個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)の制度変更が2026年1月に迫る。FPの浦上登さんは「iDeCoは60歳にならないと引き出せないが、NISAにはない大きなメリットがあり、自営業者だけでなく、会社員にとっても検討する価値がある」という――。

■2026年、27年の改正は「iDeCo改悪」なのか
iDeCoは2027年1月1日から加入(可能)年齢が70歳に引き上げられ、各被保険者の積み立て可能額も増額される。
これは契約者にはうれしい改正だが、一方、2026年1月1日から受け取り額への退職所得控除の適用方法が5年ルールから10年ルールに変更される。既に加入済みの人も、今後は否応なしに10年ルールとなるのだ。
この変更によって受け取り額に課税をされる可能性が高くなるので、受け取り時期のマネージがむずかしくなる。iDeCoの運用は、どのように行うべきかについて解説したい。
NISAは加入・積立・引出に年齢制限がないため、自由な資金計画と運用ができる。住宅資金、教育資金、レジャー資金など一般資金を増やすことに適している。
■iDeCoはあくまで老後資金を貯めるための制度
一方、iDeCoは個人年金との位置づけのため、60歳まで引き出しができない。公的年金の補完として老後資金を増やすことに向いている。運用のポイントは、運用益の非課税に加え、掛金非課税の税の還付を狙うこと、それに加え、受け取りの際に税金をなるべく取られないように出口戦略をマネージすることだ。
会社員の人のNISAとiDeCoの使い分けについていえば、20代などの若いころは、住宅資金や子供の教育資金を目指してNISAを優先する。収入が増えてくる40代以降はNISAとiDeCoの両方を積み立て、一般資金と老後資金の両方をためるというのが理想的だ。

収入の多い人がiDeCoに加入すると、次に述べる掛金支払い時の節税効果も大きくなる。
■掛金節税効果というiDeCoならではのメリット
忘れてはならないiDeCoのメリットは掛金支払い時の節税効果だ。
「掛金支払い時」の税制に注目してほしい。
NISAでは課税となり、iDeCoでは非課税となっている。
NISAで積立をした場合、自分の所持金から掛金を出すだけだが、iDeCoの場合は、掛金全額が所得控除の対象になり、税金の還付が受けられるところが違う。
NISA、iDeCoとも、それぞれの運用益に対し税金がかからないので、節税商品と言われている(銀行預金、株式、投資信託などは運用益に20.315%の税金がかかる。)が、iDeCoはそれに加えて掛金支払い時に税額還付が受けられるので、あとから述べる受け取り時のマネージさえうまくやれば最強の節税商品になる。
掛金全額非課税がどのくらいメリットがあるかは次の通りだ。
月4万円=年48万円をNISAまたはiDeCoに40年間投資した場合、積立総額は1920万円になる。ところがNISAの受け取り総額は3713万円で積立総額の1.93倍に対し、iDeCoの受け取り総額(還付された所得税を含む)は4102万円で積立総額の2.14倍である。その差の384万円は掛金節税効果によるものだ。
■1年で約10万円の税金が返ってくる
掛金節税効果はつぎのように計算される。

積立年額:48万円×(所得税率10%+住民税率10%)=年当たり税還付額9.6万円

年当たり税還付額9.6万円×40年=40年間の税還付額384万円
すなわち、iDeCoに投資すると、掛金にかかる税金が還付され、40年間で384万円になる。
しかも、これは、生涯平均年収500万円から700万円の人の場合で、平均年収が700万円から1100万円の人の場合は、所得税率が高いので、積立年額:48万円×(所得税率20%+住民税率10%)×40年=40年間の税還付額576万円に増える(税収と還付税額の関係は概算による目安)。
■積立を長期にわたって続けるためには?
会社員であれ、個人事業主であれ、積立金額を確保するのが苦しくなって、積立を減額したり、iDeCoをやめてしまおうと思うときがあるかもしれない。それを乗り越えるためには、掛金の節税効果で得た金額を生活費に回さず、iDeCoの掛金として再投資することを考えるといい。
これにより、iDeCoの掛金を補填することができ、場合によっては、増やすこともできる。
現状でも60歳まではリターンを受け取れないiDeCoだが、掛金節税効果は60歳以前に受け取れる例外的なリターンだ。それを再投資に回せば、資金計画はさらに強固になる。
いずれにしても、iDeCoのメリットは掛金の節税効果であることがご理解いただけたと思う。
■iDeCo改正で最も恩恵を受けるのは誰か?
このようなiDeCoの改正のメリットを最大限に受ける人は個人事業主だ。その理由は以下の通り。
1.積立金額の上限が大きくなる(年額最大90万円)ので掛金節税効果を最大化できる

