厚生労働省は9月16日、2024年人口動態統計の確定数を公表した。独身研究家の荒川和久さんは「今回の調査では、年齢別出生数において40代前半の出生数が20代前半を初めて逆転した。
これは簡単に『晩産化』と片づけていい話ではない」という――。
■年齢別出生数が「20代前半<40代前半」に
今月、人口動態調査の2024年確定報が公表されました。
2024年の出生数は68万6173人(前年比5.7%減)で、これは既に公開されていた概数値の68万6061人とほぼ一緒で、つまり、それは1899年(明治32年)以降で過去最少記録であることも変わりません。
2024年のトピックとしては、年齢別出生数において、40代前半(40~44歳)の出生数が20代前半(20~24歳)のそれを初めて逆転したという事実があります。確定の数字で言えば、20代前半出生数4万2757人に対し、40代前半が4万3471人で、わずかながら20代前半<40代前半となりました。
とはいえ、これを簡単に晩産化などと片づけていい話ではなく、実は、ここにこそ日本の少子化の因果が表れています。
まず、誤解のないように、40代前半の出生数が20代前半を上回ったからといって、決して40代前半の出生数が増加したわけではありません。出生数は49歳までのすべての年代で前年割れです。40代前半が増えたのではなく、20代前半が激減したがゆえの逆転です。
また、出生率でみると、20~24歳0.0764に対し、40~44歳0.0608であり、20代前半のほうが実は出生率は高い。なぜ、そうなるかというと、それは、そもそも母数人口が40代前半のほうが多いからです。40代前半が生まれたのは1980年代、当時はまだ年間の出生数が150万人以上だったのですから当然です。

■「20代出生率の低下」という大問題
そもそも、日本に限らず、世界の各国で出生率が低下している原因はほぼ20代出生率の低下にあるといっても過言ではありません。韓国の出生率が世界最下位なのは、ほぼ20代の出生率が壊滅的であることによります。韓国ほど極端ではありませんが、日本でも20代出生率の低下が著しい。
直近でもっとも出生率が高かったのは2015年(1.45)ですが、それと2024年(1.15)とを比較すると、全体のマイナスは0.3ですが、その66%を占める0.2分は20代の出生率のマイナスです。いかに20代出生率の低下が全体の決定要因となっているかがわかるでしょう。
20代までの出生のうちの6割以上は第一子出生です。そして、第一子が産まれるほとんどの前提は婚姻によります。つまり、20代の出生率が激減とは、すなわち20代の婚姻が激減したことで20代での第一子出生が激減したことを意味します。
最新の人口動態調査結果から、出生順位別の出生率の推移を、2000年を起点として2024年まで第一子、第二子、第三子以上の何がマイナス要因となっているかをまとめたものが以下のグラフです(図表1)。
ここで明らかなように、マイナス要因として最大なのは、第一子の出生率の低下であることです。全体の出生率を押し下げるトリガーとなっているのは常に第一子出生率で、反対に押し上げた場合も第一子出生率がそれほど減少していないか増加している場合です。近年全体が低下したのも、第一子出生率が大幅に減少したことによります。
これは至極当たり前の話で、第一子が産まれない限り、第二子も第三子もないからです。
■少子化ではなく「少母化」
一人以上産んだ母親が出生する子どもの数は減ってはいません。第一子を生んだ母親のうち約8割近くが第二子を産みます。これは1995年頃から全く変わっていません。さらに、第二子を産んだ母親が第三子以上を産む割合も大体3割で、これも長期的に不変です。
つまり、一人の母親が生む子どもの総数が減っているのではなく、そもそも結婚して第一子を生む数が減っているからこその出生減であり、私が「少子化ではなく少母化」と繰り返しお伝えしているのはそのことです。
すでに子のいる夫婦に第二子、第三子を産んでもらえば少子化解決などという識者がいますが、間違いであることはこれでおわかりでしょう。肝心なのは第一子であり、少子化とは「第一子が産まれない問題」に尽きるのであり、第一子出生がない限り出生率は永遠に下がり続けることになります。
しかも、この「第一子が産まれない」問題を年齢別統計と組み合わせると、30代以上での第一子は増えているのに、それを全て帳消しにしてしまうほど20代での第一子出生が減っていることがわかります。
結論として、年齢別と出生順位別の出生推移からわかることは、「出生減は、20代での第一子が産まれないことに尽きる」と言えます。加えて、統計的事実からは、35歳以上の出生率が極端にあがっていないことも事実で、決してイメージで語られているような晩産化などは起きていません。晩産化で後ろ倒しになったのではなく、20代までに減った分はそのまま全体のマイナスになってしまうということです。

