて、悪質業者は「素敵だ」「素晴らしい」という褒め言葉を投げかけてきます。人はこうした言葉を受けて悪い気はしないので、気持ちが高揚し、警戒のガードが下がってしまい、簡単に誘導されやすくなるのです。
POINT:相手を褒めて気持ちを高揚させ、警戒のガードを下げさせて誘導する
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多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
詐欺・悪質商法に詳しい犯罪ジャーナリスト、キャッチセールス評論家。1965年北海道生まれ、仙台市出身。日本大学法学部卒業。雑誌「ダ・カーポ」にて『誘われてフラフラ』の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。キャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。悪質商法や詐欺などの犯罪にも精通する。著書に『ワルに学ぶ黒すぎる交渉術』(プレジデント社)、『信じる者は、ダマされる。元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)などがある。
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(ルポライター 多田 文明)
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