2.個人事業主は退職金がないか、あっても、受け取り時期を自分でコントロールできるので10年ルールを逃れることができる。
また、個人事業主とともにオーナー経営者も自分で退職金の受け取り時期を決められるので、iDeCoのメリットを最大化することができる。

■会社員にとってのiDeCoの活用方法
それでは、会社員でありながら、iDeCoのメリットを最大化することはできるだろうか?
それを検討する前に、10年ルールについて考えてみよう。
iDeCo受け取り時の10年ルールとは?
ここで、iDeCoがNISAに比べ不利な点である受け取り時の税制について説明しよう。
iDeCoの受け取り金は課税されるが、優遇税制である公的年金等控除または退職所得控除が適量される。
iDeCoのメリットを最大化するには、受け取り時の税金支払いをゼロまたは最小化すればよい。
iDeCoの受け取り額を一時金でもらった場合で説明しよう。
2026年以降の「10年ルール」における変更点
1)退職所得控除適用の受け取り間隔の要件が5年から10年に延長された

2026年1月1日以後、iDeCo一時金受け取り後に、会社退職金(一時金)を受け取る場合、10年の間隔を空ければ、それぞれの一時金に満額の退職所得控除が適用される。
2)逆に、「受け取りタイミングを10年以上ずらさず」60歳でiDeCo、65歳で退職金、といった従来型の「5年ずらし戦略」を取ると、退職所得控除が制限され、税負担が増えるケースが出てくる。
■大卒22歳で就職、運用38~48年で試算した
これについて、iDeCo一時金、会社退職金(一時金)の間隔を①5年とした場合と、②10年超とした場合で税負担の違いを比べてみよう。
比較の前提
積立開始:22歳

iDeCo受け取り:60歳時点、一時金で2000万円

退職金受け取り:ケース①65歳、ケース②70歳、一時金で2000万円

勤続年数:22歳から65歳(退職年齢)まで(iDeCoの場合は会社勤続年数ではなく、通算加入年数を基礎に控除額算定)

60歳時点:勤続38年/65歳時点:勤続43年/70歳時点:勤続48年
退職所得控除の計算式:

20年以下:40万円×勤続年数(最低80万円)

20年超:800万円+70万円×(勤続年数−20年)

退職所得金額=(受け取り額−控除額)÷2(マイナスの場合はゼロ扱い)
ケース① 60歳でiDeCo2000万円 → 65歳で退職金2000万円
(1) 60歳 iDeCo

勤続年数=38年

控除額=800万+70万×(38−20)=800万+1260万=2060万円

受け取り額=2000万円

退職所得金額=(2000−2060)÷2=マイナス→0円

iDeCoについては非課税。
(2) 65歳 会社退職金

勤続年数=43年

控除額=800万+70万×(43−20)=800万+1610万=2410万円
ここで「10年ルール」により調整が必要。
60歳でDC一時金を受け取りっており、その後65歳は10年未満(5年後)なので、控除額が重複調整される。実際には、60歳時点の38年分が既に控除で使われているため、「43年−38年=5年分」しか新たに退職金側の控除に使えない。