■結婚したくてもできない20代
では、20代での出生率が減っているのはなぜなのか。
それは、前述した通り、20代までの初婚数が減っているからです。2000年~2024年比較で言えば、20代までの初婚数は男女ともに約69%も減少しています。全年齢の初婚再婚含めた全婚姻数が同期間約40%減であることと比較すると、いかに20代までの初婚が激減しているかがわかります。
こう言うと、すぐ、「若者の価値観が変わったから結婚が減ったのだ」「若者の恋愛離れが原因だ」などと、すぐ若者の問題にすり替えようとする論者が出てきますが、まったくの的外れです。
若者の結婚に対する前向き意識は、出生動向基本調査によれば、少なくとも1990年代から30年以上大体5割でほぼ不変ですし、恋愛している若者の割合も40年前から3割で変わっていません。「高校生のデート経験なしが4割」などが話題になったことがありましたが、それとて40年前の高校生もそんなものでした。
加えて、令和の若者は20代のうちに結婚したがっていないわけでもありません。こども家庭庁が実施した2024年「若者のライフデザインや出会いに関する意識調査」によれば、15~24歳未婚男女の理想の結婚年齢中央値は男性28.4歳、女性27.7歳です。若者の半分以上が20代までの結婚を理想としているのに、20代の初婚が激減していることのほうが深刻です。
■不自由だったが「安心」はあった昭和
問題は「若者の価値観の変化」ではなく「若者を取り巻く環境の変化」のほうです。
結婚意欲も恋愛割合も令和と大差ない昭和は皆婚できていて、令和の若者が結婚できなくなっているのはなぜなのかという視点が必要でしょう。

ひとつには、経済環境の違いがあります。「失われた30年」と言われた期間において、就職氷河期やリーマンショックなどの不況もあり、長らく給料デフレが続きました。額面給料が増えていないのに、税・社保料は謎に増え続け、途中2度の消費税増税もあり、若者だけではないですが、「使えるお金が減った」ということもあります。直近、賃上げしたなどと政府はドヤ顔をしますが、同時に起きた物価高のほうが上回っており、実質賃金は追いついていません。
そうした経済環境が、結婚や出産は一部の上位層だけしかできない「ハイブランド化」し、中間層の若者は手出しできなくなっています。事実、中央値の年収では若者はもはや結婚できなくなっています(詳しくは〈地方の中小企業勤務の男性では結婚できない…この10年間で起きた「結婚可能年収のインフレ」という大問題〉参照)。
経済環境だけではなく、かつて若者を支えてきた社会の力も失われました。
是非はともかく、職場結婚など結婚に対する社会的なお膳立ては消滅し、職場に存在していた家族的紐帯もなくなりました。
確かに、昭和の社会は不自由な縛りもありましたが、そのかわり安心がありました。
今はどうでしょう。自由にしていいよ、という寛容なフリをしていますが、その実は自己責任で何とかしろという突き放しにも見えます。そして、本当に自由かといえば決してそうでもなく、昭和にはなかった「○○をしてはいけない」という新たな不自由が押し付けられてもいます。

■機械的な「子育て支援」では何も改善しない
たとえば、職場で毎日のように顔をあわせて、共同作業をしている男女がいれば、それはお互いに親愛感情が芽生えるのは普通のことですが、職場では恋愛どころか、同僚を食事に誘うことすらセクハラ扱いされるリスクがあります。それでは何も行動できないし、何も行動しないほうがいいとなります。当然、周囲もお節介することもリスクなのでしません。
「何かと不自由だったが安心はあった昭和」と比べて、「安心もなければ自由もない令和」の若者の環境は厳しいものです。
出生数が減り続けているのは、子育て支援が充実していないからではありません。夫婦が生む子どもの数の問題ではなく、そもそもその前提である初婚が作られないことこそが少子化の元です。
だからといって、婚活支援やマッチングアプリを導入すればいいという話でも決してありません。むしろマッチングアプリなどのツールを使って恩恵があるのは、それがなくてもどうにでもなる恋愛強者だけであり、何一つ婚姻増には寄与しないでしょう。
「子どもが減ったから子育て支援だ」「結婚が減ったから婚活支援だ」などという、何か血の通わない機械的思考ではなく。令和の中間層の若者が置かれた経済的不安や社会的リスクという環境を理解し、彼らを「何も行動できない檻」から解放してあげる「安心とは何か?」を考え、寄り添う気持ちが必要でしょう。

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荒川 和久(あらかわ・かずひさ)

コラムニスト・独身研究家

ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。
著書に『「居場所がない」人たち 超ソロ社会における幸福のコミュニティ論』(小学館新書)、『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』(ぱる出版)、『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)、『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(中野信子共著・ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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