人に好かれる人、嫌われる人の違いはどこにあるのか。コミュニケーショントレーナーの司拓也さんは「人に好かれ、信頼される人は相手の感情に合わせた会話を心掛けている。
例えば、相槌は相手に興味を示し、大切にされているという実感を与えている」という――。
※本稿は、司拓也『信頼される人の話し方 軽く見られる人の話し方』(KADOKAWA)の一部を抜粋・再編集したものです。
■相槌は「あなたを大切に思っています」と伝える最強手段
「はいはい、そうですね、なるほど……」と、つい何気なく相槌を打っていませんか? 実は、これは「きちんと聞いていませんよ」と無意識に伝えてしまう、危険なサインになることもあります。
「相槌は誰でもできる簡単なもの」と思われがちですが、実際には奥が深いのです。
たとえば、あなたが信頼を寄せた営業担当や、話していて安心感を覚えたカウンセラーや医師のことを思い出してみてください。彼らは、必ずと言っていいほど、相手を思いやる温かさを感じさせる相槌を打っていたはずです。
なぜ、相槌がそこまで大切なのでしょうか。それは「あなたを大切に思っています」と伝えるための最強の手段だからです。
心のこもった相槌があると、相手は自然と話したくなり、信頼関係が深まります。そして本音を打ち明けてくれるようになるのです。信頼される人ほど、一つひとつの相槌に心を込めています。
機械的で心がない相槌
相手:「実は、転職を考えているんです……」

あなた:「はい、はい。
そうですか。なるほど」

相手:(本当に聞いているのかな……)
心に響く戦略的相槌
相手:「実は、転職を考えているんです……」

あなた:「そうなんですね……」(少し間を置いて、表情に関心を込める)「それは大きな決断ですね」

相手:(この人は真剣に聞いてくれている)「実は……」
■相槌は相手への贈り物
相槌は相手への愛情表現。心を込めなければ意味がない。
信頼される人は相槌を「作業」だと思っていません。相手の感情に合わせた相槌、話の重要度に応じた間合い。この組み合わせが、相手に「大切にされている」実感を与え、深い信頼関係を築くのです。
明日から使える「相槌のバリエーション」

「なるほど! そうなんですね。そのお話もっと聞きたいです」

「そうでしたか……」(3秒の間)「それは大変でしたね」

「私もその意見に賛成です! 同じ意見で嬉しいです」
もし相槌のタイミングが分からないときは相手の息継ぎや、語尾の変化を意識しましょう。話が一段落した瞬間が、相槌の絶好のタイミングです。
また、相槌のときは必ず相手の目を見て、表情で共感を示すことが大切です。「そうですね」の一言でも、笑顔で言うのと無表情で言うのでは、相手の受け取り方が全く違います。
最初は意識的に相槌のパターンを増やし、徐々に自然にできるようになりましょう。
相槌は「反応」ではなく、「相手への贈り物」だと考えることから始めてみてください。
■軽く見られる人は、「なんで?」で相手を追い詰める
「なんで、こんなミスしたのかな?」
同僚の失敗、取引先の誤解、そして自分自身のうっかり。思わず口をついて出そうになりますよね。
しかし、もしあなたが周囲から信頼を得て、どんな問題も解決に導く人でありたいと願うなら、今後、この言葉は封印しましょう。
「ミスには厳しく対処すべきだ」「原因の追及は大切じゃないか」という声が聞こえてきそうです。もちろん、その通りです。
しかし、心理的安全性の研究では、失敗を責める文化を持つ組織やチームは、イノベーションが生まれないだけでなく、ミスの隠蔽が横行することが証明されています。
一方、「失敗から学ぶ文化」を持つチームは、生産性が高く、メンバーの結束も固いという結果が出ているのです。
では、どうすればいいのか?「FACT質問法」を活用しましょう。
1.Facts(事実):何が起きたか

2.Actions(行動):どう対応したか

3.Causes(原因):なぜ起きたか

4.Tools(対策):どう防ぐか
この「順番」が全てを決めます。
多くの人が、つい感情的に「3、なぜ(Causes)」から入ってしまいます。これでは相手を「言い訳モード」「防御モード」に追い込むだけです。