控除額=70万×5年=350万円

退職金2000万−控除350万=1650万円

退職所得金額=1650÷2=825万円
ケース①結果

iDeCo課税:0円

退職金課税:825万円

合計課税退職所得=825万円
税額計算:所得税825万×0.23−63万6000=126万1500円

復興特別所得税126万1500×0.021=2万6491円

住民税825万×0.10=82万5000円
所得税 126万1500円

復興税 2万6491円

住民税 82万5000円

税額計 211万2991円(約211万円)
ケース②60歳でiDeCo2000万円 → 70歳で退職金2000万円
(1) 60歳 iDeCo

控除額(38年)=2060万円

受け取り2000万円−控除2060万円=マイナス → 0円
(2) 70歳 退職金

勤続年数=48年

控除額=800万+70万×(48−20)=800万+1960万=2760万円

ただし、60歳のiDeCo受け取りから10年以上(70歳)経過しているため、新ルールでも控除はフルに適用可能。

退職金2000万円−控除2760万円=マイナス → 0円
ケース②結果

iDeCo課税:0円

退職金課税:0円

合計課税退職所得=0円(完全非課税)

税額 0円
5年ずらし戦略(iDeCo60歳受け取り:会社退職金65歳受け取り)では「控除の重複調整」がかかり、税額は211万円。
会社退職金受け取りを70歳まで遅らせれば、非課税で逃げ切り可能だ。
だから、iDeCoの出口戦略において会社の退職金の受け取り時期をコントロールすることが最も重要なのだ。
■会社員のiDeCoの活用方法と10年ルール対策
それでは、会社員の10年ルール対策について考えてみよう。
一般の会社員でiDeCoの受け取り金と会社の退職一時金の間隔を10年超にできる人はまずいないだろう。
iDeCoの受け取り金は60歳で受け取るのが最短なので、会社の退職一時金の受け取りは70歳以降にする必要があるからだ。
だから、多くのYouTuber税理士は10年ルールへの移行を「改悪」と言っている。
それでも、10年ルールの影響をできるだけ少なくする方法についてあげてみたい。
1)iDeCoを年金形式(分割受け取り)にする
一時金ではなく年金として受け取れば、「退職所得控除」ではなく「公的年金等控除」が適用され、10年ルールから逃れることができる。
例えば、60歳から64歳までの5年間でiDeCoを受け取れば、その間は公的年金をもらっていないので、「公的年金等控除」をフルに受けることができる。そして、65歳でもらえる会社の退職一時金には、退職所得控除をフルに使うことができる。

2)iDeCoを一時金+年金併用にする
一時金で受け取る部分を抑え、残りを年金払いで分割受け取りにする、
iDeCoの一時金部分を抑えると、会社の退職一時金と合計しても、退職所得控除の範囲内に収まる可能性が高くなる。
会社の退職一時金の受け取り時期を名実ともに70歳以降にできない限りは、退職所得控除と公的年金等控除の両方をうまく活用して、できるだけ税額を少なくする方法をとるしかないということだ。
「iDeCo受け取り時の10年ルールとは?」と同条件で考えると、65歳時点の退職所得控除額は2410万円なので、iDeCo受け取り金:2000万円のうち、410万円を65歳に一時金でもらい、会社退職金:2000万円と合算すると、退職所得控除が目いっぱい使えるので税額はゼロ。残りのiDeCo受け取り額:1590万円を60歳から79歳までの年金払いにすると約80万円/年となる。
そうすると、60歳から64歳までは公的年金等控除が60万円/年、65歳から79歳までは110万円/年なので、前半5年が課税所得計100万円、後半15年は課税所得ゼロになる。最小所得をベースに見積もると税額は約15万円。
これは一例だが、工夫の余地はありそうだ。
会社員にとっては10年ルールは「改悪」には違いないが、その中でも少しでも税負担を減らす手段を探っていくしかないことになる。

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浦上 登(うらかみ・のぼる)

コンサルタント

早稲田大学政治経済学部を卒業後、三菱重工業に入社、海外向け発電プラントの仕事に携わる。ベネズエラ駐在、米国ロサンゼルス営業所長などを歴任後、三菱重工グループの保険代理店に移り、取締役東京支店長。2009年にはファイナンシャル・プランナーの上位資格CFPを取得。2017年にサマーアロー・コンサルティングを設立、著書に『70歳現役FPが教える 60歳からの「働き方」と「お金」の正解』(PHP研究所)がある。


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(コンサルタント 浦上 登)
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