説明上手な人は、どのような順番で伝えているか。スピーチコンサルタントの阿部恵さんは「コミュニケーションミスを防ぐ話の型に、『ホールパート法』がある。
これはまず相手に話の『全体像』を示してその後で話を構成する『部分(詳細)』を説明し、最後にもう一度話しを締めくくる方法だ」という――。
※本稿は、阿部恵『きちんと伝わる説明の「型」と「コツ」』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■相手に目印を示し、全体的な見通しを与える
説明上手は「大通り」から伝え、

説明下手は「小道」をくまなく伝える
つい先日、外国人観光客から道を尋ねられたことをきっかけに、説明上手と説明下手の決定的な違いに気づく出来事がありました。
道を尋ねられたのは新橋駅近く。最初は、
「1つめの信号を左に曲がって、レンガ色のビルが見えたら右に曲がってね。そこから50m進むと小さな公園があるから、そこをさらに右に折れて……」
と、自分がいる地点からの小道情報を拙い英語で丁寧に説明していたのですが、先方は明らかに「?」というお顔。
そこでとっさに、「この大通りの向こうにある高いビルは見えますか? そのビルの右隣です」と言ってみたら、これが通じたのです。
実際には、高層ビルまでは一本道ではなく、あちこちと曲がらないといけないのですが、それでも高層ビルが見えている限り、進むべき方向を見失うことはないはず。このとき「説明は小道からではなく、大通りから伝えることが大事なのだ」と気づいたというわけです。
この場合、大通りの向こうに見える高層ビルを確認してもらったことでそれが目印となり、進んでもらう方向を示すことができました。
さらに「ここから10分で到着します」と、到着までの目安も示してあげれば、相手はもっと安心したでしょう。
このように説明上手は、相手に目印を示し、全体的な見通しを立てられるように伝えます。
一方、説明下手は、小道をくまなく伝えようとして、理解を困難にします。
■この加湿器は“人気ランキング第1位”と言えるか
これは、道順の説明に限ったことではありません。
例えば、あなたが電気メーカーにお勤めで、加湿器の商品説明をするとしましょう。
説明上手は「上から簡単給水、UV除菌もできるので、人気ランキング第1位に選ばれた加湿器です」と伝えます。お客様が知りたい重要な情報をまず伝えるのです。
これに対して、説明下手は「この加湿器は、水を含ませたフィルターを使用し、内蔵ファンで風を送ることで加湿します。また、UV除菌機能はありますが、細菌の発生を防ぐためにはこまめな手入れが必要です。お掃除の際には……」と、加湿器の細かい特徴やお手入れ情報まで触れ始めました。
もちろんこうした情報が間違っているわけではありませんが、最初に伝える情報としてはやや細かすぎます。
おかげで、“人気ランキング第1位”という聞き手にとってインパクトのある情報が抜け落ちてしまいました。これでは、商品本来の魅力は伝わりません。
説明上手は「大通り」、つまり重要な情報や相手にとって必要な目印となるところから説明し、その後で詳細情報を伝えます。
一方、説明下手は「小道」、つまり細かい情報を次々と伝えようとするために、相手が全体像を把握できません。
ジグソーパズルも、最初に完成図を見るからバラバラなピースの配置が頭に描けます。説明も、まず大通りを示すことで細かい話が整理されて頭に入っていくのです。
■頭に浮かんだことのすべてを言葉にしない
説明上手は質問の「回答」から伝え、

説明下手は「理由、背景、言い訳」から始める
質問をしたのに、なんだかズレた回答や説明ばかりで、ちゃんと回答してもらえない……というのは、家庭でもビジネスでもよくあることです。
あなたも、質問に対して相手が「答えてくれない」「言い訳がましい」と感じたことがあるのではないでしょうか? 例えば、次のようなシーンです。
上司:「佐藤くん、このプロジェクト、今どこまで進んでいる?」

部下:「課長、実は最初の段階で少し問題があったんです。クライアントの要望が頻繁に変わったので、スケジュールの見直しが必要になりまして……」
部下の佐藤くんは、上司の質問に対してすぐに回答をせず、今、起きている状況説明と言い訳から始めてしまいました。ひょっとしたら上司から「怒られるかも?」と不安になったのかもしれません。
このように質問に対して適切な回答がないと、相手はストレスを感じるものです。「ごまかそうとしている」「はぐらかされた」と感じる人もいるかもしれません。
私は、トレーニングの際によく「クエスチョン(質問)には、まずアンサー(答え)を!」と、繰り返し伝えます。「そんなの当たり前でしょ」と思われるかもしれませんが、答えを直球で返さず、まわりくどい説明をしている方が意外と多いのです。