「FACT質問法」を実践すると、相手は「ミスを報告しても、この人は感情的に責めない」と安心し、問題が小さいうちに、隠さず相談してくれるようになります。
■同じミスが何度も起きてしまうワケ
問題解決のプロは、感情を脇に置き、まず「What(何が)」から始めます。
「落ち着いて。何があったか教えてくれる?」
この冷静な一言が、相手を「パニック」から「冷静な報告者」へと変えるのです。
事実が分かれば、次の一手も打てる。原因の追及は、それからでも決して遅くありません。
あるプロジェクトで、同僚がお客様への提出資料にミスをしたことが発覚した場面を想像してみてください。
真実が隠される詰問
あなた:「なんで確認しなかったのかな! あれほど注意するように言ったのに!」

同僚:「す、すまない……(本当は、急な仕様変更の連絡が見落とされやすい状況だったんだけど、今それを言ったら言い訳だと思われるだけだ。黙っておこう……)」

→結果:根本原因が共有されず、後日、別の人も同じミスを繰り返してしまう。
■「謝らせる」より「防ぐ仕組み」を作る
真実が明らかになる質問
あなた:「落ち着いて。まずは状況を整理しよう。何が起きたか教えてくれるかな?」

同僚:「お客様に提出した見積書の金額を、一桁間違えて記載してしまったんだ。
すまない」

あなた:「わかった。教えてくれてありがとう。今、どこまで対応している?」

同僚:「先ほど気づいて、すぐにお客様へ謝罪の連絡をして、今修正版を準備しているところだよ」

あなた:「素早い対応だね。助かるよ。ちなみに、何か原因で気づいたことはある? 情報共有の仕方とか、システム面でやりにくいこととか」

同僚:「実は、昨日の夕方にチャットで仕様変更の連絡があったんだけど、他の通知に埋もれてしまって……。他のメンバーも見落としがちだと言っていた」

あなた:「なるほど、それは重要な情報だ。共有方法に課題があったんだね。一緒に再発防止策を考えよう。重要な変更連絡は、別の方法で周知するルールをチームに提案してみないか?」

→結果:ミスを個人の責任にせず、チーム全体の課題として捉え、未来のミスを防ぐ仕組みづくりにつながった。
■問題をこじらせるか、成功の種に変えるか
感情で裁くな。事実で解決せよ。ミスした相手を責めても、人間関係が悪化するだけで、何も生まれません。
大切なのは、次に同じ問題が起きないようにすることです。
「なぜ」の前に「何が」。この順番を意識するだけで、あなたの周りには安心感が生まれ、あなた自身もより的確な問題解決ができるようになります。それが、個人とチームを共に成長させるのです。
明日から使える「問題解決」フレーズ集

1.「状況を整理しよう。時系列で教えてくれるかな?」

2.「まずは事実確認から。何が起きたか、ありのまま教えてくれますか」

3.「お客様のために、今すぐできることを考えましょう。原因は後で一緒に分析しましょう」
もし、どうしても感情的になりそうなときは、一度、深呼吸して10秒数えてから話し始めてみてください。さらに、「実は私も昔、似たような経験があって……」と自己開示することで、相手の過度な緊張を和らげ、本音を引き出しやすくする効果もあります。
ミスは誰にでも起こります。そのとき、あなたの言葉が「問題をこじらせる」のか、それとも「未来の成功の種に変える」のか。すべては、あなたの一言から始まります。


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司 拓也(つかさ・たくや)

コミュニケーショントレーナー、「ボイス・オブ・フロンティア」代表

コミュニケーショントレーナー。声と話し方の学校「ボイス・オブ・フロンティア」代表。2万人以上のコミュニケーションの悩みを解決。「信頼される人になるには何が必要か?相手から軽んじられない人になるには?」を徹底的に研究。話し方、声の出し方、心の状態、印象の整え方を学び、「信頼とは、言葉・声・表情・メンタルが一致している状態である」と定義づけた。この“シンクロニシティ・プレゼンス(言葉・声・心が自然に一致し、信頼感を引き出す在り方)”をどうすればつくれるかを体系化し、同じような悩みを抱える人に伝える中で、グループレッスン、個人コンサル、企業研修で高い成果をあげる。著書16冊、累計20万部超。お問い合わせ tsukasamail1@gmail.com 著者Webサイト https://tsukasataku.com/

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(コミュニケーショントレーナー、「ボイス・オブ・フロンティア」代表 司 拓也)
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