理由は、頭に浮かんだことのすべてを言葉にしようとするから。
右の佐藤くんのケースでは、上司から「プロジェクトの進み具合」について尋ねられたにもかかわらず、「クライアントとのやりとり」をそのまま説明しています。
これは残念ながら、質問者の意図とはズレています。自分では丁寧に説明しているつもりでも、聞いた人にとっては要領を得ない回答だと思われても仕方ありません。
■結論にプラスする言葉の種類
では、どうやって答えたらよいのでしょうか?
説明上手は、質問にはまず回答(=結論)を伝え、その上でひと言付け加えます。
ひと言とは、「なぜならば~(理由や状況説明)」「自分の所感」などです。
先ほどの佐藤くんのケースでしたら、次のような回答でいかがでしょうか?
上司:「佐藤くん、このプロジェクト、今どこまで進んでいる?」

部下:「はい、現在の進捗率は約30%です。度重なるクライアントの要望変更により、スケジュールの見直しが必要になっています」
質問に対して「現在の進捗率」をまず答え、それに加えて「スケジュールの見直しが必要」と自分の意見を述べています。
これなら上司は、質問の答えが聞けて満足できますし、次に起きている問題についても、冷静に向き合うことができます。
スケジュールの遅れは心配材料かもしれませんが、上司はそれよりも、担当者が状況を把握し、どう対応策を講じているかを知りたいもの。進捗率30%と数字で捉えていることや、遅延の理由が明確である、という2点が安心材料につながるのです。
■相手に「キョトン」とされないホールパート法
説明上手はホールパート法で「全体像」を示すが、

説明下手は「背景情報」から入る
自分から話し始めたはいいが、相手に「キョトン」とされてしまった。
「しまった、何の話か伝えていなかった!」。これは、どんな人でも起こり得ることです。
こうしたコミュニケーションミスを招かないよう、最初に「話の全体像」を伝える話の型「ホールパート法」をご紹介しましょう。流れとしては、次の通りです。
1.Whole(ホール):全体像

2.Part(パート):部分(詳細)

3.Whole(ホール):全体像
ホールパート法では、まず相手に話の「全体像」を示します。その後で、話を構成する「部分(詳細)」を説明し、最後にもう一度話の「全体像」を示し、何を説明したいかを相手に明確に伝え、締めくくる方法です。ホールパート法は複数の対象をわかりやすくまとめることを得意とし、話の途中で脱線しても全体像を最初に示しているので、聞き手を迷子にしません。
一方、説明下手は「背景情報」から話し始めます。
営業部長「先月の売り上げですが、昨年の同時期と比較すると、経済状況が大きく変化しています。円安の影響や原材料費の上昇など、さまざまな要因が影響しています。また、競合他社の新製品の発売もあり、市場環境は厳しさを増しています。そういった中で、我々の主力商品Aの販売数は……」
営業部長は冒頭で「先月の売り上げですが」と話し始めたのに、結論を言わずに、背景情報から話し始めてしまいました。
これでは聞き手は「売り上げはどうなったわけ?」「結局何が言いたいの?」とイライラしてきます。
これを、先ほどのホールパート法に当てはめてみましょう。
営業部長「先月の売り上げについて報告します。結論から申し上げますと、前年の同じ月と比べて10%増の5億円を達成しました。この結果には3つの要因があります。
1.新製品Xの好調な販売、2.既存顧客向けキャンペーンの成功、3.オンライン販売チャネルの拡大 です。それでは、各要因について詳しく説明します。
まず、新製品Xについては……(詳細説明)。次に、既存顧客向けキャンペーンでは……(詳細説明)。最後に、オンラインによる販売経路拡大により……(詳細説明)。
以上が、先月の売り上げが前年同月比10%増の5億円を達成した3つの要因です」

最初に「結論」を示したことで、部下は「5億円達成」を知ることができました。その上で、売り上げ増の要因が示されたので、詳細についても理解できましたね。

最後にもう一度まとめを示したことで、「部長は何を伝えたかったのか」が明確に伝わったようです。やはり冒頭で「話の全体像」を示すことが大切なのです。

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阿部 恵(あべ・めぐみ)

スピーチコンサルタント

元TBS系列中部日本放送アナウンサー、元国会議員政策担当秘書。神奈川県川崎市出身。中部日本放送(CBC)にアナウンサーとして入社。CBC「サンデードラゴンズ」キャスター、TBS「おはようクジラ」中継キャスター等を歴任。TBS系列28局の中で最も優れたアナウンサーに与えられる「アノンシスト賞・最優秀賞」ほか、数々の賞を受賞。その後、フリーアナウンサーとして活動したのち、出産を経て、キャリアチェンジ。国会議員政策担当秘書資格を取得し、政財界のトップリーダー、官僚らとやりとりしながら政策立案、国会質問原稿作成、選挙戦略策定等に従事。有権者にきちんと伝わる説明や話し方指導を行う。政治家や元総理夫人、上場企業の社長・役員、弁護士等のトップリーダーから企業研修まで、これまで6000人以上にスピーチ指導を実施。

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(スピーチコンサルタント 阿部 恵)
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